099 夜は潜入ミッション
◇
「サブロー兄、起きる。サブロー兄」
俺の体が揺すられる。ラズリの声がする。もう夕方なのだろう。ラズリもう少しだけ、あとちょっとだけ寝させてくれ。
「ラズリ、甘いよ。サブローはそんなやわな揺すられじゃあ起きないよ。サブローを起こすにはこんな感じで、とおっ」
げばっ
ナビの肘が鳩尾に食い込む。
「ん、サブロー兄、丸まってピクピクしてる」
「ラズリもやってみる? 練習は必要だよ」
おいっ、ナビ、変な事をラズリに教えるな。いやまてよ、ラズリだったらいいかも。うん、これも兄妹の触れ合いだ。甘んじて受けようではないか。
俺は、痛いのを我慢してまた仰向けになった。
さあ、ラズリおいで!
「もう一度見せるね、とおっ」
げばっ
「ん、サブロー兄、白目でまた寝た」
「器用だなあ、サブローは」
◇
何かあったときのために、タワーの上で寝ていたのだが、それが仇になったかな。
俺は、腹を擦りながら望遠鏡で敵の状況を確認する。日が地平線に落ちる手前なので、タワーから確認出来るのは今日はこれで最後になるだろう。
「トーサンはかなり前進したな。ラズリが火魔法で支援してくれたお陰かな」
「ん、簡単だった。望遠鏡はよく見える」
「トーサンとラズリのコンビは最強だよ。ラズリが火魔法で攻撃、そしてトーサンが前進、もうだれにも止められないね」
「でも、トーサン重くなって、どしどしとしか歩けなくなったよな」
「いいんじゃない。子供たちには大人気なんだから」
「そうだな、まあいいか」
トーサン。それはトニーが2回目のバージョンアップした結果の名前だ。もちろん、ナビの命名。もう、だれも異存はない。
トーサンは、トニーの時よりもさらに一回り大きくなり、前の舌と後の尾の先端に鋳造したクナイを仕込んである。クナイの生えた尾をブンブンを振り回されたら近づけない。舌も同じなのだがもっと凶悪だ。カメレオンのようにクナイの生えた舌が伸びてくるのだ。剣や短槍で突かれても前進されては敵軍も後退するしかない。
「さてと、夜は俺たちの時間だ。行こうか、ナビ」
「よーし、頑張るぞ」
頑張るのはソルだがな。
俺は、ラズリに小刀を借り魔力を込めた。
(もしもし、バレンナご苦労さん、交替だ。ソル、町の門に櫓の上に集合だ)
(もしもし、承知)
(もしもし、サブロー兄さん、わかった。でも、なんでもしもしなのかな。やっぱりわからないよ)
(もしもし、バレンナ、気にしてはいけない。刀を使う武士のたしなみだ)
(もしもし、まあ、ソルがそう言うのだったら……)
(もしもし、みんなよろしく)
魔力を込めていきなり話し始めるのもどうかと思って、もしもしを頭につけようって事になったのだが、バレンナには受けが悪い。
ダメなのか、もしもし。
俺とナビはサーナバラタワーから降り、トアちゃんから夕飯代わりのお弁当をもらってパオースの西門に急いだ。いっしょに降りたラズリは、サーナバラ温泉ランドの仮住まいで休む。
◇
俺たちは、門前で集合し黒装束になり敵軍に潜入する。ソルだけだけど。ソルにはナビが俺の魔力を使って魔獣の姿を纏わせる。魔獣となったソルが敵軍の中で暴れるのだ。
真っ先にかがり火を消し、ソルは光の魔石のない箇所にいる騎士や従者を熊手で襲う。負った傷はまるで魔獣に襲われたようだ。
大きな騒ぎになる頃には、門の上にソルは逃げてくる。その後に俺たちは街道の入り口に移動して土壁をトーサンの所まで前進させた。自分たちの居場所が狭くなれば士気も落ちるかなと思っての策だ。
そして、俺はトーサンの魔石を交換した。心なしか元気になったように感じる。さあ、また元気に働いてくれと俺。おう、任せてくれとトーサンの四つ目がキラリと光る。
「これで今日の仕事は終わりだ」
「ご苦労様、サブロー。あとどれだけこんなことが続くのかな。夜更かしは肌に悪いんだよ、師匠の受け売りだけどね」
いやいや、ナビさん。ゴーレムの肌って夜更かしで悪くなる事はないんじゃないの。
「そうだな、ホスバの見立てだと、10日分程度の食糧しか持ち込めなかったはずってさ。だから、後9日ぐらいじゃないか」
「以外とかかるなあ。ねえサブロー、もっと短くならないの」
「そうだな、食糧を奪う、焼くはもうやっちゃって敵も食糧を分散配置したみたいだし、寝せないは実施中だし、あとどんな手があるかな。内応、反乱?」
「そんな手が使えるの」
「敵の内部に知り合いでもいればな」
「いたらどうやって内応させるの、お金とか?」
「そうだな、お金とか食糧とかかな。でも敵に知り合いなんていないだろ」
「主、知っている人間ならばいるぞ」
「えっ、いるの。ソルの知り合いが?」
「そうだ、変か?」
「いやいや、変じゃないよ。交友関係が広がるのは良いことだからどんどん知り合いを増やして良いよ」
「承知した」
ソルの知り合いかあ。俺たちが旅に出ていた間に出来たのだろうな。なんだろうこの気持ちは。娘の交友関係が広がっていく親の寂しさと娘の成長が嬉しいのが混ざったらこんな気持ちになるのだろうか。
「じゃあサブロー、ソルの知り合いに話を通して内応してもらう?」
「そうだな、ダメもとでやってみるか。ソルに問題なければ。どうだソル出来るか」
「問題ない」
「それじゃあ、ソル。明日は夜に潜入して昼に活動するミッションだ」
「承知」
サーナラバ軍の夜間攻撃は続きます。サブローたちは、さらに一手打ちます。
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