077 もしや、あなた様は
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(もしや、あなた様は……)
ドラゴンの重厚な声が頭の中に響く。するとキャーと言いながら、ナビが両腕を大きく振り回しながらドラゴンへと突進した。
ナビ、ご乱心?
ナビは何かを喚きながらドラゴンへと突進するが、滝の水が落ちる音にかき消され、ナビがなんと言っているのかは、俺たちが居る場所には聞こえない。ドスドスと前に進む翼の無いドラゴン、両腕を振り回しながら突進するナビ。それを見ているしかない、俺、バレンナ、ラズリとフィナ。
やがて、ドラゴンとナビは会合した。
ドラゴンは立ち止まり、ナビの頭の高さまで首を下げナビの話を聞いている。ナビは身振り手振りで何かを伝えている。ナビの動作が終わると、ドラゴンの首が一回だけ縦に振られた。すると、ナビはドラゴンの鼻面をバシバシと叩き、ビシッと腕を伸ばすとドラゴンに向かって親指を立てた。
「「……」」
何でもありだな、ナビ。
ナビが俺たちに向かって、おいで、おいでと手をヒラヒラさせて呼んでいる。
「どうする、行くか。大丈夫みたいだぞ」
「ん、サブローが行くなら」
「うん、私も」
「私もサブロー様が行くなら付いて行きます」
フィナが、ぎゅっと俺の手を握る。フィナは健気にも俺に付いてくると言ったが、やはり巨大なドラゴンに近づくのは恐いようだ。
「バレンナ、ラズリ、フィナはここで待っていてくれるかな。ちょっとナビと話してくるよ」
「サブロー兄さん、私もいっしよに行くよ」
「バレンナ、ありがとう。ナビの事だから大丈夫だと思うんだけど、まずは、俺だけで行ってくるよ。大丈夫って確認したら3人を呼ぶからね」
「う、うん」
3人には落ち着いて待っているようにお願いして、ナビとドラゴンのもとに歩いて行く。だんだん近づくにつれてドラゴンの様子が良く分かる。ドラゴンは、頭から尾の先までが20mぐらいあり、翼はなく薄い青色の体をしている。近くに寄ると、その色は身体中を覆っている鱗の色とわかる。俺の頭より大きい鱗が一枚一枚重なっているのだ。
異世界物だったら、この鱗を使って鎧とか作るんだよなと思っていると、ドラゴンと目が合った。拳ぐらいの瞳孔が7つ、俺をジロリと見る。
「ひっ」
こええぇ!
一口で俺を丸のみ出来そうな口が、俺を待っているようで怖い。ナビの奴、良くバシバシとドラゴンの鼻面を叩けるもんだ。ある意味、尊敬するよ。
「サブロー、遅い。なんで、みんな来ないのかな?」
いやいや、無理無理、俺もガクガク膝が笑っているよ。いつでも腰を抜かせるぐらい体中が震えているよ。
「ご、ごめん。お、俺が待っているように言ったんだ」
「そうなんだ」
ドラゴンが俺を見定めるように顔を寄せてくる。
だから、怖いって。声まで震えるだろ。
「ナビ様、こやつが例の……」
「そうそう、サブローだよ」
ドラゴンがしゃべった! どこから声を出しているのかはわからないが。
「サブロー、こっち、ドラちゃん」
「ナビ様、わしにも名前があるのだが」
「まあまあ、いいから、いいから」
とナビは再びドラゴンの鼻面をバシバシと叩く。まあ、あの鱗だ、ドラゴンからしたら痛くも痒くもないのだろう。それにしてもドラちゃんは無いだろう、ドラゴンが全部ドラちゃんになっちゃうじゃないか。良いのかそれで。
ナビはドラゴンから様付けで呼ばれている。ナビはドラゴンより上位設定なんだとわかった。
俺は、小声でナビに確認する。
「ナビ、このドラゴン大丈夫だよな。俺たちを食べたりしないよな」
「おい、聞こえているぞ小僧。わしは人間なぞ食べん。踏み潰すだけだ」
げっ、もっと悪いじゃねえか。
「大丈夫、大丈夫、ドラちゃんはそんな事しないよ。そんな悪い子じゃないもんね。ひょっとして、そこが心配だった?」
「そうじゃぞ小僧、わしは悪い子じゃない」
「……」
ナビに誉められたのが嬉しいのか、得意気な顔をしているように感じた。たぶん、どや顔をしているのだろう。
わかんねえよ、ドラゴンのどや顔なんて。
「サブロー、じゃあ神殿に行こうか。でもここに入れるのは私とサブローだけなんだよね。どうする?」
「俺だけってなんで? ベリーグの神殿のようにみんなで魔法を覚えるんじゃないのか」
「小僧、ここを、その辺の神殿といっしょにするでない。ここは」
「ドラちゃん、ドラちゃん、しーだよ」
「はっ、そうでした。ナビ様、この小僧が」
いやいや、俺じゃないでしょ。自爆だよね。
「ナビ、俺は神殿に行くのは良いが、バレンナたちはどうするんだ。ここに残ってもらうのか?」
「そうだったね、バレンナたちに残ってもらうから、ドラちゃんを紹介しておかないとダメかな。ドラちゃんに守ってもらうんだから」
「えっ」
ドラゴンもここに残るのか? バレンナ、ラズリ、そしてフィナは平気かな。
ナビが走って3人のともへ行き、事情を説明しているようだ。
「おい、小僧。貴様、先程からナビ様を呼び捨てにしよってからに。あのお方はな、貴様ごときが呼び捨てに出来るようなお方ではないのだ。畏れ多くも」
「ドラちゃーん」
「はい、ナビ様なんでしょうか?」
このドラゴンは、なんて調子の良い。
はっ、ナビ、お前、本当はご隠居様だったとか?
ナビが、バレンナとラズリとフィナの3人を連れて戻って来てドラゴンに顔合わせをする。
「バレンナ、ラズリ、フィナちゃん、紹介するね。こっちがドラちゃん、ちょっと強面だけど、良いドラゴンだから安心してね。こうやってバゴバゴ叩いても平気だから」
「「「……」」」
こらまて、ナビ、目の前でドラゴンを叩くな。ドラゴンが暴れるんじゃないかと気が気でない。ほら、3人とも固まっているじゃないか。
「ドラちゃん、こっちのバレンナとラズリは私の妹よ。そして、この子が我が家の新人メイドのフィナちゃんよ。大切な家族なんだからちゃんと守ってよ。3人とも可愛い娘だからって甘噛しちゃダメよ」
「「「……」」」
おいこら、ナビ、フラグになりそうな事を言うな。ドラゴンに甘噛されたら只じゃすまないだろ。ほら、3人ともカッチンコッチンに固まっただろう。
「ナビ様、わかりました。この、ドラちゃんが必ずやこの娘たちをお守りいたしましょう。娘ども、お前たちを守るゆえ、わしから一歩たりとも離れるでない」
このドラゴンついに、自分のことをドラちゃんって言っちゃたよ。ドラゴンとしてのプライドは無いのか。
ギロッ
あっ、すみません。すみません。ペコペコ。
「ごめんね、3人とも、ちょっと野暮用で滝の奥にサブローと行ってくるよ。ドラゴンの棲みかだから、私とサブローしか入れないんだよね」
「3人とも、ちょっとナビと行ってくるから、待っててくれ」
「サ、サブロー兄さん」
「ん、サブロー兄、ずるい」
「サ、サブロー様」
ああ、3人とも涙目だ。ごめんよ、頼りにならない兄で。
何があるのかわからないが、俺は、ナビに連れられて滝へと足を進めた。
ドラちゃんが、バレンナ、ラズリ、フィナを守ってくれます。3人は涙目ですが、サブローは安心して滝の裏の神殿へ。
次回、神殿の最深部
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サンタさんのプレゼントか? 年末までは毎日更新出来ような雰囲気です。
あくまで雰囲気なので、本編投稿できなかったらSSS更新となります。