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087 呪われた刀

 ◇


 ソルが抜いた剣は錆びだらけ、ほかにおかしな所は見受けられない。俺がイメージする日本刀とは異なり刃と背の幅が広い。それでも、この世界の剣よりは狭いぐらいだが。


「うむ、主、残念だがこれでは使えん」

 ソルが、刀をかざし見て言う。


 そりゃそうだ。錆びだらけだしな、刀身が錆でどれだけ弱くなっているかもわからない。


「ソル、抜き身じゃ危ないから、鞘に戻して館に持って帰ろう。他に欲しいものがあったら買うけど」

「承知」

 ソルが刀を抜いた時と同じガリガリ音を立てながら鞘に刀身を戻していく。


 ガリガリッ、キンッ


 ソルが、刀身を鞘に戻す途中で刀身が折れてしまった。ソルが、折れた刀を持ったまま、今まで見せたことのない悲しい顔で俺を見る。バレンナとガンオも悲しい顔で俺を見る。


 えっ、俺なの? 


 折れた刀を見ていると、俺の鳩尾の辺りがシクシクする。そう、ナビに拳を入れられる前のような感じだ。


 ソルに、なんと声をかけたものか。


 声を出そうとした瞬間、剣をたくさん抱えた丁稚が俺の方によろけて来た。支えてあげようと一歩前に進み手を伸ばすと丁稚が持っていた剣を全て落とす。俺の足がある上で剣の刃を下にして。


 ギャー


 俺は、慌てて足を引いて後ろに下がる。足のあった場所に剣が落ち、固い地面にも関わらず突き刺さる。


 あぶねえな。


「すみません、怪我はありませんか」

 剣を落とした丁稚が謝るが、俺は気にするなと答えた。


「主、危ない。かがめ」


 俺は、ソルの声がかかると同時にかがみ始めた。すると、少し低くなった頭の上を短槍の柄がかすめていく。


 おうお


 勢いつけてしゃがみ込んだため、ごろんと背の方に転がった。転がった先に短槍を持って振り返った男がいた。


「兄さん、すまねえな、怪我はないか。丁稚さんが俺に声をかけたのかと思って、槍を持ったまま振り返っちまったよ」

「いや、大丈夫だ。でも気を付けてくれ」


 俺は、地面に寝たまま答えた。男は、すまねえと答え離れていく。


 ふう、なんだいったい。


「サブロー兄さん、危ない」


 えっ、今度はなんだ?


 とにかく、この場所から離れようと俺は、ごろごろと転がる。すると、俺の頭がコツンと何かに当たったので止まった。目を開けると暗い。なんだろうと手を伸ばして触ってみる。俺の頭は、すっぽりと何かの布の中に入ったようだ。


 なんだこれ、もみもみ。


「ん、サブロー兄、ん、ダメッ」

「サブロー」


 ラズリの震えた声とナビの静かな声がする。ヤバイ、このナビの声はヤバイ奴だ。


「サブローは、妹のスカートの中を覗くのが趣味なのかな」


 ヤバイ、来る! ぐべっ。


 ◇


 俺は、見せ物じゃねえ。早く通り過ぎろ。


「サブロー、聞いているの?」

 さーせん。


 俺は、市場の通りの端に正座させられていた。通りを行き交う人たちは、なんだ、なんだと俺を見る。まるで、罪人の披露目だ。いや、確かに罪人なんだが。


 バレンナとガンオは、この場にいるのが恥ずかしかったのか、早々に他の剣を見てくると言って居なくなった。


「公衆の面前で兄が妹のスカートの中を覗くのは如何(いかが)なものかと思うよ。ラズリがかわいそうでしょう。覗きたいんだったら、本人と周りの了解を取った上で、みんなの前で覗くのが筋ってものじゃないの」


 どんな、羞恥プレイだよ。俺にそんな趣味はないぞ。と言うか狙って覗いた訳じゃないからな。だが、俺は、早期解決を望む男だ。


「誠に申し訳ありませんでした。謝罪いたします。次回よりは皆様方と事前にご相談させて頂いた上で、行動に移させて頂く所存でございます。なにとぞ、今回はご勘弁のほどお願い致します」


 俺は、地に頭を着けた。ザ、土下座。


「仕方ないなあ、これどうする、ラズリ」

 ナビは、カエル肉焼串塩味の串で、俺を指しながらラズリに聞く。


「ん、モグモグ、赦しても、モグモグ、いい」


 も、も?


 ラズリは、カエル肉焼串塩味にかじりつき、リスのように頬っぺたを少し膨らませながら言う。


「ははあ、このサブローめが1ヶ月間毎日カエル肉焼串塩味を献上させていただきます。いかがでしょうか」

「ん、赦す」

「ははあ、有難き仕合わせに存じます」


 聞いていたナビがラズリに、まだまだ甘いよ、もっともっと引き出さないとと耳打ちしている。ナビお前、俺からどんだけむしり取る積もりだったんだよ。


「主、その茶番劇は終わったか?」


 ソル、なんて玉を俺に投げるんだ。ナビの目が光ったじゃないか。どうしよう。


「ソル、これは茶番ではないぞ。しかし、円満解決だ」

「そうか、それならば良い。この剣をどうする。そして、この投げナイフセットと短い剣を買ってくれ」


 はて? おお、そうだった。俺たちは、剣を買いに来たんだった。俺は、土下座モードを解除して、店主に武器代金を支払う。


 しかし、何だったんだろう。この一連の出来事は?


「ん、剣が怒ってる」

「ラズリ、剣が怒っているって、一体なんのこと」

「サブロー、その子が折られて怒っているんだよ。かなり恨んでいるみたいだよ」


 なぬ、この出来事は恨み効果なのか。呪われた刀じゃねえか。


「ナビ、どうやったら解呪出来るんだ」

「サブロー、別に呪われている訳じゃないよ。でも、直せばいいんじゃないかな」


 ええぇ、直すってどうすればいいんだよ。やってみるしかないか。それに、直らなかったらこんなことが起きるんだろ。十分呪いだよ。


「わかった。その刀を直すよ」

 俺がそう言ったとたん、ずっと腹のシクシクとしていた感じがぴたっと止まった。やっぱり呪いかよ。




サブローは刀に恨まれました。呪われてはいません。違いがわかりませんが……


次回、黙って仕事していればイケメン

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