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091 戦場になるって事なのか

 ◇


 ヨーマイン太守夫妻のいちゃつきが終わるのを、辛抱強く待つ残りの者たち。これまでのコネロドの話を思い出しても大事とは思えない。まあ眼光鋭い男なんてざらにいるし、視力が弱いので睨んでいるだけかもしれない。


「そろそろ、よろしいですかな。先程の続きでございますが、王国より来た男たちですがパオースの町では家の数を、サーナバラでは温泉要塞の構造を調べていた様子でございます。また、サーナバラタワーでは、しきりにどこまで見渡せるのか確認していたとの事にございます」


「その方、何が言いたい」


 ヨーマイン太守がコネロドを睨むが、コネロドも負けずに睨み返す。


「ヨーマイン太守の配下の方々ではないでしょうが、どちらの方々なのか心当たりはありませでしょうか」

「ふん、我がヨーマインの敵に決まっておろう。誰かはわからぬがな」


「……」

「……」


 コネロドもヨーマイン太守も、お互い相手を見ているが頭の中では先の先をしきりに考えているに違いない。


「すみません。俺にもわかるように説明してもらえませんか」


 うわっ、みんなが残念そうな顔して俺を見るよ。すいません、お馬鹿で。


 ヨーマイン太守夫妻はソファーにくつろいでいて俺に説明する気はないようだ。コネロドもお茶を飲み知らん顔をしている。ヨーマイン太守の動きに対抗しての事だろう。


「俺から説明しよう、サブロー、どの」


 この状況を見かねたガンオが俺を助けてくれる。


「まず男たちの狙いだが、間違いなくパオースの町の兵力調べだ。それと町の攻略箇所の確認だな」

「先程の話だと、サーナバラの村は調べらていないとか。どういう事でしょう」


「それはな、サーナバラの村には壁がないからな。家数も少ないし、どうとでもなると判断したんだろうな」

「ということは、パオースとサーナバラが、王国に攻め込まれると言うことでしょうか」


「わからん。そこでヨーマイン太守様に助言をお願いしたいわけだ」


 王国の誰かがここに攻め込もうとしている。でも、なぜだ、ここに来るにはヨーマインの町を通らないと来れないから、ヨーマインの攻略が先じゃないんだろうか。


「おいおい、サーナバラ領主よ、大丈夫か。サクレ、ヨーマインとサーナバラの友好は早まったな」

「あなたっ!」


「すまぬ冗談だ。サーナバラ領主よ、許してくれ」

「いや、それは俺が浅慮なんで謝ってもらわなくて良いです。俺が考えたのはヨーマインの町があるからパオースとサーナバラは、攻められないのかと思ったんですが」


「その通りだ。ヨーマインの後背地にサーナバラがある。ヨーマインとしては背後に味方がいると思えるだけで十分戦える。敵もそれは感じているはずだ。だから、パオースとサーナバラを調べたのだろう。どのような相手が敵なのかとな」


「ヨーマイン太守は、どのようにパオースとサーナバラを評価しますか」

「サーナバラ領主よ、率直に言おう。こんな小さな町を落とすのは容易(たやす)いと」


「……」


 途中から目を閉じて、俺とヨーマイン太守のやり取りを聞いていたコネロドが目を開いた。


「敵の狙いはあくまでヨーマイン。いままで館で戦っていた太守様もヨーマインの町に立て籠もっての防衛戦を考えるはず。敵は、町の攻略戦を行っても撤退する可能性の方が高い。とするならば最初に後背地であるパオースとサーナバラを先に攻略しヨーマインの士気を落とすのもありと言う事でしょう」


「コネロド殿、良い読みだ。もし、パオースを攻める敵に釣られて、ヨーマイン軍が出て来たらその方が良いと考えているはずだ。ヨーマイン軍を叩けるチャンスだからな」


「やはり、パオースとサーナバラが戦場になってもヨーマインは軍を出さないと」


「その通りだ、コネロド殿。サーナバラ領主よ、この言葉がコネロド殿の聞きたかった事なのだよ」

「……」


 ちょっと待ってくれ。パオースとサーナバラが戦場になるって事なのか。


「すみません。王国はいつ攻めてくるんでしょうか」

「そうだな、仮に南地方の連中が今回の主犯として考えた場合、東地方に侵食はして来ているものの完全に掌握したわけではない。ヨーマインに敵対した連中を吸収しつつ東征する可能性が高い」


「ヨーマイン太守。私の部下の報告では、男たちには少し王国南地方の訛りがあったと」


「ほほう、コネロド殿は耳の良い部下をお持ちのようだ。うらやましい限りだな」

「いえ、王国の貴族様にはかないません」


 ヨーマイン太守もコネロドも、まだ全ての情報を出しているわけではないようだ。


 ダメだ。俺は、顔に出るし話せずにはいられない性格だから、ヨーマイン太守やコネロドのような服芸は出来ないよ。まあ、やる必要もないか。


「それで、いつ頃……」

「早ければ2ヶ月後に現れるだろう」


「ヨーマインを素通りさせるんですか」

「数によるがな。ひょっとしたら敵は古道を通ってパオースに現れるかもしれんな」


「一旦、休みをいれませんかヨーマイン太守様」


 ソルが再び、みんなにお茶を入れて配る。コネロドは軽食を摘まみながら今後の対応について話し合いたいと提案しヨーマイン太守は了承した。コネロドは、今日中にある程度の対応概要をまとめるつもりなのだろう。ヨーマイン太守が自領に帰る前に。


 ◇


 数日後、ヨーマイン太守たちは自領に帰って行った。温泉は怪我治りにはとても効果があった、また是非に来たいと言って。ヨーマイン太守の言葉は、なんとしてでも守り抜けと言うことなのだろう。俺たちのためにもヨーマインのためにも。


 俺は、ナビ、バレンナ、ラズリにコネロド商会であった話の内容を伝えた。3人とも最初は驚いたが、しだいに怒りだした。


「せっかく見つけたこの温泉を渡すわけにはいかないわ。それに、やっと色々な料理が出来るようになったのに。着る服も華やかになってきたのよ。ここまでくるのにどれだけ苦労したことか。絶対追い返すわよ、サブロー」


 いや、苦労したのはナビ以外だな。お前、食ってばかりだったろう。だが、ナビ、絶対追い返そうぜ。


「ん、温泉による衛生管理は重要、食が豊かになるのは大切、住む場所もあって着る服もある、ここは大切な場所」


 そうだな、ラズリ。ここは衣食住が揃った良い村だ。


「サブロー兄さん、もう、ここはみんなの故郷なんだよ。私は、守るよ、ここを」


 バレンナ、お前の言う通りだ。もうサーナバラは単なる村の名前じゃないんだ。みんなの故郷なんだ。


 誰が攻めて来たって守るよ。俺の力の限り、妹のため、みんなの故郷のために。


「さあ、みんな。悪巧みを始めようか」


 俺は、ナビ、バレンナ、ラズリを見回して宣言した。




パオースとサーナバラが戦場になりそうです。サブローたちは戦の準備を始めます。


次回、戦いに備えて

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