表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生き抜くために今日も心は叫ぶ  作者: 七口 ロキ
5/7

第4話〜そして青年は力を得る〜






『それでは、これより感情術(エモート)の適正感情を測定します。黒碑(モノリス)に手を触れてください。』





............................................................................................................




メディカルチェックを終えた俺達3人が、測定に呼ばれたのはそれから2時間弱が経った時だった。1人ずつ呼ばれていく形式で外部入学生はその最後あたりだったらしい。タイセイが先に呼ばれ、測定室に入って行ったのはつい数分前の事だ。

その後俺の名前が呼ばれハルに手を振って離れる、ハルはガッツポーズを取りながら俺を見送ってきた。いや、頑張っても結果にそう変化はないと思うのだが。


............................................................................................................


呼ばれた扉に入り案内の教師に付いて行くと研究所のような場所に行き着いた。



真っ白な研究所の一室、そこの実験室のような広い室内で、俺は機械から出てきた様な声に従って、目の前に鎮座している真っ黒な石板のような物に近づく。

床、壁、天井まで真っ白な部屋にも関わらず、その物だけは異様な程に黒く、そして研究所のような場所には似合わぬ形をしていた。


古びた石板、いや、何やら読めない文字が羅列されている所を見ると石碑、と呼称した方がいいだろうか?

縦は俺の肩辺りの高さで横は俺の身長の倍近くある。形状は横倒しにした長方形に近い形だが、削ったり割ったり等をしただけの為、世辞でも綺麗な形をしているとは言えない。石碑表面も研磨などは施されておらず、ある程度四角に似せた台形の石碑のようだった。

その背面にはいくつもの電極が取り付けてありその先には何を計測しているのかわからないメーターが針を動かしている。


「これが…黒碑…」


俺は自分以外誰も居ない部屋で1人呟く。

黒碑、前文明のオーパーツと言われる不思議な力、もっと言えば時代違いな力を宿した不可思議な物体、そのひとつだ。あるものは無色透明の髑髏であったり、ある物は未知の金属で打たれた剣であったり。

様々な形があり、出土した時代、場所もバラバラであるがその中秘められた力は皆一様に同じものであった。


感情術を発現させる為の喚起装置。感情術について今一度補足説明すると前文明終期に実用化として開発された人間が発現させる感情を様々な力場に変換させ、超常現象を起こす超能力の総称の事だ。


ある者は風を起こしある者は火をまたある者は水を生み出すことができる。

しかし、感情術には発現キーと言われる能力を発動させる為に必要なある一定の感情が個人事に決められている。

そして、その発現キーの感情によっても発動できる超常現象の種類に違いがあるのだがここでは割愛しておこう。


要はその感情術という摩訶不思議な能力を行使出来るようになる為に、目の前にあるオーパーツに触れて適正のある感情を測定、喚起をしてもらう必要がある。喚起が終わると発現キーとなる感情を表す紋、感情紋を自身の身体の好きな所に焼付ける。

感情紋が身体に馴染めば晴れて感情術師(エマーター)と呼ばれ、国防を担う機関、国軍に兵役可能となる。


「やっとだ、これで俺も感情術師になれる……!」


俺はさらにその石碑に近付き、片手で石碑表面に触れ、目を閉じた。少し子供っぽいはしゃぎ方だが、ずっと待っていたのだからこれくらいは許して欲しい。


『測定を開始します。』


アナウンスの声が再び聞こえ、俺は体に力がこもる。別に力んだところで差はないとは思うのだが、心の持ちようと言うやつだ。


「(どんな適正感情になるんだろうな…)」


十中八九、無感情適正術者(フィレスエマーター)になるだろうが、ロマンというものは持ってなんぼのものだ。無論無感情適正術者になったとしても極めることさえ出来れば十分一兵卒として活躍出来る。ないものねだりしてもしょうがないのだ。与えられた適正感情としっかり向き合っていこう。

ふとそんな事を考えていると突然『ビー!!』とブザー音がなる。

慌てて目を開け、辺りを見回すと黒碑の後ろ側に置いてあるメーターの針が中央の0の位置に止まった状態だった。わけも分からずキョロキョロしていると後方から何人かの走り音が聞こえてくる。


『適正感情の測定が完了しました。これより、感情紋(かんじょうもん)焼着(しょうちゃく)シーケンスに入ります。対象者の方は感情紋を焼き付けする部位を思い浮かべてください』


周りの雰囲気とは裏腹にフラットな声でアナウンスが流される。

焼き付けする部位を思い浮かべる?こんな状況で?足音は徐々に近付いてきてとても平常とは思えないのだが。


『焼着位置の移譲を感知しました。これより、オートにより部位を選定、焼着シーケンスに入ります。』


直後に自分の利き腕、前腕部にとてつもなく熱いものが押し付けられるような感覚におそわれる。しかしそちらを見て見ても特に焼かれるような熱いものも無ければ煙や湯気なんかも出ていない。所謂幻覚のようなものに襲われている、という事だろう。しかしその幻覚も少しの間だけで直ぐに何事も無かったかのように痛みも消えた。


直後に勢いよく開かれる扉、数人の白衣を着た大人達と教師がゾロゾロと中に入ってくる。その中の一人がメーターの方に駆け寄ると止まった針を見て驚いていた。


「そんな!?周囲の力場が完全に0になっている!」


「ばかな!黒碑のすぐそばだぞ!?喚起をしやすくするためにここにどれほどの感情力場が作られていると思ってる!」


「ですが確実に感情値が、し、消滅しています!」


大人達が慌ただしくしている原因は俺にはイマイチ分からないが、とりあえずこれが通常では無いということは理解ができた。俺に向けられる視線が痛い。


気まずそうにしていると白人姿の男の1人がずいと近付いてくる。

高身長ではあるが多少丸まった背、整った顔立ちだっただろうに目元についた隈と痩けた頬、剃り忘れた顎髭が相殺して全体的に残念な感じに仕上がっている。しかしながらインテリメガネの奥から覗く眼光にはとても彼が単なる残念研究員では無いと裏付ける力が宿っていた。

悪い事をしたつもりは一切無いのだがこういう状況になると目を逸らし逃げ道を探すのは人としての性なのだろうか?

その衝動虚しく何も出来ずにいると男は手の届く距離まで来て、俺の事をまじまじと見つめて来た。


「黒井サカネくん、だったかな?私の名前はDaniel(ダニエル) Clark(クラーク)。ここの研究室の管理を任されている者だ。悪いが今焼着された感情紋を見させてもらってもいいだろうか?」


「あ、はい」


白衣姿の男、ダニエルに従い焼着された部位、左腕の前腕部を前に出す。よく思えば自分自身まともに焼着された感情紋を見ていなかった。一緒になって見ると腕には光も反射しないほどの真っ黒な墨で塗られたような紋がタトゥーのように入っている。

形は中心に丸、周りを二重に円が付いてそのさらに外側に集中線の様に中心に向かって等間隔に12本の小さな長方形が囲っていた。ちょうど子供などが描く太陽を少し禍々しくするとこんな感じになるだろうか?

腕を見せているとダニエルの周りに続々と大人達が集まり俺の腕をマジマジと見つめ、首をかしげ出す。


「何だこの紋は?」


「配色も形状も見たことの無いものですね、乙型の新種ですか?」


「いや、計測時初期には甲型や無感情適正術者特有の単一感情波形を観測された。乙型の可能性は低いだろう。それに形状は無感情適正術者の感情紋に似ているぞ」


「…確かに、無感情適正術者の感情紋を第三種として捉えるのならばこれは第一種に相当する紋の刻まれ方だな」


「なんと!無感情適正術者は甲型第三種に分類される感情術だったのか!?」


「しかし色はどうなんだ?黒では適正の感情術が分からない彼の適正は」


「いや、先日北欧連邦で黒に近い感情紋が発現したと聞く。これもその類いなのでは」


「それにしても適正が分からねば」


大人達は本人である俺を置いてけぼりにして次々と議論を進めていく。俺が理解できたのは前例のない感情紋が発現したと言うことと、これが無感情適正術者の感情紋に似ているという事くらいだ。


「あの、俺の感情紋のキーになる感情ってなんですか?」


俺が質問を投げかけると、大人達はそれぞれ顔を見合わせる。

なんと答えればいいか悩んでいるようでお互いに返答の譲り合いをしている感じがした。

そのうちの一人、最初に俺に話しかけてきたダニエルに全員が視線を向けると、諦めたように首を振り、俺の質問に口を開く。


「すまない、カサネくん。君の感情紋が他には見た事がない為今この場で判明するのは難しい。今現状では甲型なのか、それとも乙型なのか、はたまた無感情適正術者なのか検討もつかない状態だ」


「は、はぁ……?」


「君さえ良ければなんだが、これから少し時間を頂けないだろうか?もちろん、担当教員の方には私達から伝えて置こう。君の感情術の発現キーや感情術の適正属性、使える出力等分からない事がありすぎるんだ」


ダニエルは困り顔でそう答えた。




………………………………………………………………………………………………………………………………………



結局俺が開放されたのはそれから更に3時間後の事だった。

簡単なメンタルチェックから頭に電極の沢山繋がった装置を被せられて色々な景色や状況を仮想体験してみたりなど様々な事をやらされた訳だが、判明した感情術適正は驚くべき事だった。





『完成された無感情適正術者(フィレスエマーター)?』


『あぁ。これはあくまで仮定に過ぎないんだけどね、カサネ君の左腕に焼着された感情紋から脳波への影響を調べた所、感情の起伏に対してマイナス方面の干渉が観測された。

感情紋が術者に対して感情をある程度干渉する事は今までも観測されていたけど君の感情紋の数値は異常だ。君は感情術を起動させてしまうとその後、怒っても恐れても悲しんでも楽しんでもどんな感情を抱いたとしてもそれに応じたマイナス方面の力が働いて感情の波が無くなる。』


『え、えと、つまり、どういう事ですか?』


『つまり君は感情術を発動した時点でその行使を止めるまで一切の感情を持つ事がない、それどころか発現キーといった必要感情は一切必要なく事実上君はただ感情術を行使する状態にすると念じるだけで感情術を行使できる!現存する外部からの情緒干渉は勿論、自分で他の感情を持つ事さえ出来ず常に最大出力で感情術を行使する事が可能なんだよ!!』


ダニエルは興奮気味に椅子から立ち上がり腕を大きく広げ天を見上げる。目はうっとりとしているがはっきり言っておっさんがそんな事していてもただきしょいだけだった。


『ああなんという事だっ!!感情術と言う神の御業が開発されて未だ100年…されど今までに生み出された感情術者は200億人を優に超える…そんな中で彼の様な逸材は果たして現れたのだろうか?否だ!!まさに感情術の申し子!神の福音!!』


うっとりとした目が次第に爛々と輝く。さっきまでガッツリインテリ系だったおっさんがここまで変わってしまうときしょいを通り越して怖かった。その眼鏡は伊達か!!


『あのー?ダニエルさん?とりあえず俺の感情術は無感情適正術者と言うとは分かりましたけど、属性は?無感情適正術者という事は行使できる属性は風、という事でいいんですか?』


『私の事は気軽に『ダニー』と呼んでくれっ、そしてそれについてなんだが……属性についてもおそらく特殊なんだ』


ダニエル、改めダニーはいそいそと椅子に座り直し真剣な表情を作る。いや、今作った所でもう手遅れなのだが…。


『君の適正属性は『重力』、指定した空間、物体に任意の引力を形成し、加圧、圧壊させる属性だ』


『は、はぁぁ!?』


どうやら俺は、変な力を得てしまったようです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ