11.逆襲のガイセル
一直線に爆音を轟かせながらKは空を翔る。
その青い目の点滅は正面真っ向から迫るマスカルズを感知した。
黒い鯨のような飛行戦艦ドランホエイル、そしてその長大な背に砲台の如く立つのはオックスキャノン。猛る雄牛が嘶く。
『K! 散々仲間を殺りやがって! 俺は許さんぞ、何が生け捕りだ! ブッ潰してやる!』
オックスキャノンの肩、胸、腕からの一斉砲撃。
Kが前傾し深く身を沈めると、メタルブロウのボディが展開し、その白い装甲がKのほぼ全身を覆った。
青白い光の塊となったKがミサイルを粉砕してゆく。
両者は交差し方向転換する。
ドランホエイルからついに発射されるレールガン。
しかしそれでも巨大に渦巻く分子破砕線=Kには通用しなかった。
灰と化し、地に散ってゆくオックスとホエイル。
Kの装甲はパタパタと解かれ、元の姿に戻された。
宙を揺れ落ちる灰を背に、Kはただ真っ直ぐにナピス基地を目指した。
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女戦士ジャガールが目指すのはナピス基地のメインアソシエーションルーム。
大小のモニターとランプの光が照明を兼ねる大広間。
待ち受けるロボット兵、マスカルズ数体、脳以外は機械化された蜘蛛男・デスパイダーを殲滅し、彼女はそこへたどり着いた。
白煙に包まれた巨大なスクリーン中央の玉座に誰かが座っている。
彼は声を低く響かせ言った。
「ようこそ、麗しきジャガール。ならびにデモリス……いや、Dr.フォレストンよ」
ジャガールの左肩、デモリスヘッドが宙に浮く。
玉座の男は立ち上がり、闇からゆっくり顔を露わにした。
デモリスヘッドの動きが止まった。
男はあざけり言い放った。
「フフ……ハハハ! さすがに驚いたか、フォレストン! そう、俺は貴様の息子のリュウだ!」
広間に響き渡る。
デモリスヘッドは静止したまま。
「わかっているぞフォレストン! 貴様は自ら、脳をその中に移植した! 我らが神ネオ・ブレインは先の戦いでデモリスの動き、仕草からそれはフォレストンと同一だと割り出した。貴様はいつしか老衰した身体を捨て、デモリスそのものになったのだ」
『……そんなところだ。だがお前はリュウではない。顔をコピーしただけで何もかもが違う』
リュウの顔を持つ男の脳にデモリスヘッド=フォレストンは語りかける。
『私は首から下を失くした代わりに未知の力を得た。脳波で全て聞こえる。お前の名はゼブラス。ネオ・ブレインがお前をそう呼び、指図している。この私を殺せと。……元はDr.キラムだったはずが、今は縞馬の皮を被るか?』
偽のリュウ=ゼブラスはみしみしと鎧を軋ませた。
『貴様に余興は通じぬか。では直ちに殺すのみ』
顔が裂け、男は縞模様の鉄面をさらけ出した。
大型の剣を抜き、剣先をフォレストンに向けた。
『この裏切り者めが!』
フォレストンはジャガールを意のままに操った。
剣を振り回すゼブラスに早くも焦りが。
――か、体が重い! ……奴の念動力! ジャガールの基本スペックなど儂よりはるかに下回るはず……なのに。
高周波クローがゼブラスの胴をかすめる。
フォレストンの朱色に光る目が冷酷に見つめている。
奴を抑えねばと、ゼブラスはジャガールの攻撃を辛くも躱しながら、念じた。
『聞こえるかフォレストン! ……一つ教えてやろう。先ほどの復元された〝リュウの顔〟は本人の皮膚細胞から移植されたもの。そう、貴様の息子はまだ生きているのだ。あの時ドラグナイトに改造され、失敗したが死んではいなかったということだ』
その瞬間ジャガールの動きが止まった。
ゼブラスの呼びかける念波にフォレストンは動揺した。
その隙をつき、ゼブラスはジャガールに斬りかかった!
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メタルブロウの導きで、Kはついにネオ・ナピス基地に降り立った。
そこは北東部の、断崖と一体になった広大な機械の要塞だ。
臆せず、アクセル全開に突き進む。
鋼鉄の床と壁と階段を自在に駆る。その惨状を尻目に。
「ロボット兵の残骸……戦闘の痕跡。どういうことだ?」
突き進むKの前に現れる、銀の鎧を纏う男。
ギラリと光る抑圧に、Kは停まった。
歩み寄る男、それはガイセルだ。