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コンチェルティーノ  作者: 白鳥 真一郎
第七章  わたしを生かした命は消えない
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☆ 宇宙と同じ夢を



 星の冷たい光――


    冷たい雪、冷たい氷、冷たい岩――


        どこにも温もりはありません。



 それなのに…… 星たちの光のしずくを浴びて、雪と氷と岩に抱かれて、わたしは幸せでいっぱいです。

 雪も、氷も、岩も、宇宙の果てへ無言で遠ざかる星たちの物語を知っていて、広大な宇宙と同じ夢を見ている…… そんな気がしてくるのです。

 耳には聞こえないけれど、山の頂には静かな音楽が流れています。宇宙全体が光り輝いて共鳴しているような、不思議な感覚。


 星たちの光のしずくを感じて、このまま宇宙の光に溶け込んでしまいそうです。もしかしたら……わたしたちも星の光をつたってすべてとつながっていて、宇宙のすべての記憶とつながっていて、そして……夢を見ているのかもしれません、宇宙と同じ夢を。

 いつの日か、このからだを脱いだら戻っていくのです、あの美しい光の海へ。そこで、すべての記憶を息づかせている永遠の中へ溶けていく―――


 永遠を知るために、永遠に少しでも近付くために、人は山に登るのでしょうか。どんなに遠くても、どんなに高くても、どんなに険しくても、まだ誰も見たことのない永遠を求めて。


 わたしたちはこの世界に抱かれて、一瞬輝いて、静かに消えていきます。一緒に過ごした幸せな時間も、すっかり溶けて消えてしまうのでしょう。

 わたしは一瞬です。決して永遠ではありません。けれど、一瞬が存在しない永遠は、永遠に存在しない。だからわたしはいつも永遠と繋がっている…… という言い方ではわかりにくいでしょうか?


 生まれたらすぐに消えてしまう、海辺に打ち寄せる波のようなわたしたち。でも、打ち寄せる波は、果てしなく広く深い海そのもの。

 永遠は、きっとわたしたちと別の場所にあるのではなくて、生まれる前も、今も、そして最後の日も、わたしたちは永遠という果てしなく深く広い海に溶け込んでいて、あるときは潮騒になって、あるときは霧や雲に姿を変えて空へ向かいます。本当は、生まれることも消えることもなくいろいろな姿に変化していくだけ。わたしは消えるけれど、わたしを生かした命は消えない。それがわたしたちの命…… わたしにはそう思えるのです。



 もう一度ふかふかの雪を感じたくて、別の吹きだまりに飛び込みました。雪に埋まると風の音が止みました。顔を上げておもいきり息を吸うと、胸が冷たい空気で一杯になって気持ちいいです。

 星たちの光は誰かを照らして反射して、再び宇宙に向かいます。たくさんの星の光に照らされているわたしの姿も、いつかどこかの星に届くかもしれません。


 わたしの体がこの世界から消えて何年も経って、光に照らされたわたしの姿があなたに届くとしたら、わたしはどんな表情をあなたに見せるのでしょう? わたしの姿をわたしが見るのは鏡を見ているときだけ。わたしを一番知らないのはわたしなのかもしれません。



 いつのまにか月が昇っています。少し欠けています。でも、とても明るいです。山頂から東へまっすぐ延びる稜線が研ぎたてのナイフのように輝いています。あの稜線を歩けば、今までわたしが知らなかった別のわたしを知ることができるでしょうか。けれど、足を踏み外して深い谷へ滑り落ちてしまうかもしれない…… 

 勇気を持ちたいです。進むのか、退くのか、登るのか、下るのか、自分の進む道を自分で選ぶ勇気を持ちたい。わたしはわたしの選んだ道を、覚悟を決めて歩きたいから。



 東の空が少し明るくなりました。光でも闇でもない薄明の時間。どうしてこんなに胸がときめくのでしょう。

 新しい朝が始まりました。稜線の真ん中で、尖った岩がプリズムみたいに輝いています。太陽の光が顔に当たって、暖かくて、信じられないほどまぶしい!

 山にいると、過去も、今も、未来も、そんなものがあったことをすっかり忘れてしまうことがありませんか?


 

 高く太陽が昇りました。


 裕樹くん、アルプスの空は晴れていますか?

 











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