13.基地の崩壊
「……クローン……複製」
Kは声に出し、また詰まらせた。
リュウは燃え盛る目で睨みつけた。
「そうだ……俺の体細胞から造られたクローン。父はそんなお前を死神Kに造り変えた。笑うだろう。まさに悪魔の所業だ」
その時、闘技場に響き渡ったのはゼブラスの声だった。
「諸君! 感動のご対面だな! 打ち震えてフォレストンの力も尽きたようだ」
察した通り、フォレストンの念動力は弱っていた。
五十メートルほど離れた闘技場の入り口から、ゼブラスはジャガールの腕を掴み引きずって来る。
ゼブラスは戯け混じりに言い放つ。
「これはこれは前将軍のガイセル様……いや、死に損ないのリュウ・ドラグナイト様か!」
「……ゼブラス、貴様!」
「姫をくれてやる。死ねええええーーっ!!」
ゼブラスは気を失ったままのジャガールをいとも軽々とリュウのもとに投げつけた。
飛んでくる肢体。
Kは床を蹴り爆風とともに両手を広げ彼女を受け止めた。
衝撃で体が反った隙を襲ってくるゼブラス。
Kはバックルから吐き出す逆風でその剣を避け、着地し彼女を床に下ろした。
さらに剣を振るい飛びかかってくるゼブラスにKは渾身のキックで立ち向かった。
その右足は紫紺に渦巻き、強大な破砕波を放つ……!
「うがああああ!!」
ゼブラスの剣は砕け、赤縞の鎧も骨も肉も粉々に飛散した。
そこで闘技場に灯りが点き始める。
フォレストンはKに告げた。
『……ネオ・ブレインが復活する。副動力が作動し始めた。ここまでなんとか抑えてきたが……もう限界だ』
虫の息でリュウは左手をかざした。
「……お、俺の……祖国……母よ……父よ」
するとそこまで場を静観していたKのバイク・メタルブロウの中のグリーンが呼びかけた。
フォレストンは感じていた。そこにグリーンの魂があると。
グリーンはタイヤの足でリュウの傍らに移動してくる。
『……リュウ君。グレイヴス国に兵器を売り、焚きつけたのは他ならぬナピスだ。ギルミアを滅亡に追いやったのはナピスともいえる。組織はこの国だけではなく世界各国に武器を売り捌き、手玉にとっていた。君は利用され、洗脳されただけだ』
うずくまるリュウの目には涙が。
グリーンは続け、訊ねた。
『ネオ・ブレイン……いや、リガル・ナピスの亡霊が君の分身=Kの身体を使い、蘇ろうとしている。……もしや君はそれを阻止しようとしたのか?』
リュウは突然むくりと起き上がった。
『……フッ……美談にする気などない。俺は俺を取り戻したかっただけだ』
リュウはそう言い、黒焦げの体でよろめきながらグリーン=メタルブロウのシートに跨った。
『グリーンあんたも、父も……そして俺も責任をとらねばならない』
デモリスヘッドのフォレストンはリュウの肩先に寄り、頷いた。
『わかっているとも』
闘技場が揺れ、電子音が飛び交う。
フォレストンはKに思念を送った。
『K、彼女を連れて早く去れ!』
起動しているメタルブロウ=グリーンも送る。
『別れだK。だが私はいつも一緒だ。そして決して自分を卑下するんじゃない。その存在こそ尊いのだから』
リュウはその上で静かに息絶えた。
『早く!!』と叫ぶフォレストンに圧され、Kはジャガールを抱きかかえた。
鋼鉄の要塞からの脱出。
爆風を纏い、Kは出口を目指した。
『すまなかった。グリーン私は……』
『我が師フォレストンよ。いいんです。私は自ら改造を申し出た。恩師であるあなたの力になれればと、ただそれだけで。そして私もあなたを救えなかった……』
二人はリュウの亡骸と共にメインルーム地下、ネオ・ブレイン心臓部の主動力炉に突っ込んでいった……。




