4 就活ですよ、お兄さん
店員の勧めやサラの提案などを聞き、最終的に俺の武器は剣になった。結局、買ったのはそれだけで、二人の装備は以下のようになった。
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『来栖怜司』
・武器――曲刀
・防具――防弾スーツ
『サラ=スチュアート』
・武器――細剣
・防具――黒いワンピースとスカーフ
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本来はもっと防具を強化するべきらしいのだが、二人とも耐魔力が高いので、必要が無いのだ。
魔法には相性が有る。
火は風に強く、水に弱い。
水は火に強く、土に弱い。
土は水に強く、雷に弱い。
雷は土に強く、風に弱い。
風は雷に強く、風に弱い。
聖と闇はそれぞれ対等である。
有利属性に適性D有れば、魔法防具を購入する必要は無いらしく、俺は全ての属性に適性Aが有るので、よっぽどの魔法でなければ耐えられるらしい。
スーツを着る理由は単純で、一番気持ちが引き締まる格好だからである。
武器と言えば、国王から貰った伝説の武器があったが、どちらも世界に25個しかないSランク武装だった。
一つ目は透明な日本刀で、銘は『極北の彩色』。
二つ目は虹色の宝石で、銘は『塞の守岩』。
それらを使おうとサラに提案したのだが、どちらも普段は使えないらしいので、包帯で巻いて俺が携帯する事になった。
これで一応の準備が出来たのだが、今後の方針についてサラから提案が有るらしいので耳を傾ける。
「私達の評価値は高いけど、戦闘経験が少ないわ。だから冒険者ギルドで腕を磨いた方がいいと思うの」
「冒険者ギルドか……。確かにいいと思うけど、この辺りではやれないな」
「それはもちろん分かってるわ。この近くでやると、すぐに私達だってバレるもの」
この近くで活躍しすぎると、やっかいな事が起こるかもしれないのだ。
サラもそう考えたらしく、続けざまに言葉を紡いでいく。
「今私達がいるのは、北王国の中心部なんだけど、少し南下して国境付近に行くのがいいと思う」
「その心は?」
「北王国、北魔国、中央王国の三カ国の国境なら情報も集まるし、強い冒険者も居るから隠れられると思うの」
「成程な、それじゃ行くか」
そう言って、進路を馬車乗り場に変更しようとすると、サラに手をつかまれる。
「何だよ?」
「その前に、職業を決めないといけないわ。職業が決まってないと、クエストが受けられないのよ」
「職業って、何か意味有るのか?」
するとサラが大きく目を見開く。
「だってあなた、職業が決まればクラス補正が得られるじゃない」
「そしたらお前、職業決める前に武器買うのはおかしくないか?」
もっともな疑問を口にすると、サラが悪戯っぽく笑う。
「職業には、一般職・上級職・総合職が存在するのよ。どうせあなたは総合職になるだろうから、武器を先に選んでも大丈夫なのよ」
という訳で、隣町のギルドに向かう事となった。職業が決まれば、冒険できると思う……多分。
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ギルドに入って、女性係員にステータスカードを渡す。
瞬間、係員が叫び声を上げようとするが、慌てて彼女の口を塞ぎ、震える耳に短くささやく。
「隠密に頼む。バレたら粛清しなくちゃいけないからな」
出まかせの脅しを口にすると、係員は黙ってこくこくうなずき、職業一覧を俺の前で広げた。
その中で興味のある職業だけを検討していく。
――職業条件――
・勇者
評価値150以上。体力6以上。
・賢者
評価値150以上。知力8以上。
・革命家
評価値200以上。知力8以上。特技分析をB以上で所持。
・天覇将軍
評価値230以上。知力7以上。特技統率をA以上で所持。
・挑戦者
評価値250以上。
・賢王
評価値250以上、知力10、特技統率A以上、分析Sを保持。
・救世主
評価値300以上。
・魔王
評価値300以上。魔力8以上。全ての属性にA以上の適正。
魔王位への即位には、幻級魔法習得が必要。
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「なぁ、サラ」
「何よ」
呼ぶと、サラは髪を指に巻き付けながら、けだるげに顔を向けてくる。
「勇者って雑魚くないか?」
「それはそうよ。魔王の前に立てれば勇者なんだもの」
「そんなもんなのか」
「そんなものよ。S級装備持たせてワンチャンスを狙うんだから」
身も蓋も無い話だが、言われてみればそうかもしれない。サラが言ったように、挑戦者こそが、俺の考えていた勇者の職業なのだろう。
「ここには、条件しか書いてないが、クラス補正はどこで分かるんだ?」
「クラス補正とスキルは、取得するまで分からないのよ。勇者以下の職業なら、過去に取得者が居るから判明してるけど、それ以上になると分からないわね。因みに勇者のクラス補正は、幸運A付与だったわね」
「成程な。ところでサラの職業は?」
するとサラがステータスカードを取り出し裏返す。
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『暗黒騎士王』
・条件
評価値200以上、闇属性A、特技剣術A、統率C以上。
・職業補正
アンデットモンスターとの親和性を付与。
勇者や『聖』属性に対する特別攻撃魔法である、闇夢級魔法『邪の陥穽』使用可能。
・職業スキル
暗視B
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「まるで、勇者と戦う中ボスだな」
感じた事を直接言うと、サラが可憐にはにかむ。
「その通りよ。勇者一行は大概、暗黒騎士王に殺されるの」
……やだ、この子怖い。
震えていると、サラは俺の方に身を乗り出す。肩と肩が触れ合い、吐息が耳にかかる。
「一見、救世主が高い様に見えるけど、興国の星が一番なりにくい職業ね。知力10と、特技分析10っていう条件は難しいわよ。事実、救世主は私の選択肢にも現れたし」
確かに、サラの評価値は302なので、救世主の条件を満たしている。
「サラはどうして、暗黒騎士王を選んだんだ?」
「前例が有ったから、かしら。アンデットとの衝突が無くなれば大分楽だしね」
数分迷った後に、俺は決断する。一度決めたら変えられない選択かもしれないが、心躍るものを選ぼうと思った。
サラの暗黒騎士王を見て、ガクガク震える係員に決定を告げる。
「決まりました。賢王にします」
すると係員は首を傾げ、震える声で問い掛けてきた。
「よろしいのですか? 一度決めたら取り返しがつきませんよ?」
――優しい人だ。
しかし俺の決定は揺るがない。
「お願いします」
瞬間、閃光が迸り、ギルトが眩く照らされる。
ステータスカードが炎に包まれ、裏面に字が浮かび上がる。サラにも見てほしくて、思わず彼女の腕を引く。
そして……二人で浮かび上がる字を追っていく。
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『賢王』
・条件
評価値250以上、知力10、特技分析S、特技統率A以上を所持。
・職業補正
以下3つの固有幻級魔法が使用可能。
『賢者の慧眼』――領域内で指定した1属性の魔法を禁止する。
『精神基準』――対象の精神状態をリセットする。効果は術者の精神状態に依存する。
『賢王の裁き』――広範囲に強力な無属性攻撃を行う。威力は術者の知力依存。
・職業スキル
陣形把握A
遠隔指令A