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柊一真・三日目・02「買い物」

 姫宮と別れて、しばらくして今度は天音と桜木さんに出会った。


「よう、二人とも買い物か?」


 俺は軽くて上げて挨拶をする。

 私服姿を見るのは新鮮だ。

 特に桜木さんの私服は姿は素晴らしい。

 白色のふわっとしたワンピースが彼女の雰囲気にすごく合っている。

 目の疲れが一気に解消されるようだ。


「あ、偶然だね一真くん。私達は二人で買い物だよ」


 天音が桜木さんに同意を求め、桜木さんは「そうです」と返事をした。


「良かったら、私達と一緒に買い物しない?」


 天音が提案してくる。三人で買い物するは楽しそうだ。

 俺はやることもないし暇だからオッケーだ。

 しかし、桜木さんもそれで良いのか確認を取る。


「俺はいいけど、桜木さんもいいの?」


「私は構いませんよ。三人の方が楽しいですから」

 

 桜木さんがにこりと笑って、了承をしてくれた。

 俺と同じ事を考えていたことに、少し運命を感じる。

 というか桜木さんはテレパシー使いなので、俺の心を読んだのかもしれないが。


 俺と桜木さんは見詰め合う。

 そのやりとりに疎外感を覚えたのか。天音が不満そうな表情をしていた。

 しかし、テレパシーのことは天音には秘密なので、気づかなかったフリをする。


 こうして俺達三人は、デパートの本屋や雑貨売場など色々な場所を見て回った。

 洋服売場では試着室の前につれて来られ、二人のファッションショーを見せられることになった。

 とても幸せな時間だった。

 天音は何を着てもだいたい似合う。

 しかし、それ以上に桜木さんは素敵過ぎた。

 地上に舞い降りた天使の如く清楚で可憐で美しく、そして可愛らしい。


 二人のファッションショーが終わる。

 その後、天音の機嫌がなんだかすごく悪くなっていた。

 なんで機嫌が悪くなったのか俺には分からない。

 洋服売場の隣は女性用の下着売場だった。

 俺は天音に手を引かれて無理矢理、秘密の花園に連れてこられる。


「こ、ここは……」


 秘密の花園に男の俺がいるのは非常に気まずい。

 天音や桜木さんと一緒だから少しはマシだが、一人でいたら変態扱いされかねないぐらいに居心地が悪い。


「一真くんは何色が好きなの?」


 視線のやり場に困ってる俺に天音が訊ねてくる。

 そういうデリケートな質問を、テンパっている俺にするのは拷問に等しい。


「と、とくにないけど……」


 とりあえず誤魔化しておく。

 ここはあいまいに答えるのが正解な気がする。

 好きな色は本当は〝黒〟だけど、今の状況ではとても言えない。

 ちなみに俺はダークヒーローが好きなので、そのイメージカラーの〝黒〟が好きなのだ。

 別に女性が黒い下着を着けるのが好きというわけでは決してない。


「こういうの好きですか?」


 俺と天音のやりとりを見ていた桜木さんが、黒い下着を手に持って俺に見せてきた。

 桜木さんはきっと俺の心を読んだのだろう。

 だから、黒い下着を俺に見せた。

 桜木さん勝手に人の心を読むのはやめてください!

 俺の戸惑っている様子を見て、桜木さんはイタズラ成功した子供のように笑った。

 小悪魔ちっくな桜木さんも素敵。いや、むしろ最高だ!

 だが、このままここに居ては身が持たない。


「お、おお、俺、外で待ってますから!」


 そう言ってスタスタと下着売場から全力で逃げ出した。

 自分でも分かるぐらいに顔が真っ赤になってしまっていた。

 もう少しあの場所にいたら、のぼせて鼻血が出ていただろう。

 俺は通路にあるベンチに腰を下ろした。

 しばらくベンチで待っていると、桜木さんが先にやってきた。


「お待たせしました。綾花もすぐにくると思います」


 買い物袋を持った桜木さんが俺の隣に座る。


「そ、そう」


 桜木さんの買い物袋にはどんな下着が入っているのか。

 つい視線が袋に向いてしまう。


「あの、変なこと想像してます?」

「いや、まったくしてないですよ」


 俺は慌てて否定する。

 その様子に桜木さんは笑っていた。

 桜木さんは心が読めるので、俺の思考は筒抜けだ。

 桜木さんの前では、俺は裸になったような気持ちになる。

 とても恥ずかしい。

 裸で思い出したが、桜木さんは姫宮の能力のことを知っていたのだろうか。

 心が読めるならば知っているはずだが、念のため訊いてみよう。


「桜木さんに訊いておきたいことがあるんですけど」

「……姫宮さんのことですね」

「それじゃあ桜木さんは姫宮に透視能力があるって知ってたんですね?」

「もちろん知ってました。でも私が他人の能力を口外することはありません。他人の秘密をペラペラしゃべってしまうのは良くないですし、それにそういうのは本人が言いたい時に言うのが良いと思うんです。でも、柊君には一つ良いことを教えてあげます。もちろんここだけの話にしてくださいね。……実は私と姫宮さんの他にも能力者はいるんです」

「誰ですか?」

「内緒です。きっとその人も近いうちに能力のことを打ち明けてくれると思います。楽しみに待っていてください」


 桜木さんは口の前に人差し指を当ててウインクをした。

 部活にいる能力未確定者はあと三人。俺と天音と神崎だ。

 俺を除くとして、天音か神崎のどちらかが能力者なのだろうか。

 もしも二人とも能力者だったら、能力がないのは部活で俺だけになってしまう。

 そう言えば姫宮が俺のことを無能力者と罵っていた。

 それってつまり部活で無能力者は俺一人だと言いたかったのだろうか。

 そう考えるとなんだかすごく寂しい気持ちになる。


「お待たせ、二人共ーごめんねー」


 天音が小走りにやってきた。

 三人が揃ったところで俺達は近くの喫茶店で休憩をすることにした。

 しばらく休憩した後、俺は二人と別れた。

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