10.反撃の空
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ショーンはケイに言った。
「ケイ君。君だけ行かせるのはつらい。俺にもし力があるなら」
「……うん。気持ちだけでも。ありがとう」
「Dr.グリーンはまだ……いったいいつまで」
ショーンがウロウロしているとカードックのシャッターが開く音が。
二人が向かうと地下エレベーターからメタルブロウが運ばれていた。
ショーンは首を傾げる。
「バイクだ……け? あれ、博士は」
ケイは愛車のハンドルを握り、ショーンに言った。
「Dr.はまだベッドに横になってる。このブロウに全精力を注いで」
空は晴れ渡った。
ケイはショーンと固く握手した。
「ケイ君、気をつけて」
「君の手。あったかい」
「そうかい? 冷え症ではないからな」
「真実を知りたい。ガイセルに会わなければ」
「うん。今の君なら負けないさ」
「……ショーン。言葉が欲しい。どう、ジュリアは無事だと、僕は信じていいと思う?」
「……ああ。きっと無事さ」
「心強い。ありがとう、じゃ必ず帰ってくるから」
そう言って微笑み、Kの姿で発った。
向かうはアジト、ネオ・ナピス基地。
弾丸のように空を駆るメタルブロウ。
膨大な風のエネルギーを幾重にも吸収し小型原子炉に蓄積しながらKはブロウと一体になる。
時が過ぎ、Kはグリーンにコンタクトをとった。
『……Dr.。ドク。僕の声が?』
ブロウのセンターディスプレイが赤く輝く。
『……聞こえるよ。どうだね? 右足の具合は』
『ええ。まだ疼くけど徐々に自分の足のように。本当に感謝しています』
『馴染んでよかった。君に私の戦力、能力、記憶まで与えられたらと思う』
『記憶?』
『脳だけではなく、身体も記憶するものだ。細胞が記憶する』
Kはグリーンから移植された右足が活力を増すのを感じた。
『ドク、今あなたの波動が!』
『……増強されたはずだK。君の戦いは一人じゃない。私がついてる』
『ドク。あなたは本当に』
『そう。私の精神……魂はこのメタルブロウにある』
遠ざかる声。
『鋼鉄の風……私はメタルブロウ。君の友だ』
そして迫り来る炎!
高度二万メートル上空から一体のマスカルズがKを急襲する。
『見つけたぞK! 貴様を回収する』
『ヘル・ファイアフライか!』とKの反撃。
グリーンとの融合はマスカルズ同士の念話を可能にした。
『ほぉ! Kよ、俺の名をいつ知った?』
繰り出されるファイアーボールがメタルブロウのボディをかすめる。
旋回――グリーンから譲り受けた真紅のマフラーをなびかせるK。
右腕を伸ばしブラストハンドにスイッチする。
連射される炎の玉、対する青白い光刃。
『ファイアフライ。君もキラムに騙された不運な科学者だった』
『な、何故貴様が俺の過去を』
Kの声が反響する。
『君を救えなくてすまなかった』
『はあ?!』
炎を一切寄せつけず、ブラストハンドがファイアフライを一閃に斬り裂いた。
『な……何者だ……キ、キサ』
『マスカルK。そしてマスカルGの力を得た』
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そこはネオ・ナピス基地。
幻獣ユニコーンに似せたユニスピアと縞馬タイプのゼブラス、二人は並んでモニターを見ていた。
「野良猫が迷い込んだようだ」
ゼブラスが画像を拡大する。
「いや、野良……ジャガーだ」
「ではゼブラス。出世の餞にジャガーの首を獲って差し上げよう」
「はっはっは。いよいよ儂が新たなジェネラルとして切り拓かねばな。だがジャガーの首は二つあるようだ」
「なんと?」
基地内の闇の闘技場。
無になり、ユニスピアが待ち受ける。
謎の侵入者の波動をすかさず、突く。
光る槍・粒子ビームスピアがその者の肩をかすめる。
ユニスピアの手応えは確かだった。
「うぬぅ……やはり頭が二つある」
ユニスピアは指差す。
「何が目的だ? コードJのジャガールよ!」
それはマスカルJ。ジャガーのような女戦士だ。
その肩には、
「それともジャガール、肩にのせた〝デモリスの頭〟に聞くべきか?」
するとジャガールの左肩にいたデモリスヘッドが宙に浮いた。
ジャガールの眼光が一度消え、また輝いた。
「フハハハ。デモリス、貴様がジャガールを操っておるな? この女を使って我らに挑むつもりか」
その一角に稲妻が走る。
前傾姿勢でジャガールは身構えた。
「舐めおって!」
放たれるビームスピア。数十もの光の槍が飛ぶ。
だがデモリスヘッドは消え、ジャガールは鞭のように体をしならせ槍と槍の間を縫って滑り込んだ。
増幅された反重力装置で彼女は一瞬でユニスピアの背中を捕らえた。
そこで高周波クローを叩き込む。
「うあああ!」
黄色く煌めく爪がユニスピアを切り刻んだ。
彼が悶えるも構わず角をへし折るジャガール。
そしてその一角はそのまま持ち主の胸に押し返された。
ふわりと着地し、ジャガールは左腕を伸ばした。
幽霊のように再び現れるデモリスヘッド。
それはまた彼女の肩に載り、次へ進めと命じた……。