１ 自分、異世界転移いいっすか?
携帯の液晶には、陳腐な文字列が並んでいた。
『転移するなら、魔族側か人間側か、どちらがお好みですか？』
俺は何となく『魔族側』を選択する。特に理由は無い。魔族側の方が前だったからだろうか。
そして……選択した瞬間、俺は異世界に転移したのである。
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目を開けると、古びた喫茶店のような景色が広がっていた。室内には沢山に人が居て、全員が煌びやかな服で身を固めている。
「勇者様」
一番近くに居る少女が俺に言葉を投げる。彼女の顔は希望に満ち溢れており、爽やかな声は、春朝の風を連想させる。
少女は居並ぶ人々に向けて言い放つ。
「皆様、ついに、ついに勇者の召喚に成功しました。これで我々は魔族に太刀打ちすることが出来ます。魔王に立ち向かうことが出来るのです！」
――あれー、おかしいな。俺は魔族側で召喚されたはずなんだが、なんか勇者側として召喚されてるんですけど……。
しかし答える者は居ない。まぁ心の声なので、答えられても困るのだが、俺は勇者となってしまったようだ。
考えていると、国王らしき人物が歩み寄ってくる。そして俺の前でひざまずき首を垂れる。
「勇者殿、どうか魔王を倒し国に平穏をもたらしてほしい」
「あの、俺武器とか何も持っていないんですけど」
瞬間、目の前に二つの箱が置かれ、国王が自慢げに両手を広げる。
「我が国に於ける至高の武具で御座います。全てお持ち帰りくださいませ」
「あの、俺に協力する理由なんて無いんだけど」
「ではお作りいたしましょう」
そう言って国王がさっきの少女の背中を押す。
「娘を嫁に差し上げましょう」
周囲が沸くが、俺は冷静に少女を観察する。アジサイのように穏やかな紫色の瞳に、ブロンドの髪、純白のドレスは陽を浴びて夏雲の如く輝いている。
普通に綺麗な少女だった。嫁としては申し分ないだろう。
「後はカネが欲しいかな」
言った瞬間、俺の前に大きな袋が現れる。
「この金貨をお納めくださいませ」
「凄い量だな」
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俺の名前は来栖怜司、現在33歳である。
投資事業が上手くいっているので、『サーバー日本政府』『システム資本主義』が砕けぬ限り、俺のライフラインはとだえない。
ここまでが俺の来歴だが、異世界転移された経緯を示しておく。
『アダルトサイトを見ていたら広告が出てきたので、避けてクリックしたところ「転移するなら、魔族側か人間側か、どちらがお好みですか？」というウィンドウが出てきたのだ』←大嘘
実際は電車の中で、スマホの液晶をタップしたら飛んでいた。
最初は困惑したが、異世界転移など、この俺に掛かれば何てことない。
2chで鍛えた弁論術、SNSで培った情報収集能力、そして大学で磨いた教養とゲーム知識を組み合わせれば、上手くいくこと間違いなしだ。
とまぁ、ふざけた事を考えていないで、もっと有益な事に頭を使わなければならないだろう。
この突っ込みどころ満載の異世界転移についての考察が先だ。この世界はVRかもしれないし、秘匿された地底世界かもしれない。
現実世界の知識をもとに考えてみる。未知のモノを前提に考えても、結論が未知になってしまうので意味が無いのだ。水槽の脳よろしく、机上ならぬ机超の空論が出来上がるのみである。
しかし現実の知識に即して考えても、一向に結論が浮かんでこない。
――うん、全然分からねぇな。
まぁ仕方ない。未知なんだから……。
分からないという事が分かったので、とりあえず外に出てみようと思った。
「よーし、任せろ。魔族だか魔王だか知らんが、適当に退治しといてやるよ」
手を合わせて俺をおがむ国王達に別れを告げ、嫁に貰った姫の手を引いて扉を蹴破る。斜から照る陽光に、普段なら文句の一つでも言う所だが、今は不思議と気にならなかった。
今日は上げ続けます。よろしくお願いします。
