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コンチェルティーノ  作者: 白鳥 真一郎
第七章  わたしを生かした命は消えない
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☆ 夏の空の冬の星座




 何十光年、何百光年、何万光年も離れた所から届くたくさんの小さな光。あのたくさんの星たちとわたしとは気が遠くなるほど離れているのに、こうして山に登ってほんの少し近付くだけでこんなに大きく明るくなるなんて、今でもやっぱり信じられないのです。


 星の光は鋭くて力強くて、何でも刺し通す折れない針のようです。星たちの光は太陽よりも正確にわたしの胸の迷いや恐れの中心を貫いて、心を鎮めてくれます。


 シリウス、プロキオン、ベテルギウス―――


 あなたに教えてもらった冬の大三角を見つけました。太陽を除けば、地球から見える一番明るい恒星はシリウス……でしたね。オリオンの三連星とシリウスが一直線に並んでいます。オリオンとシリウスはいつも一緒。なぜですか? 


「オリオンは冬の星座なんだ。でも、真夏の夜明け前にも見えてびっくりしたことがあるよ。夏になったら一緒に見ない?」と、あなたは春の終わりに誘ってくれましたね。


 ふたりで見た真夏のオリオンを、わたしは今も忘れられません。きっと一生忘れることはないでしょう。あの日、あなたは言いました。「太陽の光がまぶしすぎて見えないだけで、冬の夜の星座は夏の昼の空にも輝いているって知ってた?」と。

 別の日には「この世界の〝真実〟は、普段は見えないところに隠れているような気がする。皆既日食が起きるといろいろなものが見えるように、ある日、何かのきっかけで突然気付くのかもしれない……」と、少しためらいながら。



 星空が少しずつ雲に覆われていきます。急に雪が舞って風が強くなりました。斜面に小さな雪洞を掘って、ザックを引っ張って、体を丸めて潜り込みます。部室から借りて持ってきた最新のツェルトを広げて入口を塞ぎました。訓練以外でこんなことをしたのは初めてです。


 キャンドルを(とも)したらとても明るくなりました。バーナーでお湯を沸かしてティーバッグを浸します。コンデンスミルクをチューブから絞り出すと、はい、熱いミルクティーの出来上がり! 

 優しい甘さと温もり。こうしているとほっとして、吹雪が止む頃には暖かな雪洞の中でぐっすり眠っているかもしれません。でも、まだ眠くないんです。



 今、あなたの名前を初めて知った日のことを思い出しています。


 高校生になって初めて梅雨空を見上げたのは、夏の制服では少し肌寒い夕方でした。雨の香りのする薄暗い生徒昇降口に置いてあった〝週刊三高新聞〟を、その日はなぜか手に取って鞄に入れたんです。

 その夜、寝る前にいくつかの記事にさらっと目を通しました。わたしは『紫陽花と三高生』という論説に興味を持ちました。


〝小杉 裕樹〟と署名が入ったその記事は、どちらかというと読みにくい文章でした。それなのにどこか惹かれるものがあって、何度も繰り返し読みました。あなたは覚えているでしょうか。確か、こんなふうに始まっていましたね。


『まもなく六月二十八日を迎える。諸君も知ってのとおり、この日は多感な少女時代を我が校で過ごした小説家の命日だ。今般、彼女にゆかりのある人物や旧蹟を市内に取材することで新しい知見を得ることができた。また、同時に別の視点からひとつの考察を……』


 あまりにも硬い書き出しに、とってもびっくりしたんです。長いので途中はいろいろ省略します。


『……というわけで、当校に少なからぬ縁のある彼女が十七歳のまま、時を超えて現代の三高に現れ、なかんずくその上さらに我々の一員として生きて行くこととなったと仮定して、以下のような考察を行った。無論、彼女がこの街に生きた時代と今我々が生きる時代は数十年という大きな隔たりがある。しかしながらそれはともかくとして……』


 変わった言い回しに困惑しながら ――ごめんなさい、本当は笑いをこらえて―― それでも一生懸命読んで、やっと論説の後半に近付きました。そこにはこんなことが書かれていたんです。覚えていますか?



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