プロローグ
「さらばだ、勇者よ。今一歩届かなかったな。」
もはや表情を見る力もないが、それでも分かるくらい余裕たっぷりに言う。
あまりの力量差に悔しさがこみ上げて来る。
もっと自分に力があれば、もっと自分が強ければ、もっと自分を鍛えていれば、せめて、その表情を変えることくらいできたかもしれないのに・・・
闇の中を意識が漂っている。手も足も頭もないことがわかる。だがそれでも自分がここにいることを確信している。
何時間、何日間、何年間だっただろう、時間すらも曖昧な世界でどこからともなく声が聞こえる。
「・・クル。ア・・クル。」
自分を呼ぶ声である。
導かれるまま引き寄せられる。懐かしい五感を感じながら、また同じ声が聞こえる。
「よく生まれてきた、アスクル。パパの顔が見えるか?」
忘れたくても忘れられない顔を忘れてしまうほどの衝撃を受けた。
自分の全身全霊の最大連撃を眉ひとつ動かさず凌いだあの顔が、何かの冗談であったかのようにはち切れんばかりの笑顔をしていた。
(チャンス!今度こそ貴様を殺すために、地獄から蘇ったぞ!)
無防備すぎる鼻っ面へ全力で拳を突き出すと同時に、先ほど聞こえてきた言葉を思い出す。
(パパパパパ、パパァーーーーー???!!??!!?!!!!!)