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094 あれは、なんだろう

 ◇


 街道を少し外れて、待ち伏せ出来そうな地形を偵察しながら進む。


「なあ、おっちゃん。あれ、なんだろうな」


 ルガオルドが指さす方向を見てみれば、確かにあれはなんだろうと思うに違いない。距離があるので声もかけられない。


 指さす方向にはメイドがひとり立っていて、その足元で娘二人が地面を掘っているように見える。


 メイドは、紺色の髪の上に白い髪止め。地面を掘っている娘たちは、長い輝く桃色の髪と短く輝く金髪をしている。その娘たちはズボンではなく、この地方では珍しいスカートを履いているようだ。


 うむ、農家の娘ではないようだな。パオースの商家の娘といったところだろう。地面を掘って何をしているのだ。


「パオースの商家の娘か」

「おっちゃんにもそう見えるか、やっぱり。それじゃあ、お友だちにならないとな。奴らに負けちゃらんねえ」


 先行する別の傭兵たちが、彼女たちに近づこうとしているのを見てルガオルドが駆け出した。そこに俺は声をかけた。


「ほどほどにしておけ」

「わかっているよ、おっちゃん。お友だちになるだけだ」


「メイドか、まさかな……」


 ルガオルドは、もう声の届かない所まで離れていた。俺は、周りに注意しながら歩いて追いかけた。


 ◇


「お嬢ちゃんたち、おじさんの相手をしてくんねえかな。泥遊びよりも楽しめるぞ」

「そうだぞ、俺たちは、優しいからな。いっぱい気持ちいい遊びができるぞ。俺たちと楽しもうや」


 男ふたりの傭兵たちが娘たちに声をかけるも、娘ふたりは小さなへらのようなものを使って地面を掘り続け、メイドはそれを見守っている。


「おいおい、お嬢ちゃんたち、ひとの話しを聞こうな。無視はいけねえ、おじさんたちが可哀想だろ。ほら、相手してくれないと泣いちゃうぞ……お前たちがな」

「まだまだ、若いのに可哀想なこった。だが、お前たちは運が良いぞ、こんな所で俺たちと会って。俺たちじゃなかったら、生きて帰れないからな。うんうん、お前たちは運が良い」


「……」

「……」


 傭兵たちが、娘たちに続けて声をかけるものの娘たちは無視を続ける。その反応に傭兵たちは顔を見合せ頷きあった。


「ふざけんな、てめえら。俺たちが優しく声をかけてやっていれば、つけあがりやがって」

「こうなったら、もう許さねえ。泣こうが喚こうが、許さねえからな」


 傭兵のふたりは、怒号をあげて娘たちに迫る。


「ちょっと、待ったぁ!」


 傭兵のふたりは、背から声をかけられて振り向いた。すると、知り合いが大声を上げながら自分たちに走ってくるのが見えた。


「おーい、ちょっと、待ってくれえ」


「なんだ、ルガオルドか。お前もやりたかったら並べ、俺たちの次だがな」

「そうだ、若造。俺たちが娘っ子を楽しんでから替わってやるよ。そこで指をくわえて待ってな」


 ルガオルドが、傭兵ふたりの所に着いて止まり、息を切らしながら言った。


「はあ、はあ、これだから、モテねえ奴はダメなんだ。女の扱いをまるでわかってねえ。丁寧に優しく、そして丁寧にだ」

「なんだと、若造がっ。お前がモテるっていうのかよ。そしたら、お前には、あのメイドをやるぜ。上手く決めてみろよ優男」

「そうだ、そんなに自信があるならやって見せろや」


「へんっ、見てろ。俺のテクニックを」


 ルガオルドは息を整えると、メイドの正面に回り込み声をかける。


「へい、そこの……どこかで合ったことあるよな、あんた。俺は、べっぴんさんは忘れないんだが……」


 ルガオルドの台詞を聞いた傭兵たちは、ゲラゲラと笑いだした。


「ふるっ、なんつう古い手だ。ルガオルド、お前本当に若いのか。若く見えて実は年食ってましたなんて落ちじゃねえよな」

「おいおい、ちゃんと真面目にやれよ。参考になりゃしねえだろ。お前にメイドをやった俺たちがバカみていじゃねえか」


「うるせいな、おやじども。俺は、本当に合ったことがあるんだよ。なあ、あんたも俺を覚えているだろ」


「ああ」

 メイドが短く答えた。


「どうだ、おやじども。彼女も俺を覚えているって言っているぞ」

「なんだ、ルガオルドの知り合いなのかよ。どうする、おいっ」

「おいっ、ルガオルド。本当にお前の知り合いなのか」


「たぶん」

「たぶんだと、……しょうがねえな。先に行くぞ」

「ちっ、ルガオルド、貸しだからな。覚えてろ」


 傭兵のふたりは、ルガオルドをおいて街道の方へお互いの肩を叩き合いながら、歩いていった。


「ふう、助かったな、あんたたち。あいつら、ああ見えて腕が立つんだ。でも、あんたとはどこで合ったんだっけ? あんたのようなべっぴんさんなら、忘れないはずなんだがな」


「パオースだ」


 ルガオルドの後ろから声がした。ルガオルドが振り返ると、ザンドが歩いて来ていた。


「パオースの小山の調査の時に、俺たちが敵わなかった女傭兵だ」


「はあ、……そ、そうだ、あの女だ。あんた、あんたはメイドだったのか」

「……」


 ザンドは、お前何を言っているんだ、落ち着けと言った目でルガオルドを見る。


「ラズリ、やっと見つけたよ。今回は結構深かったよね」

「ん、疲れた」


 傭兵たちを無視して地面を掘っていた娘たちが何かを見つけたようだ。娘たちは掘った穴から土だらけ塊をふたりで持ち上げた。その塊は人の頭程の大きさがあった。


「おじさんたちは、パオースを攻めようとしている人たちなのかな?」


 輝く桃色の髪の娘が、ザンドとルガオルドを見ながら聞いた。


「……」

「そうだ」

「おっちゃんっ」


「そう、わかった。助けてくれたみたいだからアドバイスするよ。適当に逃げてね」


 そう言うと娘は短く口笛を吹いた。すると、岩影から二頭の馬が現れた。娘はその馬に付いている鞄に土の塊を入れ、馬に乗り金髪の娘を引き上げた。もう一頭の馬にはメイド姿の女傭兵が乗った。


「じゃあね、おじさんたち。あんまり頑張り過ぎないでね」

 と言う台詞を残して、娘たちは馬の手綱を振り駆け出していった。ザンドとルガオルドは、それをずっと見ているだけだった。


「おっちゃん、あの娘たちはいったい何だったんだ」

「俺にも、わからん」


「……」

「行くぞ」


 歩き出したザンドの後を、首を傾げながらルガオルドは付いていった。




王国軍とパオース・サーナバラ軍?の第一遭遇でした。


次回、パオースの町は降伏しない


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013 場所/地理(王国勢力編) に 南地方の勢力が抜けていたので追加しました。


これから、お休みした昨日分をアップしたいと思います。続けてお楽しみに!


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