表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
52/52

月詠黒兎・二日目・03「夢の終わり」

「く、黒兎、貴様いきなり何をするのじゃ?」


 白兎は顔を真っ赤にして俺から離れる。


「どうだ? これで能力が使えるようになったんじゃいのか?」


 俺は動揺している白兎を無視して、肝心なことを訊ねる。

 口づけが能力開放のトリガーなのは物語の定番だ。

 それにしても白兎の体が女子で良かった。

 男だったら少しばかり躊躇してしまっただろう。

 だが女子の体で生活していたこともあるので、俺の中に女心が芽生えている。

 男だからといって、無理というわけではない。


「おおう、力が解放されたようじゃ。能力は使えるようになっておる」

「くそ、そうはさせるか!」


 這いだしてきた灰兎が、何をするのか心を読んだようで、迫って来た。


「良いか黒兎、妾とそなたの力を同時に発動させる。行くぞ、せーの」


 白兎が俺の手を握る。

 俺は能力が発動するように念じた。


 その瞬間、時間が止まった。

 飛びかかってきた灰兎は空中で静止している。


「これは?」

「妾の未来螺旋流ミラクルとそなたの時を駆ける魂(ジグソウ)の合わせ技じゃ。未来に進む力と、過去に進む力が拮抗しあって時間が停止しておるのじゃ。さあ、灰兎の奴を倒すがよい」

「…………」


 俺は動けなくなった灰兎を見て、ためらった。

 動けない奴を殴るのは気が引ける。


「どうしたのじゃ?」

「灰兎を倒すのはやめだ。その代わり、灰兎の魂を俺の体に戻したい」

「ふむ、魂を戻すには、まず魂を肉体から取り出さないとならん。だが、そなたも妾も魂に干渉はできんぞ。魂に干渉する能力がなければ不可能じゃ」

「魂に干渉する能力か。霊体ならどうだ?」


 俺は霊体のまま動かなくなっている凜子を指さした。


「霊体ならば、直接魂に触れることは可能じゃ。あやつならば、灰兎の魂を取り出せるじゃろ。手を握れば、動けるようになる」


 俺は白兎の言う通りに凜子の手を握った。


「ふああ、あれ? どうなってるんですか?」


 凜子はきょとんとした声を上げた。


「今は、時間が止まっている。それで凜子にお願いがあるんだ」

「なんですか?」

「磯谷の体から、灰兎の魂を取り出して欲しいんだ。お前にしか出来ないことだ」

「わ、わかりました。やってみます」


 そう言って俺達は磯谷の元に行き、凜子が磯谷の体に腕を突っ込んだ。

 光の球体が五つ出てくる。

 その内四つは、一つの球体の周りに三つがくっついている形になっている。

 真ん中が灰兎で、その周りに桜木さん、姫宮、神崎の魂だろう。


「たぶん、四つが一塊になっているが灰兎だ。凜子、それを俺の体に入れてくれ」

「わかりました」


 そう言って凜子は四つの球体を俺の体に入れた。

 その瞬間、俺の頭にイメージが流れた。

 それは詩季達の死んだ姿だった。

 たぶん神崎の未来予知の能力によるモノだろう。


「成功だ」


 そう言って白兎の方を振り向くと、白兎は素っ裸になっていた。

 俺は焦って視線を外す。


「どうしたのじゃ?」


 何も知らない白兎がのんきに訊いてくる。

 衣千子の透視の能力だ。

 

「いや、何でも無い。これで終わりだ。白兎、時間を進めてくれ」


 俺も能力を止める。

 その瞬間、俺は磯谷の顔面を思い切り殴り跳ばした。

 磯谷は派手に吹っ飛んでいく。


「はあ、すっきりした。それじゃ、みんなの魂を解放する」


 俺の中から三つの球体が飛び立ち、それぞれの方向に飛んで行く。

 みんな本来の体の元に向かったのだろう。


「ありがとな、白兎、それに凜子も」


 俺は改めて二人に御礼を言った。


「交換条件だからな。それじゃ、妾もそろそろ家に帰るかのう」

「家っていうのは、俺のことだよな?」

 

 白兎は元々、俺の魂の一つだ。

 俺の中には今、黒兎と灰兎の二つの魂がある。

 白兎が戻ってくれば、三つになる。それで元通りだ。


「黒兎よ、寂しかったかや?」

「ああ、もちろんだ。今まで心にぽっかり穴が開いていたような気分だったぜ」


 俺は心にもないことを口にした。

 今まで白兎の存在を自覚したことは一度も無い。

 ただの中二病設定だ。寂しいと思ったこともない。

 だがここで、無粋なことを言って良い雰囲気を壊したくなかった。


「そうかそうか。可愛い奴よのう。ならばお主の元に帰るとしよう」


 白兎は嬉しそうに大きく頷くと、右手を俺の左胸に当てた。


「こういう時はおかえりって言えばいいのか?」

「ああ、ただいま黒兎」

「おかえり、白兎」


 光の玉が愛莉栖の右手をゆっくりと移動し、俺の中に入ってくる。

 俺の胸は仄かに暖かくなった。

 愛莉栖の体ががっくりと力を失い倒れる。それを俺は抱き留めた。

 少しの間を置いて愛莉栖が意識を取り戻した。


「愛莉栖起きたか? 全部終わったよ。魂は取り返した。お前のお陰だ。ありがとな」

「私は、何もしてないよ。でも、良かった。みんなを助けられたんだね」

「魂は取り返したが、詩季達は死んじまった。それに学校のみんなもおかしくなっちまっている。だから、俺は過去に戻ろうと思う。全てを無かった事にする」

「そうだね。それが一番だよね」


 愛莉栖は少しだけ悲しい顔をした。


「俺が過去に戻ったら、今起きた出来事は愛莉栖も凜子も忘れちまう。けど、俺は覚えてる。俺だけは忘れない。平和な世界でまた合おうな」

「はい、黒兎さん。またクレープ食べさせてください」


 霊体の凜子が両手を握り締めて訴えてくる。


「ああ、凜子の大好きなクレープをまた持っていってやる。愛莉栖もありがとな」

「……うん」

「それじゃ」


 そう言って、俺は時を駆ける魂(ジグソウ)を発動した。

 だが、うまく能力が発動しなかった。


「あれ」

「どうしたの? 黒兎」


 愛莉栖の時の番人(クロノス)がまた発動してしまっているようだ。


「愛莉栖、お前の能力は常時発動型らしいんだ。それで時の番人(クロノス)が発動したままだと、俺の能力が無効化されちまう」

「へえ、そうなの? でも、どうやったら能力を止められるか私知らないよ?」

「方法はある」

「どうやるの?」


 愛莉栖が訊いてくる。


「キスすれば、一時的に能力が止まる」

「…………き、ききき」


 愛莉栖の顔が一気に真っ赤になる。


「愛莉栖いいか?」


 俺は愛莉栖の肩に手を置いて、確認する。


「……ダメ。だめだめ絶対ダメ! 兄妹でキスなんてだーめ!」


 物凄く拒否られてしまった。


「俺とお前は魂の兄妹だが、肉体的には兄妹じゃないから、オ-ケーじゃないのか?」

「オーケーじゃない!」

「別に俺とじゃなくてもいいんだけど、凜子は霊体だから無理だしなー。そう言えば、先週の金曜日にぶつかって、すでにキスしてるようなもんだし、今更気にする必要はないんじゃないか?」

「あれは事故だから、いいの!」

「なるほど、事故ならいいのか! なら、廊下の曲がり角で、あの事故を再現しよう」


 我ながらナイスアイデアだったが、隣の凜子が深いため息を吐いていた。


「……バカ」


 愛莉栖は小さく呟くと、教室を出て行ってしまった


「ちょ、待てよ。……なあ凜子、どうして愛莉栖はあんなに嫌がってるんだ? 俺、嫌われてるのかな?」


 まさか愛莉栖があんなに嫌がるとは思っておらず、少しショックを受けた。


「それは自分で考えてください。あと、早く追いかけないと」


 俺は凜子に急かされて、愛莉栖を追いかけた。

 愛莉栖が行った先は屋上だった。

 愛莉栖は屋上の真ん中でぽつんと一人で立っていた。

 俺は恐る恐る愛莉栖に近づいて声を掛ける。


「……愛莉栖」

「…………」


 愛莉栖は反対を向いたまま、こっちを振り向きもしない。


「なあ、いったい俺はどうすればいいだ? 教えてくれよ」


 俺は愛莉栖の背中に問いかける。


「どうして名前で呼んでくれないの?」


 愛莉栖がくるりと振り返って質問してくる。


「愛莉栖って呼んでるだろ?」

「……違う」

「違う? ああ、もう一つの名前か! 天音」

「……違う。下の名前で」

「綾花……さん」

「さんは、いらない」

「あ、あや、か」

「ぎこちない」

「綾花っ!」

「やっと呼んでくれたね。一真」


 そう言うとパアッと綾花は笑顔を見せた。


「そっか。愛莉栖と黒兎だと月詠一族になっちまうからな。綾花と一真なら、オーケーというわけか」


 俺はようやく納得した。


「月詠一族とか関係無い。ただ私の名前を呼んで欲しかっただけ」

「……そっか。じゃあ、綾花、……いいか?」


 俺は綾花の肩に手を置く。綾花は恥ずかしそうにこくりと頷く。

 綾花が目を閉じるのを確認すると、俺も目を閉じて、そっと綾花の唇に自分の唇を重ねた。




 いつもの見慣れた天井を見つめた後、俺はのそのそと起きて学校に行く仕度を始める。

 いつもの道をいつものように歩いて学校に向かう。

 クラスメイト達に適当にあいさつをして、俺は自分の席に座る。

 窓の外を見て、良い天気だな~と感慨に浸る。

 そんな何気ない幸せを噛みしめていると、俺のすぐ横に人が立つ気配を感じた。


 ──俺はゆっくりと彼女に振り返る。




ブックマーク・評価等、ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ