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008 村に来た商人

 ◇


 辺りはすっかり闇に包まれている。できれば風下であることを祈りながら、音を立てないよう村がある方に歩いていく。トカゲゴーレムは置いてここまで歩いてきた。異世界テンプレであれば不用心に村に入り簀巻きにされるパターンだ。これは遊びじゃないぞと俺は自分に言い聞かせる。


 村の外周は人の背程の土壁で、壁の上部には陶器の破片らしきもの上に向けて並んでいる。土壁の下はV字の浅い堀になっており容易に乗り越えられない作りとなっている。村の入口にあたる門は木製のようだ。寝静まったのか村から音はしなかった。

 俺は村の外周を確認すると無理せずトカゲゴーレムまで戻ることにした。


 村の外周を見て考えたが、この世界は異世界テンプレ通り治安は悪そうだ。あの土塀は動物避けか?人避けか?

 今夜は村から離れた場所で寝ることにしよう。


 ◇


 さて、昨日今日と野宿となっているがどのような寝床にしているかというと、まず3m四方の地面を出来るだけ上から圧縮する。

 幅1m長さ2m高さ1m位の穴を掘る。そしてそこに寝転びトカゲゴーレムを呼ぶ。のっそのっそとトカゲゴーレムが真上に来たら完成だ。ぱっと見た目は大きな土のトカゲ像だし、隙間があるので外の様子もわかる夜行性の動物が来てもなんとかなる。全部魔法だけどね。

 卵は夜の間になくなったらナビが騒ぎそうなので足元に転がしてある。


「これが最後の晩餐だ」

 なんちゃって、最後の木の実を味わうように何度も噛んで飲み込んだ。食料はもうない。明日、村に入って交渉しないと。

 俺は日課になった魔石への魔力注ぎを終えすっかり脱力したので寝ることにした。


「ナビ、おやすみ」

 ナビは、いつもの如く姿がなかった。だんだん俺の扱いが雑になってるな。

 気絶と睡眠はどうも別物のようで、俺はすぐに寝息を立てはじめた。

 

 朝、日の光がトカゲゴーレムの隙間から差込んでいる。穴が深いせいかそれほど眩しくない。

 トカゲゴーレムの腹をドンドンと叩くとのっそのっそと前進を始め穴からどいてくれた。

「ナビ、おはよ」

「おはよう、サブロー、今日は頑張って食糧調達しないとダメだぞ、頑張れ」

「おう、任せとけ」

 ドンと胸をたたく。

 水を一杯飲んで早速村に行くことにする。

 

 ストーリーはこうだ。俺は商人、壺一杯の塩を売りに来た。金でなくても食料での支払いでオッケー。食糧をゲット。村なので現金よりも物での支払いのほうが良いはずだ。ふふ、完璧なシナリオだ。


 俺はふと思った疑問をナビにぶつけた。

「ナビって、おれだけに見えるのか? ほかの人にも見えるのか?」

「基本的にはサブローだけだね、もっと魔力を消費していいなら周囲も巻き込んで見せることできるよ。たとえばサブロー中心に100m範囲の人全員に見せるとか」

「おれが決めていいの? この人は見せる、この人には見せないなんてのもできる?」

「もちろん全然余裕だよ、でもサブローの魔力次第だね魔力は使えば使うほど効率的になるけど、魔力切れには注意だよ」

「そっか俺の魔力次第か」

 なるほど、意外と使えそうだぞ。相手の五感を制御できるってことだもんな。俺もチート無双できるかな? まだまだ物理は無理か。まずは、商人でスタートだ。


 トカゲゴーレムと卵はここに置いて、空いた壺に塩を詰めて持っていく。

 ナビには俺だけ見えるモードでお供をお願いした。まるで……ごめん守護霊だ。

 

 ◇


 昨日下見した村の入口の門まで来ると木製門ではなく木を格子状に組んだ門になっていた。格子の隙間から村の中が見えそうで見えない。門に近づくと誰何された。

「そこで止まれ、おまえはだれだ!」

 男の声はするものの姿は見えない。遠くでカラカラとなにかの音が聞こえる。警報だろうか?


「おまえはだれだ!」

 すぐに答えなかったのでさらに強い声で誰何された。

「俺は商人だ」

「そんな恰好の商人は見たことが無いぞ、村に入れるわけにはいかない、立ち去れ!」

「俺は商人だ、恰好は関係ないだろ」

「おまえひとりか?」

「ああ、俺ひとりだ、見たらわかるだろ」

 俺は壺を地面に置き、両手を開いて後ろを見てまた前を見て、俺ひとりだを繰り返した。


「商人ならば何を売るんだ」

「塩だ、塩を持っている買ってくれ」

 門の内部からざわついた音が聞こえる。

「本当に塩か?」

「少し持っていくから確かめてくれ」


 俺は近くにあった木の葉に塩を少量盛り、木の格子の門の隙間から地面に置いてもとの位置に戻った。すると布を頭に巻きつけた男が死角から現れ、塩が盛られた木の葉を取りまた消えた。しばらく待つと先ほどの男がまた現れた。

「商人と認めよう、村に入ってくれ」

 やっと村に入れるようだ。


 ◇


 村の門のトビラは二重だった。穴だらけの木の格子だけなら不安だろう。二つ目の門扉も木のトビラだが厚い板のトビラだった。昼なので厚い板のドビラは開いていたのだろうか?


 村の土塀の内側には村人の家が十数軒あり百人程度が住んでいるようだ。家は日干し煉瓦で出来ていてみんな平屋だ。三部屋あるぐらいの広さだろうか。 

 門番の男は門番を交代し監視を兼ねて俺を案内してくれる。

 物騒だからしかたないよな。


「疑って悪かったな商人さん、盗賊の仲間かと思ったからな」

「盗賊?」

「ああ、定期的に俺たちの村に来ては脅して、みかじめ料といっては食糧を奪っていくんだ。もう俺たちも後がないから戦うことに決めたんだ」

「……」

「すまんな、商人さんには関係ない話だったな、では取引しよう、こっちに来てくれ」


 門番の男に連れられて行ったのは、村の中央の少し開けた広場だった。村人がふれまわったのかぞろぞろと村人が集まってくる。門番の男と同じように男も女もみな頭に布を巻いている。服は一様に継ぎ接ぎだらけで埃っぽく汚れている。

 男たちの背格好は俺より背が高い、ちなみに俺は170ちょっとだ。女たちは男たちより頭ひとつぶん低いぐらいだ。一番びっくりしたのは髪と目の色だ! アニメに出てくるキャラにように多彩だ。異世界の鉄板なのか黒髪に黒目は居なかった。

 そして、みんな痩せていた。


 村事態はあまり裕福ではなく逆に貧しそうだ。

 この村に泊まるのは止めてつぎの村か町を目指そう。


(ナビ、この村から次の村までトカゲゴーレムだとどのくらいかかる?)

(うーん、三日ぐらいかな、この村より大きい町だね)

(そっか、じゃあここで儲けを考えなくてもいいか)

 

 門番の男と話すことで友好的な商人をアピールしておこう。

「ところで、この村から一番近い町ってええと……」

「パオースの町のことか?」

「そうそう、パオースの町には買い出しにはいかないのか?」

「盗賊が出て巻き上げられるため沢山の量を買い出しできなくなって困ってる」

「役に立てそうでなによりだよ、さあ取引しよう金でも食糧でも取引するぞ」

「それは助かる、商人さん、食糧だとどのくらいで交換してくれるんだ」

 塩は必需品だ。みんな欲しいためか耳を立てて俺の言葉を待っている。


「そうだな、食糧だったら塩の十倍……」

 村人達の顔色を見る。みな一様にやはり高いなって顔だ。この辺では十倍値が適正価格なのだろう。俺は言葉を続ける。

「十倍と言いたいところだが、これもなにかの縁だ、三倍でどうだろうか?」

 えっ、安い! と皆口々に言って買うぞ買うぞと俺に迫ってくる。

 トカゲゴーレムに積んである塩の半分くらい売ってもいいかな。


 ◇


 商売大繁盛とまではいかないが、トカゲゴーレムに積んである塩の三分の一くらい売った。

 もう少し安くてもよかったかも、三日じゃ食いきれないほどの食糧を入手したよ。

 いも類、干し肉、干し果実などで、塩を入れてきた壺に入れても溢れるくらいだ。


「商人さん、この後は町に戻るんだろ、もし盗賊が来たら戻ってきてくれ、いっしょに戦ってほしい」

「いや、大丈夫だ、俺が追っ払ってやるよ!」

「そりゃいい、頼もしぞ商人さん」

 わははははと笑いあった。お互いに取引がうまくいき安心したのか変なテンションになっていたようだ。

 

 俺は村を出て町に向かった。




サブロー、村に到着後商売し町に向かって出発。

短い滞在でした。


次回、魔獣に咥えられて

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