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009 魔獣に咥えられて

 ◇


「おい、兄ちゃん、いいもん乗ってんじゃねえかよ、俺らも乗りてえな、そうだろっお前ら?」

 そうだ、そうだ、俺も乗りてえぞ、と周りの者も囃し立てる。


 今俺は、髪はボサボサ、髭は延び放題、歯は黄色で全体的に汚なく臭い3人組の男に囲まれている。

 リーダー格の男は腰に両刃剣を他の男らは背より長い槍を持ち、上半身に革の防具を身につけている。そして、痩せたロバを連れている。

 こいつら、どう考えても盗賊だろ。


「いやぁ、これ一人乗りなんで無理」

「はぁ、おい、おまえら聞いたか?これ一人乗りだとよ……わかるわボケッ」

「わかってもらえてよかった。んじゃ」

「おっ、気いつけてな……って言うと思ってんのか」


 俺は黙ってトカゲゴーレムの歩みを進める。

「てめえ、聞けっ! 」


 リーダー格の男が無視されたのが可笑しいのか他の男らはゲラゲラと笑い、無視されてるぞ、などと囃し立てる。それに煽られたリーダー格の男は顔を真っ赤にしてトカゲゴーレムに近づいて俺を捕まえようと手を伸ばしてきた。

 俺は伸ばしてきた腕を避けてトカゲゴーレムから飛び降りた。リーダー格は急に俺が居なくなったために座席位置に腹ぶつけて呻いた。


「どうぞ、乗っていいよ」

 俺がトカゲゴーレム乗りを譲ると言うと、リーダー格の男を嘲笑う仲間の声がさらに高くなった。

「もう、ゆるさねえぞ、てめえ覚悟しろ」


 リーダー格の男は剣を抜き俺に近づいてくる。男は剣を振るが俺はひらりひらりと避ける。男が振り回している両刃剣は太く幅広で当たっても切れそうもない、日本の刀と違い切るのではなくぶつけて叩きのめす武器のようだ。


 俺が男の剣を避けていると、遠くの方で獣の雄叫びが聞こえた。

「おいっ、何か聞こえなかったか?」

 と俺は剣を振り回すリーダー格の男に聞くものの怒声が返される。


「うるせい、ちょこまかと逃げやがって、てめえらも手伝え」

「しょうがねえな、貸しだぞ」

「めんどくせえぜ」

 槍持つ男たちが左右から逃げられないように牽制しながら迫ってくる。


「もう、おしまいだ観念しな」

 とリーダー格の男が言ったとき世界が震えた。

 それは空からやって来て、ズドンと地面に着地したかと思えば咆哮した。


「グオオオオーーン」


 それは虎よりふた回り大きく灰色で、4つの赤い目を持った獣だった。

 俺も盗賊たちもみな弛緩して動けない。

 獣は赤い目を俺に合わせ歩み寄る。


「なっ、なんでこんなところに魔獣が?」

 だれかが呟く。魔獣の意識が俺に向いたので動けるようになったらしい。盗賊たちはジリジリと魔獣から遠ざかる。


「……」

 俺は言葉を発することも動いて逃げることも出来なかった。

 魔獣は俺の目の前に来ると大きく口を開け俺を咥えた。そして咥えたまま何度か振り回わすと立木に向かって俺を放り出した。俺は地面を這うように飛び、鈍い音とともに立木に当って俺の体は壊れた。俺の手足は変な方向に向いており首は直角に曲がっている。


「グオオオオーーン」


 再び魔獣は咆哮すると盗賊たちの方を見た。

 盗賊たちは武器を放り投げ、悲鳴を上げて転げるようにやって来た方角へ戻るように逃げていく。

「ひええっ」

「たすけてくれぇ」

 魔獣と盗賊との間に距離があったせいか魔獣は追いかけていかない。

 魔獣はゆくっりと俺の目の前にまで来るとガブリと噛みつくのだった。

 たまたま、その時に盗賊の一人が振り向いて見てしまった。ぎゃー喰われたっと叫びさらに足を加速させた。


 ◇


「俺、完全に喰われたな」

「そうだね、美味しそうにバリバリ喰われたね」

「うう、気持ち悪るぅ、魔力切れ一歩手前だぜ」

「うんうん、頑張った頑張った、よしよしなでなで」

「俺ちょっと寝るわ、起きたら村に戻ろう、あとよろ」

「了解」

 魔獣に咥えられ立木にぶつけられ喰われた俺はもういない。最初から居なかったのだが。

 そう、盗賊たちとやり取りしていた俺と俺を喰った魔獣はすべて、俺の魔力を使ってナビが盗賊たちに見せた幻だ。


 村から出て二日目、たまにレーダーで索敵していた俺は近づいてくる者に気が付いた。盗賊なのか商人なのかわからない。最悪を考えて今回のシナリオを描いていたのだった。

 すでに逃げた盗賊たちのマークは俺のレーダー範囲から出ていった。


 ◇


 ナビが俺のほっぺにチュッと褒美のキスをしてくれた。よせよ、照れるじゃねーか。ナビはキスを止めずさらに顔全体を舐めはじめた。俺が頑張ったからといってもやりすぎだ。タンマ、タンマ!?

 それにしても、ナビのヨダレ臭いな。


 んっ?


 俺は違和感で目を覚ました。顔はびしょびしょだ。おまえかよ!

 ロバが俺の顔を舐めていた。


「おっ、起きたね、ロバがすごく心配してたみたいだよ、どうしたのいやそうな顔して」

 いやいや、誰だってロバに舐められるのはいやでしょ。ロバの涎ってすごく臭いんだよ。


「特に変わったことは」

「特になし、全て予定通りだよ。頑張ったからほっぺにチューしてあげようか」

 ナビは口を突き出して言う。


「……いや、いいや」

「なんだよ、私のチューに魅力がないって言うの? 特別なのに……チュッってされただけでスキルアップするんだぞ」

「えっ、マジで」

 俺はスタッと立ち上がりナビを掴まんばかりに近づく。


「……うそです、そんな特殊効果ありません。ごめんなさい」

 いや、ナビのチューには絶対なんかの特殊効果がありそうだ。素直にチューされていればよかった。スキルアップするって聞いて、目が真剣モードになったから引かれちまった。

 ナビさん、つぎ頑張ったらチューください。


 盗賊を撃退し、ロバ一頭、両刃剣一本、槍二本をゲットした。さあ、村に戻ろう。


 ◇


 トカゲ型のゴーレムに乗った男が村に向かって進んでいる。男は手足をだらりとさせて、なんとか乗っている状態だ。

「今さらなんだが、魔獣っていたんだな、四つ目とかありえねえ」

「えー、あんなの普通でしょ、盗賊もびっくりはしていたけど存在は否定はしてなかったでしょ」

「そおだけど、あんなのに勝てる気がしないな」

「いや別に戦わなくていいんじゃない。結構気のいい奴も多いし、荒くれ者ばっかりでもないよ」


「いい奴……あんなのがウジャウジャいるのか?」

「この辺にはあんまりいないよ、獲物少ないから……あっ! ストップ、ストップ、サブローここ掘って」

 たまにナビから魔石があるから掘って見つけろと指示される、まあゴーレム用電池になるので黙って掘る。ザクザクと土を掘ると魔石を見つけた。すでに八つになった。魔石って売れんのかな?


「ナビさん、もういっこ質問」

「なに?」

「なんでナビとか村の人とか会話できんの? 俺、日本語話してるよね。まさか、村の人も日本語話してるとか」

「何いってんの。こっちの言葉を話してるに決まってるよ」


 決まってんだ。不思議そうな顔をしていたのだろう補足してくれた。

「だ、か、ら、サブローはゲスト登録したでしょう。だから言葉を話せるのよ」

 と腕を腰に当て胸を突き出して言う。


 揉むぞ、こらっ!

 出たよ、なぞのゲスト登録。

 まったくもってよくわからんけど、チートってこったな。オッケーだぜベービィ。


 なんやかんやと話していた間に村に到着した。もう夕方になっていた。


 ◇


「商人さん、どうしたんだ戻ってきて、また商売か?」

 最初に会った門番の男ではないが、にこやかに声をかけてくれる。塩を買った人かまたはその家族なのだろう、塩を安く販売したのが好感度アップになったのかな。

「途中で盗賊に合って引き返して来たんだ」

「えっ、無事だったのか? 見ればわかるか、もう夕暮れだ、村に入ってくれ」


 村の門番が門扉を開けて中に入れてくれる。

「悪いが村長の所で詳しく話してもらうぞ」

「ああ、わかった」

「付いてきてくれ」


 門番の男は、他の者と役目を替わり俺を村長の家に連れて行った。村長の家も他の家と違いはなく日干しレンガで出来ている。大きさもあまり違いはない。

「ちょっと待っててくれ」

 男が家の中に入って暫くすると出て来て、家に入ってこいと手招きする。

 家に入ろうと入口に近づくと、家の中から長老たちをここに呼んで来てくれと声がし、ここまで連れて来てくれた男は別の家に向かって走っていった。


「入りますよ」

 俺は一声かけ家の中に入っていった。

 中に入ると十畳ぐらいの広さの部屋になっていて、他の部屋に続く草を編み込んだドアがある。この部屋は土間になっていて木の切り株のような低い椅子が部屋の土壁にそって並べられている。

 部屋の中には一人の男だけが椅子に座っていた。


「よう、俺がこの村の長だ」

 最初に会った門番の男だった。




サブロー、盗賊を撃退しました。戦ってないけど。


次回、増えるの?


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2016/12/16 一部の獣→魔獣に変更

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