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086 キャラバンがやって来た

 ◇


 パオースの町に沿海州からキャラバンがやって来た。王国で内戦が拡大しているのを見込んで、武器防具を売り込みに来たのだ。多くの荷馬車に商人たち、そして商隊を守る護衛たち大集団だ。数日間は王国の情報収集を兼ねてパオースの町に逗留し、市で武器防具を販売するらしい。


 俺は、バレンナ、ソル、オドンと領軍メンバーを連れてパオースの町に武器防具を調達しに訪れた。


「バレンナ、ソル、それにオドンたち、良い武器防具があったら買っていいぞ。金は心配するな俺が払うから」


「「「ありがとうございます、領主様」」」

 オドンに金の入った小袋を渡すと、オドンたちは先に礼を言い沿海州商人の出店へ突撃していった。そこには10店ほど荷馬車を店舗として市を開いている。


「さあ、俺たちも、見に行こうか。バレンナもソルも欲しいものがあったら遠慮無く言ってくれ」

「わかった、主。早速、小型の投げナイフを束で欲しい。ブーツとスカートの裏に収納出来るようにもして欲しい」


 おお、ソル、わかっているじゃないか。スカートの裏に暗器、そそるね。


「あと、刀か、切れる剣もお願いしたい」

「なんかソルが積極的だな。でも刀かあ、ここにあればいいけど、なかったら作ってみるか」


「主、作れるのか」

「いや、形だけだったら真似出来る程度だと思うよ。全然本物じゃない代物だよ」

「そうか、それは残念だ」


 ソル悪いな。刀の知識なんかは持っていないから作れないよ。


「バレンナは、何か欲しいものはないのか」

「うん、私は、別にいつも短槍だし」

「でも、この前の魔獣の時は、短槍が折れてソルから剣を借りたんだろ。剣も持っていた方がいいんじゃないのか」

「そうなんだけどね。でも、長い剣だと私じゃ、戦うときは邪魔になるんだもん」


「では、少し短い剣はどうだ。我が見てやろう」

「うん、ソルがそう言うなら見てみようかな」


 武器防具のことになると積極的になるソルが面白い。俺たちも荷馬車やその前の地面に置かれている武器防具を見ようと近づいた。そこには、大小の剣、短槍などの武器、革や金属の防具などが所狭しと列べてある。そこには、珍しくふたつに分離された長槍もあった。繋げると4mぐらいになりそうだ。誰が買うんだ、こんなもん?


 ソルは、バレンナを連れ武器を物色している。こればダメだ、それもダメだと容赦ない台詞が聞こえてくる。やたらダメ出しをするメイドに商人が苦笑いしている。


 俺は荷馬車にから少し離れてふたりを見ていた。

「でも、なんでパオースの商人たちが仕入れて王国に売りに行かないのかな。儲けそうなのに」


「それには、俺が答えよう、サブロー」


 俺の独り言に後ろから返事があったので振り返ると、そこにはガンオがいてバシバシと俺の背中を叩く。


 痛いよ、ガンオのおっさん。


「よう、サブロー。お前も剣を買いに市に来ていたのか」

「こんにちは、ガンオさん。いやいや、残念ながら俺はお供ですよ」

と、視線でバレンナとソルがいることを伝える。


「なるほどな。だが、お前も剣ぐらい持ったらどうだ、無用心すぎるぞ。剣を持ってたほうが安全だ」


 剣を持っていたほうが、相手も警戒して襲われるリスクが減るのはわかる。だが慣れない剣を持つのは、バレンナじゃあないけど邪魔なんだよな。


「忠告ありがとう、考えておきますよ。ところで、さっきのパオースの商人が仕入れない理由って何ですか」


「それはな、武器類の商売は確かに儲けるが恨まれるからだよ。戦争を拡げた犯人としてな。それにパオースの商人が大規模でやると、王国の内戦が終わったときに儲けた金欲しさに攻め込まれても困るからな。もし隣国でなかったらパオース商人も武器防具を売って儲けるさ」


 なるほど、儲け過ぎるのも問題ってことか。俺も気を付けよう、と言ってもサーナバラはいつも金欠気味だけどね。金鉱とか見つからないかな。


「儲けるのもほどほどにって事ですね。ところでガンオのおっさんも、剣を買いに来たんですか」

「まあ、そんな所だ、備えあれば憂いなしだからな。それから、おっさんは余計だぞ。サブロー」


 俺が、頭を掻きなが乾いた笑いをあげていると、バレンナとソルが戻って来た。


「主、良いものが見つかった、買ってくれ。おっ、ガンオ殿もいたのか、いっしょにどうだ」

「ガンオさん、こんにちは。見たことのない剣があったので、いっしょに見ませんか」


 ガンオが、いいぞと返事をしたので、みんなで剣を見に行くことにした。その剣がある店は、すぐ近くの荷馬車の出店だった。店番をしている人間にソルが声をかける。


「店主、先程の剣をもう一度見せてくれ」

「おや、さっきの人かい、あんたも好きだね。ちょっと待ちな、また出してくるから」


 店主と呼ばれた男は、荷馬車の奥に入っって一本の剣を持って戻って、その剣をソルに渡した。


「その剣は、さっきも言ったように、うちの土蔵の奥に寝ていたもんで、鞘から抜くことが出来ないんだ。かなり古いしろもんのようだから鞘の中で錆びついてるかもな。もし、鞘から抜けたら無料(ただ)であげるよ」


「どうだ、ガンオ殿、この剣なのだが見たことはあるか? 鞘の外見からではかなり細身の剣に思えるのだが」


「いや、見たことのない形だ。よし貸してみろ、鞘から抜けたら無料なんだろ」


 ソルから剣を受け取ったガンオが、鞘から剣を抜こうと剣の柄を引くものの一向に抜けない。段々、ガンオの顔が赤く染まっていく。ガンオのふんっ、ふんっの声に合わせて、俺まで息を止めてしまった。


「ダメだ。これは抜けそうもない」


 この剣、まさかな。


「バレンナもやってみるか?」

とガンオがバレンナに聞くが、バレンナは無理無理と手を左右に振って断る。その仕草を見たガンオは、剣をソルに返した。


「ソルは、その剣を抜いてみたのか?」

 ガンオがソルに聞いたが、ソルは首を横に振る。


「主、やってみても良いか」

「いいぞ、こういうのは英雄の仕事だからな。ソルにうってつけだ」


「英雄の仕事って何? サブロー兄さん」


「俺の知っている話だと、岩に突き立てられた剣を誰も抜くことが出来ないんだ。ある日、長引く戦さによって荒廃した故郷を憂いた若者が、この剣を抜くことが出来たら、俺は故郷の国から戦いを無くすと宣言したんだ。そして、剣を見事抜いて宣言した通り故郷の国から戦さを無くしたのさ。人々は彼を英雄って呼んだんだ」


「へえぇ、すごい奴もいたもんだ。確かにそんな事が出来たら英雄だな。ソルなら抜けるかもな」

「ソル、すごーい、頑張って抜いてね」


「お客さん、盛り上がっている所ですまないが、そんな由緒ある剣じゃないからな。抜けて錆び付いていても文句言わないでくれよ」


 店主さん、おとぎ話だから大丈夫だ。そんなことにならないことは分かっているよ。


「それでは、主、それから店主、やってみる」


 ムキムキのガンオのおっさんでさえダメだったものを、メイド姿のソルでは出来るはずがない、無理だと思っている店主は好きにしろとこちらを見ようともしない。


 ソルが、鞘と柄を持ち引く。最初はびくともしなかったのに、ガリッと音がしたと思ったら少しずつ、鞘から柄が離れていく。異変に気づいた店主と俺たちは、息を飲んでその光景を見守る。


 ガリガリガリッ


 完全に鞘から剣が抜かれた。


「だからいったじゃないか。錆び付いて抜けなかっただけだとな。そんな錆びた剣は売れないから、記念に美人のメイドさんに無料であげるよ」

「かたじけない、店主」


「それにしても、妙な剣だな。片刃だぞ」


 そう、ガンオの言う通り、その剣は片刃だった。それは、日本刀だったのだ。




ソルが抜けない剣を鞘から抜きました。英雄伝説の始まりでしょうか?


次回、呪われた刀

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