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090 (訪問者)お兄さんも男の子

 ◇


 つぶ餡の塩大福を美味しそうに頬張る。幸せそうな笑顔でもごもごと口を動かし、少し寂しそうに飲み込む。そして、また笑顔に戻り大福にかぶり付く。


 テーブルの上の皿にあった大福が徐々に減っていく。幸せな笑顔と引き換えに。


「お兄さんも男の子だったんだね」


 こら、なび。しかっかり飲み込んでから話しなさい。大福の白い粉が飛び散るから。可愛い顔が台無しだよ。


「この大福は買収かな」

「それは違うよ。この間、三郎が家に帰って来たときに、美味しそうに食べていただろう。だからまた買ってきたんだよ、なびが遊びに来るって言うからね」


「うん、この大福大好き。いつでも食べらるようにならないかな」


 そうだな、なび。海外じゃ大福は、なかなか手に入らないだろう。こっちに戻っている間だけでもいっぱい食べな。


「なびちゃん、大福食べ過ぎちゃダメよ。すぐお夕飯だからね。今日はお父さんも早く帰ってくるって連絡があったから、みんなでいっしょに食べられるわよ。それじゃ、お買い物にちゃちゃっと行ってくるから。お兄ちゃんとお留守番よろしくね」

「はーい」


 母さんが、夕食の買い物に出掛けて行った。これでひと安心だ。なびの口から変な風に母さんに伝わる前に、なびの誤解をといておかないと。


「なび、さっきのは誤解なんだ」

「大丈夫だよ。秘密にするよ、誰にもね」


 なび、お前絶対にそっちの方向に持っていくつもりだな。彼女との出会いの時といい結構策士だからな。ここで折れては既成事実になってしまう。


「いや、だから違うから」

「わかった。わかったよ、そういう事にしておくよ」


 なびは、ニヤニヤとした顔でお茶の入ったカップを持ち上げ、ずずうと飲む。

 俺は、頭が痛いよ、なび。


「ああ、美味しかった。大福最高」

「よかったな。また来るときに買っておくよ」

「嬉しい。お兄さん大好き」


「ありがとう。でも、食い気のなびに好かれてもなあ」


 へへへへと照れ笑いするなび。


「お兄さんは、見てもわからなかったの?」

「ああ、頑張ったが全然わからん」

「頑張ったんだ、頑張っちゃったんだ。やっぱりお兄さんも男の子だね」


「いやだから、そうじゃなくて……」

「はい、はい」


 ダメだ。なびには敵いそうもない。どんどん深みに嵌まりそうで恐い。


「ところで、お兄さん、師匠の実家に挨拶に行ったんだって。お母さんから聞いたけど、どうだったの」


「母さん……」

 俺は、こめかみを押さえる。


「ねえ、ねえ、教えてよ。私が恋の天使だったんだから。娘さんをお嫁にください的な感じだったの?」


「いや普通に、お付き合いをさせてもらっている者ですって挨拶だけだよ。お嫁にくださいは早すぎるだろ、俺の事も知らないのに。俺の事を良く知ってもらってからで良いんだよ」


「えー、師匠が可哀想だよ。お兄さんのこと大好きなのに。早く安心させてあげなきゃ」


「彼女には、きちんと言ったぞ。結婚を前提にお付き合いさせてほしいって」

「もう、そうじゃなくて……」


 ぶつぶつと(つぶや)くなび。何が悪いんだ?


「なびから見たら、俺たちふたりはどう見えるのかな」

「もちろん、ベストカップルだよ。私の目に狂いはないの。なにせ私は、全知全能に最も近いんだから」


「はい、はい。ありがとな」

「もう、信じてないな」

 頬を膨らませて怒るなび。


 いや信じているよ。俺と彼女を引き合わせてくれたじゃないか。それだけで、全知全能でも天使でもあるんだよ。


「母さんが帰ってくるまで時間がない。パソコンを持ってくるから、ちょっと待っててくれ」

「うん」


 なびは、生返事。もうひとつ大福を食べようかと手を伸ばしたり、首を振りながら手を引っ込めたり。


 俺は、自室に行ってノートパソコンを持ち出し居間に戻る。


 なびは、涙目になりながらも大福は諦めたようだ。なびが注意散漫になりそうだから片付けておこう。俺が大福の皿を持ち上げると、なびはああぁと切ない声を出して手を伸ばす。それを尻目に俺は大福を片付けた。


「さあ、やろうか」


 俺は、大福のなくなった居間のテーブルでノートパソコンを開き、ブラウザを立ち上げた。


「これは、そうかな?」

「全然違うよ、ちょっと貸して」


 俺は、なびにノートパソコンの画面を向ける。なびが、カチャカチャっとキーを押してページを検索している。目当てのページが見つかると、なびは俺にノートパソコンの画面を向け直した。そして、画面に映っている画像を指さして言う。


「まず、これと、これ」

「全然違うじゃないか!  これじゃ、俺は探せないはずだ」

「格好いいよね、これ。髪の色とか瞳の色とかバッチリ。それでキリッとした表情だもんね」


 俺は、ページをマークした。他にもあるのだろう、母さんが帰ってくるまで時間との戦いだ。


「なび、他にもあるのか」

「もちろん、ああ見えてファンは多いんだよ」


 なんだと! ゆるせん。

 趣味は続けて構わないが、独り占めもしたい。


「こんなのはどう?」

 なびが見せるページには、魔法少女がいた。なんだ、この可愛さは。将来、娘が出来たらこんな()になるのだろうか。俺は、すかさずマークする。


「次を見せてくれ」

「せっかちだなあ、もう。次はこれかな」


 ページに写ったものを見て、俺は言葉を失った。


「この体のラインが最高だよね、エロいよね。そして、この流し目にやられた人が多いんだよ」

「……」


「お兄さん、お兄さん、聞いてる?」


 俺は、黙ってマークした。


「次!」

「お兄さん、ちょっと恐いよ」


「いいから、次!」

「はいっ」


 なびは、涙目になって次から次へと目的のページを検索しては表示した。俺は、それらを全てマークする。




お兄さんも男です。興味も独占欲もあります。


次回、戦場になるって事なのか


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今月も忙しくなりそうです。平日はSSS更新、週末に本編更新を予定しています。

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