チュートリアル
漂う肉の焼けた香ばしい匂い、通りすがりに聞こえる鎧や武器の心地良い音、壁に掛けられている木の看板。
「あぁ~~、いい!!凄くいい!!!」
正にRPGといった感じの中世ヨーロッパ風の家も相まって現実よりもよっぽど生きてる!って感じがする。と感心していたり景色に見入ったりしていると、
「きゃあああああああああッ」
若干アナウンスっぽい声の悲鳴が辺りに木霊するが誰もそれを気にする様子を見せない。
聞こえてないのか?と思っていると直ぐにこの世界についての説明があったからこれもこれから起こるであろう事もチュートリアルで間違いないだろう。
世界の説明を受けて初めて気が付いたのだが所持金は0だ。
はぁ、
でも残念がっていても何も始まらないしさっさとチュートリアルを終わらせよう。
そう思い、現実よりも少し、いや2倍くらい軽くなった体の感触を確かめながらゆっくりと悲鳴があった路地裏に入っていく。
するとそこには少しばかり震えながら尻餅を付いている女性とグヘへという少し気色悪い声を出しながら女性を襲おうとしている男性がいた。
うん。凄くチュートリアル。
それにしてもステイタスの恩恵凄いな。でもこれだけ身体が軽いとなると種族を吸血鬼にしたのは正解だったかもしれな----
「あああッあああぁぁッぁぁぁぁぁぁぁぁッぁぁぁぁぁ!!」
ナイフを持って発狂しながら突っ込んでくる男ってのには少しばかり恐怖を抱くが、流石チュートリアルというべきか割と遅い。
このレベルなら初戦でも落ち着いて対処できる。
鈍間な男によって突き出されたナイフを余裕をもって回避し、腰の捻りも入れて男の鳩尾に拳を突き刺す。
やはりチュートリアルだからだろう。さっきまで発狂していた男は一撃で気絶した。
ドゴンという鈍い音が拳に直に伝わり少し気持ち悪いが現実のものよりは心に優しいのだろう。
「あっあのっ、ありがとうございます!」
尻餅を付いていた女性は男が倒れた事である程度気持ちを持ち直したようだ。
とはいえ女性はまだ怯えているしここは紳士的な言動を心図けた方が良さそうだ。
「いえ、偶然通り掛かっただけですので。それよりも怪我はないですか?」
「はいっお陰様で。本当にありがとうございました!」
そう言って笑ってみせた彼女はとてもNPCには見えないが、カーソルの上、、に、NPCとで、てない!?
でもこれはチュートリアルのはず・・・。
ただのバグならいいんだけど・・・
「お礼です!!受け取ってください!」
「そんなお礼なんて、、、」
「これは私の気持ちです受けって下さい!!」
これ以上彼女の気持ちを卑下にするのも失礼だし受け取ろう。
彼女が差し出しているの袋の中身は金のようだ。
なるほど。
開始時の所持金が0だったのはこのチュートリアルで受け取る金が初期の所持金だったからということだな。
てことで、
「よし!、取り敢えず観光するか。」
と思った矢先。
「お・にい・・ちゃ・ん?」
8、9才ぐらいだろうか。
黒く艶のあるストレートの黒髪に幼いが整った顔立ち、簡素・・いやただの布に穴を開けただけの服。
紛うことのない美幼女だ。
しかしお兄ちゃんとは誰の事を言っているのだろう?
助けたNPC?は女性だし、あの変態が兄だとすれば倒れた時点で泣く又は心配する等の行動を起こすだろう。
・・・・・・・・・・・・・もしかして、俺か?
いやいやいや俺妹いないし。・・・うん分からん。
だからと言ってこんな小さい子を放置して観光するわけにもいかないな。取り敢えず話してみるか。
「え~と、こんにちは?」
すると幼女は少しばかり涙を浮かべて
「お兄ちゃん!」
ん?
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
ん?んん?やっぱり俺?
おいおい母ちゃんハッスルしたんだったら言っといてくれよ。ってなわけあるか!!
「え~と、君は?」
「ん?お兄ちゃん、きおくそうしつ?」
誰かと勘違いをしてるのだろうか。
どうしたのものか。タグが出てないからNPCかプレイヤーかも分からないし。
この子は俺のことをお兄ちゃんだと勘違いしてるみたいだし、そもそもこんな可愛--ちっちゃい子ほっとけないよな。
取り敢えず話を合わせよう。、、、って思っちゃう所が日本人らしいな。
「そうみたいなんだけど、君が誰か教えてくれると嬉しいな~。」
「そうなんだ、、、あのね、わたしはリーナっていうの!すこしずつでいいからおもいだしてくれるとうれしいな、、、」
リーナ、リーナか。
そっかこの子、、リーナにとっては実の兄が記憶喪失ってことなんだもんな、、、。
何か悪いことしたな、いつかちゃんと説明しとかないといけないな。
さて、このまま養うにしろ数日だけ一緒に親を探すにしろ金がいるな。
だがそうなるとギルドに行って日雇いの冒険者になるかそこら辺の店でバイトをするかぐらいしかない。 こうなると冒険者だな。折角のゲームなんだから冒険もしたいしな。
そこまで決めてから路地裏を抜け、リーナと一緒に初めにいた道の突き当りにあるギルドへと歩を進めた。
この時はこの決断が荊の道だとは知りもしなかった。
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