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097 街道が爆発し燃え上がる

 ◇


 若い男が、昨夜怪我をした者たちの具合を心配するかのように訪ね回っていた。そして、最後に湿地帯の街道の入り口に築かれた壁の高さを確認する。魔獣騒ぎの夜が明けると街道入口にはパオースの門の壁にも劣らない高さの土壁の砦が作られていた。まるで王国軍を街道内に閉じ込めるように。


 ドッドーン


 突如、街道が爆発し燃え上がる。燃え上がる炎を我関せずと巨大なトカゲ型ゴーレムがこちらに()ってくる。巨大なトカゲが自分たちに近づく分、街道をパオースの町の方向へと逃げる人々。


 街道の爆発も、トカゲ型ゴーレムの侵攻も今朝から続いている事だ。その内容に変化はない。そして、土壁の高さも今朝と比べて変化していないようだ。


「特に変化なしと」

 と若い男は、呟き仲間のもとへと戻った。


「おっちゃん、街道の王国側は特に変化はねえぜ。それから魔獣に襲われた連中を見てきたぜ」


 若い男は、急に声を小さくして話を続ける。


「やっぱり、魔獣じゃねえな。切られた怪我は比較的浅いもんだし、骨折や打撲も多い。それに魔獣に襲われて()られた奴が一人もいねえ」

「そうか」


「そっちはどうだった」

「パオースの門前で火魔法の応酬だ。どうもこっちの分が悪いがな。町の連中は火魔法が飛んできてもレジストしない。こっちの火魔法が、門に当たって爆発し燃え上がっても、門の天井の隙間から泥水を門に流すだけだ。どうやら門の裏には土砂がつまれているな」


「まあ、予想通りだがな。後は?」

「ああ、後はいくつかの天幕が焼かれたようだ。あれにな」

 ザンドは、遠くの塔を見て話を続ける。


「食糧もかなり焼かれてしまったようで、今じゃ火の術者以外の連中みんなでレジストをしている。それから、馬が一頭、爆発に驚いて沼にはまってそのまま沈んだようだ」


「ヤバイな俺たち。おっちゃん、どうする」


「策なしだ。せいぜい、頑張らないことにするさ」

「そうだな」

「俺は寝る。見張りを頼んだぞ、ルガオルド」

「ああ、わかった」


 ドッドーン


 また、街道が爆発し燃え上がった。


 ◇


 天幕に将軍と参謀たちが集まっていた。遠くで火魔法の爆発した音が聞こえる。


「参謀、今の状況を説明するのである」

「ハッ、現在我が軍は、予定通りパオースの西門に対して火魔法攻撃を仕掛けております。ですが、敵方の火魔法により予想以上に火力を集中することが出来ず、門を焼き崩すには至っておりません」


 参謀は、目の前のテーブルにある戦況模型に敵側の駒を置き、自軍を術者駒を後退させて説明する。


 ここまで、我輩を手こずらせるとは小癪な連中なのである。

「うむ、攻撃を続けるのである。街道の入り口はどうか」

「ハッ、攻撃を継続いたします」


「街道の入り口の状況については、私から報告いたします」

 副参謀の男が、参謀に替わり街道の入り口の説明を始める。


「昨夜の魔獣騒ぎと街道入口の土壁砦の件については、今朝の評議で報告した通りですので割愛いたします」

「うむ」

 将軍は頷いた。


「現状ですが、敵の塔よりの超遠距離火魔法攻撃と巨大なトカゲ型のゴーレムにより、徐々に後退を余儀なくされております。いまだに打開策がなく申し訳ございません。しかし、いずれ敵の魔力もつきましょう」


「うむ、我が方からはあの塔に攻撃は出来ないのであるか」

「ハッ、残念ながら距離があり過ぎます。敵も散発な攻撃。おそらくは数人による(かさね)魔法ではないかと」


「うむ、こちらも重魔法で先に塔を片付けられないもであるか」

「ハッ、残念ながら我が軍の術者たちによると重魔法は困難だと」


「うむ」

 パオースの者どもめ、また厄介な術者どもを雇いおったのである。傭兵部隊が街道の入り口の攻守担当であるが、死守など命じて反乱など起こされてもしかたないのである。


「仕方ないのである。街道の入り口の方面の部隊は徐々に後退させるのである」


「ハッ」

「では、街道の周りの湿地帯について報告するのである」


「ハッ、その件も私から報告いたします。まだ、すべては確認出来ておりませんが、調査した範囲では、すべてが底なし沼のようです」


 ざわざわ


 評議に参加している者たちがざわついた。


「うむ、引き続き調査するのである。だれぞ沼を渡河する策はないのであるか」

「「「……」」」


 若い貴族が将軍の許しを得て意見を述べる。

「梯子をいくつか繋ぎ合わせて沼に渡し、それを頼りに越えるというのはいかがでしょうか」


「うむ、だれぞ懸念点を述べるのである」

「日中では塔から丸見えの上、火魔法の良い的かと。実行は夜間が良いと愚行いたします。ただ昨夜に現れたという魔獣が気になります」

「私からも懸念点を述べます。沼を渡るには身軽になる必要があるかと思われます。甲冑などは置いていかざるおえないかと」


 ざわざわ


 貴族や騎士が甲冑を置いていくなど負け戦なのである。かといって傭兵たちを渡河させて、そのまま逃亡されては士気に響くのである。

「ほかに策のある者は?」

「土の術者の魔法で沼を固めるというのはどうかの」

 年長の貴族が意見を出す。


「その作業も日中は厳しいでしょうな。夜間にやらせますか」

 ほかの貴族が策に実現方法を肉付けしていく。 


 話し合いは続いたが、これといった策が出なかった。


「うむ、引き続き渡河箇所を調査するのである。術者の策は今夜やらせてみるのである。梯子渡河の策は保留とするのである」

「ハッ」

「将軍、報告は以上であります」


 将軍は評議に参加した者たちを見渡し、評議の終了を宣言した。

「うむ、解散なのである」


 評議に参加した貴族、騎士たちが椅子から立ち上がりぞろぞろと天幕から出ていく。将軍はひとり天幕の中に残り、テーブルに残る戦況模型を黙って見つめていた。


 ほどなく、天幕にひとりの男が戻って来た。参謀だった。


「将軍、お待たせいたしました」

「うむ」

「東地方の領主たちには、聞かせられない話ですから。」

「うむ」

「それで、食糧の件ですが1週間程度分といったところです。町の門を崩して押し切るか、街道の入り口の壁を取り壊すか、湿地帯を越えるかのいずれかになりましょう」


「うむ、どれが一番可能性が高いのであるか」

「はい、どれも同じようなものではないかと考えます。町の門を崩して押し切る以外は撤退と皆考えるでしょう。そうなった場合は東地域の領主たちが、どうでるかわかりません」


「うむ、仕方ないのである。町の門を攻撃するのである」

「ハッ」


 胸に右腕を添え頭を下げて、参謀は天幕から出ていった。将軍は、再びひとりになりテーブルの上の戦況模型を睨んだ。


 また、遠くで火魔法の爆発した音が聞こえた。





パオース・サーナラバ軍の想定外の攻撃により王国軍が攻めあぐねています。


次回、引く魔法と押す魔法

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