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7 シリアスはやるもんじゃないって、はっきり分かんだね!

 別連載が極まるシリアスなので、意識せずにいるとシリアスに寄っていきます。作調が乱れるのは本意でありませんが、書いちゃったものは仕方ないですよね。

 ギルドと話を付けた俺達は、質問攻めにってしまい、ギルドを出た時には日が沈んでいた。


 宿を探して歩き回っているのだが、先程からサラは浮かない顔をしている。


「サラ? 俺が戦ってる間に何か有ったのか?」


「別に、何も無かったわよ」


「尻でも触られたのか?」


 瞬間、彼女がキッとにらみ付けてくる。しかし、来るはずの口撃が飛んでこない。


 やっぱり何か変だ。


「あなたって意外と強いのね。少し驚いたわ」


「そうでもないぞ。俺は勘じゃなくて考えで動くタイプだからな。多人数だと厳しいし、状況が把握できなくなったら何も出来ない」


「それでも、手加減してアイツを倒せたじゃない」


「ステータスと特技のお陰なんじゃないのか?」


 サラが首を何度も振る。


「ステータスは才能だけど、特技は自分で磨くものだから……きっとそれだけ磨いてきたんだと思う。あなたは気付いていないだけで、ずっと努力してたのよ」


「……そうなのか」


 そうなのだろうか? 確かにそうかもしれない。


 6歳から集団に放り込まれ、人間の分析を強いられた。そして強制的に勉強させられ、就職したと思ったら、政治や経済の分析をさせられた。


 そして自分を分析して絶望に落ちた。


 俺の人生は無駄じゃなかったという事か?


「……それに比べて……私は」


「何か言ったか?」


 サラが小さく首を振る。


「何でもないわ。あそこに宿が有るから、今夜はそこに泊まりましょう」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 宿屋の受付に声を掛けると、受付の男は開口一番に訊いてくる。


「一部屋か二部屋かどっちだい?」


 一瞬考えるが、昼間の出来事(セクハラ地獄)を思い出す。さっきの今で男と相部屋は、サラへの負担が重過ぎる。


「じゃあ別々――」


 別々でお願いします。と、言おうとした時、サラが細く短い声を出す。


「一緒でいい」


 それを聞いた受付の男は、無造作に鍵を取り出し、投げるように渡してくる。


「二人で一万だ。っとありがとな。日が真上にくるまでに出て行ってくれ」



 

 階段の先を行く、サラの背中に言葉を投げる。いつもの俺なら、嬉々としてパンツを覗くところだが、今は彼女が気掛かりだ。


「どういう風の吹き回しだ? こんなにチョロい女だとは思わなかったぞ」


「別に、ちょろくなんかないわ。昨日まで一緒に寝てたのに、あなたが手を出してこなかったから、見くびってるのよ」


 サラが肩越しに視線を投げてくる。


「あなたはスケベだけど根性無しだから……聞いてるの? 根性無しさん」


 サラの表情に変わりは無いが、手すりをきつく握りしめている。


 ――やっぱり変だな。


 あまり傷つけたくはないが、一番手っ取り早い方法をとることにした。


「根性無しはどっちだよ」


 瞬間、サラの目が大きく見開かれ、彼女は唇をわなわな震わせる。


「バカッ」


 階段を上る音が木霊こだまし、ドアの開閉音が虚しく廊下に響く。


 ――ダンダンダンダン……ガチャン――。


 予想通りの展開に、思わずため息が出る。


「あ~、やっぱりか」


 サラはギルドの一件を気に病んでいるのだ。自分の面倒を俺に押し付けたと思って、自分を責めていたのだろう。


「面倒臭ぇ……」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ――トントントン……。


「入るよ」


 ドアを開けると、ベッドでうつ伏せになっているサラと目が合う。彼女はすぐに俺から目を逸らした。


「ふんっ」


 顔には出さないが、内心でやれやれと両手を振りつつ、俺は机に向かう。


「風呂入っていいぞ。覗かないから安心しろ」


「……分かった」


 しばらくすると、衣擦きぬずれの音、そして水音が聞こえてくる。


 俺は首を回して、室内を観察する。異世界の治安は一切信用していないので、窓やドアを点検し、壁を叩いて厚さを確かめる。


「悪くないな」


 普通のビジネスホテルみたいな部屋だ。床には無地の絨毯じゅうたんが敷かれており、オレンジ色の柔らかい光が室内を照らしている。


 あまり広い部屋ではないが、最低限の清潔さは保たれている。


 部屋を確かめた後に、長年愛用している手帳を取り出し、そこに書き込んでいく。


 食品価格、地価、貨幣かへい価値や治安状況など、活動するにあたって必要な情報を記していく。得た情報はすぐに書かなければ、忘れてしまうのだ。


 たまに、書かなくても大丈夫だと言う人もいるが、俺は書かないとやってられない。


 重要な決断をするときに、まとまった資料が無いと、迷ったり間違えたりするのだ。


 今日はギルドで沢山話を聞いたので、書くべき事が沢山ある。覚えている事を書いて書いて書きまくる。




 気付けば、サラが横に立っていた。彼女はシンプルな白い寝間着ねまきを着ているが、まとう雰囲気は重苦しい。


「ねぇ、怜司さん(・・)


「……どうした?」


「私って足手まと――」


「風呂入るわ」


「あ、うん。行ってらっしゃい」


 サラがぎこちない笑みを浮かべ、小さく手を振る。可愛らしい仕草だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 湯船にかった途端とたん、全身の力が抜ける。


 ――どうしようか……?


 サラは今日の一件を相当気に病んでいる。今日だけではなく、3日間の積み重ねも有るのだろう。確かに、


『俺の方が仕事をしている』


 最初こそ、この世界の知識を持つサラがリードしてくれたが、途中から完全に逆転した。仕方ない。


 仕方ないのだ。だって俺の方が年上なんだから。役割だとか、足引っ張りだとか、そんな事をサラが考える必要は無い。


 しかし、サラはそんな自分を許せない。責任感の強いなのだ。



 本当に難しい。こんな経験は初めてだ。


 パーティーを組んだのは成り行きだが、彼女が王宮を出る事になった原因は、間違いなく俺にある。


 名義上は俺の嫁である。なので手を出しても問題無いのだが、そうもいかないのだ。


 手を出すからには、最後まで責任を取らなくちゃいけない。勿論、そういう行為に及ぶのであれば、俺だってその覚悟をするつもりである。


 しかし重大な問題が横たわっている。


 俺にサラを捨てるつもりが無くとも、捨ててしまう可能性。



 ――そう、『現実世界に転移』するという可能性が有る。

 


 簡単なことなのだ。お互いに自立できるまで、適当に言いくるめて仮のパーティーを組めばいい。まだ未熟な彼女に、ギリギリこなせるだけの仕事を与え、形だけでも満足させればいい。


 そして頃合ころあいを見て、互いの人生を歩み始めればいいのだ。




 しかし、俺の心がその選択を否定する。


 そうなのだ。


 とても可憐で毒舌で、それでいてちょっと面倒臭い、とても寂しがり屋の少女。


 そんな彼女を愛おしいと思う自分が居る。


 設定集を更新しました。今後も少しづつ変わっていきます。

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