12.炎の決戦
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ゼブラスに斬られたジャガールは床に倒れる。
フォレストンは我に返り、ゼブラスを止めた。
『……まさか、息子は……リュウは生きているのか?』
身動きがとれないまま、ゼブラスは返す。
『そうだ。あの改造手術で確かに死んだが、我々は秘密裏に蘇生させていた。お前の血族だからな。惜しかったんだよ。記憶は失くしたが、仮面を被せ、リュウは生かしてある』
グレイヴスギルミア戦争で駆逐艦が海に沈んだ時、ネオ・ナピスは瀕死のリュウを拉致した。
Dr.キラムは彼を手術し改造を施したが、心肺機能の低下で体力を失ったリュウはリブラスト体にも適合しなかった。
そして彼の心臓は止まった……。
『素顔のリュウに会わせてもくれずに! お前は何もかも騙していたんだなキラム!』
『息子を救い上げ生かしておいたんだ。感謝しろ。あいつはマスカルズを束ね、勇ましく振る舞った。立派だったよ』
『……まさか……リュウは』
『それより見ろフォレストン。今闘技場で二人が対峙している』
壁のモニターに二人の姿が映し出される。
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向かい合う二人、Kとガイセル。
Kはまたあの時と同じように体が硬直していた。
ガイセルの睥睨の前にひざまずく。ガイセルはKの右足を指した。
「奴か……グリーンは死んだのか?」
「……し、死ぬものか……僕の中で……Dr.グリーンは生きている」
「フッ。さらにパワーアップしたお前を歓迎する。最強の素体。ネオ・ブレインには渡さぬ。私のものだ」
ガイセルの右掌から強い念波が送られ、Kの頭蓋を軋ませた。
「うぅ……うあああ!!」
「Kよ。これはお前の運命。お前は元より〝私〟なのだ」
その時、ガイセルの前に一人立ちはだかる男それは獅子の武人、ライオーだった。
「な、何の用だ貴様!」
その黄金に光る牙、ライオーは次の瞬間ガイセルの右腕を噛みちぎった。
「うぐっ! ……ち、血迷ったか! ライオー!」
床に転がるガイセルにその腕を投げつけ、ライオーは冷ややかに見つめた。
「闇に身を潜めていたなガイセル。お前が現れるのを待っていた。これは同朋ブライノスの仇。何故あいつを殺した? あの男は死力を尽くして闘ったんだ。何故」
悶えるもガイセルは立ち上がり、答えた。
「武に生きたとはいえ敗けては意味がない。そもそもブライノスはKを見逃し、結局破れた。酌量の余地はない」
「しかし、生かせばまた挑めた」
「奴は死を覚悟していた。その誇りを尊重したまで」
「情けはないのか?」
「介錯も情け。そういうものだろう武士道とは。それに何度Kに挑んでも同じことよ」
「だが殺すには惜しかった。戦いの美学を持っていた。俺たちは使い捨てじゃない!」
「勘違いするな元日本兵よ。これは決闘ではなく戦争だ」
ライオーのたてがみに生え際から稲妻が走った。
「冷酷非情な鎧人形め!」と身構え、Kに退けと促す。
「K! 先ずはこのガイセルと決着をつける。そして俺もお前に勝負を挑む」
ガイセルは左手で剣を抜いた。
銀と金の火花が飛び散る。
ぶつかった二人は一度離れ、また切りかかり、また爪で引き裂いた。
鈍い金属音、立ち昇る煙。
ライオーはサンダーボルトファングでガイセルの仮面を砕き、ガイセルは生体周波ソードでライオーの胸を突き刺した。
相討ち、唸り声とともに二人は崩れ落ちた……。
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再びメインルーム。突如モニターが消え、辺りは暗闇に。
ゼブラスが声を轟かす。
「我らが神、ネオ・ブレインよ! このジェネラル・ゼブラスに力を!」
フォレストンは告げた。
『キラム……いや、ゼブラスよ。今私がネオ・ブレインの動力中枢部を断った』
『……潰すつもりか。だが今ここで我々を排除し下等な人類を野放しにすれば、いずれこの世は滅びるのだぞ?』
『全てネオ・ブレインの幻想だ。自ら撒き散らした兵器に怯え、転嫁しているに過ぎん。仮にデータが確かだとしてもお前たちの台頭は許さぬ……私は人類を信じる』
ゼブラスは立ち尽くす。
フォレストンであるデモリスヘッドは床に伏すジャガールを残したまま姿を消した。
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砕けた鎧の中で蠢く炎。
やがて炎に包まれ、ガイセルは起き上がった。
その真の姿を見たKは驚愕した。
それは竜の姿のマスカルズ、〝ドラグナイト〟であった。
Kは咄嗟にブラストハンドを構える。
だが、死闘の果てのドラグナイトは弱っていた。
喘ぎながら炎を吐き、左手を伸ばし歩み寄る……が、また倒れた。
Kは気を鎮め、言った。
「やめよう。お前はもう戦えない」
「……ぐ、ぐおお……K! お前の体をよこせ! お前は私なのだ、私がオリジナルだ」
仮面を失くした彼の声はKそのものだった。
その時二人の間にデモリスヘッド=Dr.フォレストンが現れた。
もがき突っ伏すドラグナイトに声を送る。
『……リュウ。我が息子よ』
それはKにも聞こえていた。
『え?! まさか……彼が……リュウ』
『そう。このドラグナイトは私の息子。そしてケイ。お前もな』
ドラグナイトの戦闘形態がついに解かれ、リュウの素顔が露わになる。
「み、見るな! この顔を……」
それは焼けただれた目の辺りの皮膚。その部分以外はおぞましい角の生えたドラグナイトのままだ。
宙に浮くデモリスヘッドの潰れた目尻から雫が垂れる。それは涙か。
Kは、それがフォレストンの成れの果てかと困惑しながら、もだえるリュウの姿に身震いした。
フォレストンは嘆いた。
『……すまなかったリュウ。私は絶望の果てに悪魔に魂を売った。戦争で妻を失い、お前も……。私は……私はお前が実はそばにいることも気づかず、ただ狂気に飲まれ、研究に没頭した。お前を救えなかった』
リュウは微かに記憶を取り戻していた。
しかし怒りを床を打ちつけた。
『……今更……戯言だ……』
『リュウ。私は間違っていた』
『俺のことなど……それより母を、祖国ギルミアを失った傷み、恨み、怨念、復讐心! 忘れてはならぬ! あんたはただただ人体改造に勤しみ、死なない人間を造り、最強の国家建設に尽力すればいいのだ! ……リュウなどもうこの世にはいない!』
リュウは血を吐き、声を張り上げ指差した。
「Kよ! お前をネオ・ブレインには渡さん! ……元々お前は俺……。お前は、俺のクローンなのだ!」