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11 私は……怜司と一緒にやってみたいにゃん

 突然現れた階段を前に、俺達は顔を突き合わせて言葉を交わす。


「隠し部屋が出た訳だが、無視するって選択はアリだと思うぜ。こう言っちゃなんだが、俺達じゃ手に負えないと思う」

「でもFランク迷宮の隠し通路なんだろ?」

「いや、Fランクだからって舐めちゃいけねぇ。冒険者の勘がヤバいって言ってる」

「私も止めるべきだと思う。リスクが大きすぎると思うの」

「えぇっ、散々僕に危ない事させて、自分が行くのは嫌なんだ?」

「何ですって、もう一回言ってみなさいよ雑魚勇者」

「まぁまぁ、エスティアもサラさんも、押さえてくれ。この部屋は、大人数で攻略するべきだ」

「偵察、っていうのはどうなんだ?」

「偵察も有りだが、リスクは有るぞ。本格的な迷宮ダンジョン攻略に必要な人員が足りてない。条件を満たしていないんだから、行かない方がいい。これは絶対だ」


 

 条件、という言葉に興味を覚える。


 落ち着いた様子のパースに問いかける。


「その条件をくわしく教えてくれ」

 

 パースがうなずき、言葉を紡ぎ出す。


「4人パーティーの時点で論外なんだが、必須特技が『罠避けの分析・直感・暗視』、司令塔として『知力6以上が1人』、そして『とどめ』に、夢級魔法ビジョン・マジックかS級武装が必要と言われている」


「俺はヒーラーが出来るし、『直観』はエスティアが持ってるけど、後は全部用意してもらわないとな」


 サラと顔を見合わせる。


「知力6と分析は大丈夫だな」


「私は闇で夢級ヴィジョン使えるけど、暗視ってBでいいのかしら?」


 俺達が言うと、パースは口をあんぐり開けて反復する。


「二人で全部有るって言ってるのか? ……信じられない」


 パースが言うと、サラが俺に耳打ちする。


「(……もういいんじゃない? この二人は信用できると思うの)」


「それじゃ、お披露目するか」

 

 サラがうなずくのを確認し、俺はパースとエスティアにステータスカードを見せる。二人は予想通りの反応を見せた。


「何だこりゃ……賢王なんて初めて見たぞ……」


「知力カンストしてるじゃん。……カンストステータスって本当に有ったんだ」


 そして驚愕きょうがくに顔をゆがめる二人に頭を下げる。


「気付いてたと思うけど、商人は嘘だ。黙ってて悪かったな」


 パースとエスティアが首を振る。パースが気にするなと、俺の肩をたたく。


「これは仕方ねぇよ」


「そうだよ。これって総合職、とか言うやつでしょ? ばれたら、いろんな人に狙われそうだよ」


 嘘をついていたというのに、二人の反応は穏やかなものだった。素直に礼を言い、本題を切り出す。


「それで、どうなんだ? パース、もう一度検討してみてくれ」


 するとパースが軽く笑う。


「知力10に検討しろって言われてもな、俺が必要な情報を渡すから、自分で検討してみてくれ」


~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~


 パースが言うには、一度出た隠し部屋は、引っ込まないつくりになっているらしい。



 俺達がこの部屋をスルーする→他の奴が行くかもしれない→不味い。


 見張りを残して応援を呼びに行く→雑魚を呼んでもかえって邪魔になる。


 そもそも応援を呼ぶなら、偵察をしなければいけない。


『一緒に偵察しようぜ』


 なんて言う訳にもいかないので、結局俺達で偵察を行わなければならないのだ。


 そもそも、大人数での攻略は、俺達のステータスを開示する事に直結する。さすがに、レイド組んで職業クラス・ステータス見せませんは通らない。



「という事だ。4人で行かないなら、俺達は降りる。残りの奴で処理してくれ」


 俺が言うと、パースは困った顔をする。


「だが、この迷宮ダンジョンは未知数だ。死人が出ないとも限らない」


 パースがうなると、サラが助け舟を出す。


「偵察だけしてあげればいいんじゃない? ここで決める必要は無いわ」


「あぁ~、まぁそうなんだけど……」


 偵察は危険が大きい割に、実入りが少ない仕事だ。



『危なかったけど、ボス部屋までマッピングしといたよ。こんな感じで行けると思う。メインディッシュ任せた』


 ――そんなメシマズな話無いよな……。


 どこだよ、俺のリスクプレミアムって話だ。サラは王族なので、こういう感覚が無いのかもしれないが、俺は王族でも公僕こうぼくでもない。


 俺の様子を見て、サラが再び口を開く。


「じゃあ、攻略する事にして、無理そうだったら帰って…………ごめんなさい」


「悪いな」


 不機嫌になったのが、顔に出たようだ。サラの提案は結論を先延さきのばしにする悪手である。選択肢を残しているように見えて、『関わらない』という選択肢を削っているのだ。


 彼女とて馬鹿ではない。自分がふざけた事を言っている自覚は有るはずだ。つまり、


「なぁサラ。お前行きたいのか?」


 核心を突くと、サラは一瞬体を震わせうなずく。


「そうね」


「どうして行きたいんだ? お前だって、冷静に考えれば分かるだろ?」


 サラが首を左右に振る。


「力が有る人は、その力に応じた働きをしなくちゃいけないのよ。それがつとめなの」


「――――ッ」


 彼女の唇がその言葉を紡いだ刹那、脳内に全身に、稲妻がとどろいた。


 サラは真っ直ぐに、青紫の視線を射ってくる。


「だから、私と一緒にやってみない?」


 美しい金髪が、薄暗い照明を浴びてなめらかに光る。


「…………俺は」


 何も言えなかった。俺は彼女を見誤っていた。自分勝手でお転婆てんばで、自由に世界を泳ぎたいと願った一匹の魚だと思っていた。


 それは違った。彼女はこれ以上ない程に高潔な、きらめく原石だった。ひん曲がった所も、ひねくれた所も有るけど、この上なく綺麗な想いを内に秘めている。


「俺は」


 そして……俺は汚い大人だ。


「怜司、やってみない?」


 賢く生きる事はできる。だけど……自分の中で声が聞こえるのだ。


『その道は極めただろ?』


 賢く生きて、賢く進んできた。だが、その結果として得たものは何だ?


 虚無、孤独、自己嫌悪……そんなのは、もうたくさんだ。


 分かっている。どこかで、このかせを破らなければいけない。『冒険・・』しなきゃいけない。


 分かっていても、理性が先行し過ぎて引っ込みが付かない。どう考えても危険な投機、地雷銘柄なのだ。



 その時だった。


「私は……怜司と一緒にやってみたいにゃん」


 サラが顔を赤らめて、両手を猫の手にする。


「お前、それは卑怯ひきょうだろ……」


「だ、だって、怜司に口で勝てないんだもん」


 サラが唇をとがらせると、今度はエスティアが俺の肩を小突く。


「やってみようよ怜司。僕はバカだけど、怜司と合わせて丁度良くなるさ」


「お前、丁度いいって何だよ」


「だって怜司、頭硬すぎるよ」


「頭硬いって――」


 今度はパースが口をはさむ。


「馬鹿な事を賢くやってみないか? なぁ賢王ロイヤル・マスターさんよ」


「……しょうがないな。無理だと思ったらすぐに戻るぞ」


 こうして俺達の戦いは始まった。


 この階段がAランク迷宮ダンジョンに通じている事は、後になって判明することになる。


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