076 見てくれ俺の火魔法を
◇
ドドドドド
水しぶきを巻き上げる滝の正面に俺たちはいる。馬車は道端によけて残し馬たちは放した。ナビが呼べば駆けつけてくれるだろう。ぽけーと滝を見上げているバレンナとフィナに大声をかけた。
「下から見上げるのも迫力あるな」
我に帰ったバレンナが、そうだねと返事してくれた。
俺たちは、誰もいない滝で火魔法の練習をしようということで、滝の下まで降りて来ていた。終わったら滝の神殿にも寄れるしね、一石二鳥だ。
「ん、ここ、魔素が濃い」
「そうだよ、ラズリ。ここは魔素が濃いから魔法が強力になるわよ。さあ、みんな、ここで火魔法の訓練をするわよ。滝に向かってガンガン火魔法を撃ってね」
「おう」
試しに俺が、火の矢が滝に向かって打ち出されるイメージで火魔法を発動する。フィナがいたので良い所を見せようと呪文も言ってみた。
「炎よ、矢となって進み爆ぜろ」
俺は、天に向けた二本指の先に握り拳大の火の玉をなんとか作り、そのまま二本指を滝に向かって振り下ろす。火の玉は、山なりに滝に向かって落ち、そして爆発して水蒸気を上げた。
「凄いです。サブロー様って術者だったんですね」
「う、うん、実はそうなんだ。ちょっとだけ魔法を使えるのさ」
やっぱり、火魔法はいまいちだ。俺のイメージでは、炎の玉じゃなく炎の矢だったし、びゅっと直進するはずが山なりだ。うーん、ナビに肩もみしてもらっても効果なしなのか?
のへっ!
突如、俺の横に長さ2mぐらいの炎の槍が現れたと思ったら、一直線に滝に向かって飛び、ぶち当たって大きな爆発とともに、もうもうを雲を作った。
「なっ?」
「サ、サブロー様。何ですか、今のは?」
振り向くと、目を見開きびっくりして固まっているラズリがいた。さっきの火魔法の犯人はラズリのようだ。俺は、ラズリの顔の前に手をヒラヒラさせて尋ねる。
「ラズリ、ラズリ、大丈夫か」
「……ん、大丈夫、ちょっと、びっくりした」
うん、俺もびっくりしたよ。
「ラズリ、凄い。私もやってみよ」
バレンナも火魔法を発動させるとラズリの炎の槍より、かなり小さい炎の矢が現れ滝に直進し爆ぜた。
「凄い、凄い、凄いです。バレンナ様も、ラズリ様も術者だったんですね。凄いです。あれ、どうしたんですかサブロー様、地面になにやら見たことのない紋様を書いて」
ああフィナ、これはね、のの字っていう伝統の紋様なんだよ。なるべく隅で書くものなんだ。
「ナビーッ」
「サブローなによ、涙目で。ほこりでも目にはいったの? 取ってあげようか」
「ありがとう、でも違うんだ。火魔法の事だけど、肩もんでもらったのに、あんまり効果がないみたいなんだ。どうしたらいい」
「そっち。うーん、魔法は使えているしね。あの肩もみで効果なかったら実践あるのみだよ。もうちょっと頑張りなよ、サブロー」
「そうか、わかった。もう少し頑張ってみるよ」
俺たち術者3人組は、滝に向かって何度も何度も火魔法を放つ。そのうち、バレンナがもう魔力が切れそうと言い練習終了。俺とラズリがガンガン火魔法を放つ。ラズリの火魔法は一発一発の規模が大型化していき、俺は一発一発はショボく小さいものの速射速度を増していく。
言うなれば、ラズリは大砲、俺はマシンガン。それで、バレンナは玉数の少ない大口径ライフルって感じかな。練習していくうちに、ラズリやバレンナと比べて小粒だけど、これはこれで、良いかなと思えてきた。
人と比べても仕方ないか、俺は、俺なんだから。これが俺なんだよな。
「ん、サブロー兄は、サブロー兄」
「そうだよ、サブローは、サブローなんだから」
ラズリとナビが、俺を励ましてくれる。知らず知らずのうちに、みんなに心配をかけていたようだ。
「サブロー兄さんが、凹んでいたと聞いたけど、もう大丈夫なの?」
「ああ、もう大丈夫だ。心配かけたな」
フィナは事情がわからず、首を傾げている。
「みんな、ありがとう。おかげで、サブロー復活! 見てくれ俺の火魔法を、ウリャー、アタタタッ」
細かい火の玉を滝に向かって連射する。
「ウリャ、ウリャ、ウリャー、ウハハハ」
火の玉を連射、連射、連射する。
「サブロー兄さん、大丈夫かな」
「ん、壊れた」
「サブロー様……」
「いや、それよりも……」
俺は、土魔法で鍛えた効率化で、小さな火魔法はかなり連射がきくようだ。笑いが止まらないぜ。ウハハハ、ウリャー。
(いい加減にせぬか。すぐに、ここを立ち去れ)
「えっ?」
俺は、キョロキョロと周りを見た。バレンナとラズリにも聞こえたようで、キョロキョロと周りを見ている。誰かを探すように。
頭の中に直接響く声。この感じはナビと念話するときの感じだ。だが、ナビの鈴を転がすような清涼感はなく、年老いた重厚感を感じる。
ナビを見ると顔に手を当て、やり過ぎちゃったと呟いている。
「ナビ、今のは……」
なんだ。と聞こうとしたのだが、空気が変わった。空気が重くなったのか、息苦しさを感じる。
ドドドドド
滝の水が落ちる音だけ響いている。鳥などの動物の気配を一切感じなくなった。ここだけ別の世界になったかのように。
「サブロー様、あれ……」
フィナが、滝を指差して言う。
滝を見ると流れ落ちる水が、見えない何かに当たり徐々に2つの流れに分かれていく。分かれた先にある滝の裏側は真っ暗で何も見えない。そして、真っ暗な空間は徐々に拡がっていく。
「なっ」
「サブロー様、何が始まったんですか」
不安そうな顔をしたフィナが俺を見上げる。俺にも分からないんだと応えフィナの手を握った。フィナを安心させてやりたかったのか、俺が安心したかったのか。
「ナビ、バレンナ、ラズリ、逃げよう」
声でない声、それに続く滝の変化に戸惑っていたバレンナとラズリもなんとか持ち直し、俺に応えてくれる。
「うん、サブロー兄さん、わかったよ」
「ん、逃げる、賛成」
ゆっくりとみんなで後退を始めた。滝の奥を見つめるナビを除いて。
「ナビ、逃げるぞ」
「うん、どうしようかな、別に危険は無いんだけど。面倒臭そうだから、逃げようかな」
ナビは、ブツブツと言いながら、俺たちを追って後退を始めた。
(この気配、もしや……)
再び、声なき声。俺たちは足を止め、滝に出来た真っ暗な空間を見た。真っ暗な空間から、こちらを見る目が光ると闇が動き、何かが奥から出始めた。
俺たちは逃げることを忘れ、呆然とそれを見ていた。ゆっくりと姿を現したそれは、薄い青色の体、左右に3つの目、そして、額に1つの目を持っていた。
群青色の7つの目を持つ巨大なドラゴンが現れた。
滝の裏から、ドラゴンが現れた。どうするサブロー!
次回、もしや、あなた様は




