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074 メイドの優雅な生活

 ◇


「いや、本当にすまない、すまないです。サーナバラの領主様だったとは、おれ、いや私は神殿出身で傭兵をやっているエスケアと言います」

 エスケアは、どこかで俺たちがサーナバラ領主一族だと確かめてきたようだ。


「いやいや、俺の方こそ、言葉が足りてなかったよ。それに俺は、商人出身だから、そんなに畏まらなくても良いよ。普通にしてくれ」

「そうだよ、エスケアさん、こっちこそ神殿の管理人をやってもらっているんだから、楽にして」


 神殿の管理人のエスケアに、俺たちがサーナバラ領主一族で神殿の状況を見に来て、キチンと綺麗に管理されていることに感心したことを伝えると、エスケアはほっとしたようだ。


 エスケアの話によると、女の傭兵は要人護衛などの仕事はあるももの、女だと言うことで周りに舐められるなど苦労も多いようだ。しかし、神殿の管理人の職は収入が若干少なくなったものの傭兵家業より安定し、危険も少ないので満足しているとのことだった。


 強そうな姉さんなんだが、苦労しているんだな。


「領主さんが、話の分かる男でよかったよ。実はシスターがサーナバラに移住したあとに預かった孤児がひとりいてな。サーナバラに戻るんだったら、その子を連れて帰って欲しいんだが、いいかい」


 もちろんだ。俺は、話の分かる男だ。


「その子は、今どこに」

「近くの飯屋で働いているよ。寝泊まりは神殿だけどね。働き口は、自分で見つけてきたんだ」

「凄いじゃないの、その子。自分で仕事を見つけて来るなんて、サーナバラに引っ越す必要あるの」


「ナビさん、それが給金は出ないんだ。(まかな)い飯を食わしてもらっているだけで、飯が給金代わりなのさ。子どもなんざ、そんなもんだけどよ。だったら仲間がいるサーナバラが良いと思ったんだが、ダメかい」


「サブロー兄さん、ナビ姉、私も仲間といっしょがいいと思うんだけど」

 バレンナはひとりっていう言葉に反応して、うるうるっとした目で俺を見る。


 いやいや、ダメって言ってないからね。バレンナ。


「サブロー、ダメなの」


 こらっ、ナビ! 俺が反対している風な雰囲気出すな。


「もちろん、サーナバラに連れて行くのは構わないよ。でもサーナバラに来ても、その辺はあんまり変わんないよ」

「サブロー兄、それは、ぜんぜん、違う。サーナバラで勉強出来る、計算、読み書き、料理、武芸、それは、可能性に繋がる」


 おお、ラズリが饒舌だ。よっぽど勉強出来る環境が気に入っているのかな。まあ、確かに、この世界では特殊な事なのかも知れないな。そうだ! 勉強で可能性が拡がるのなら、子供たちが独り立ちするときに渡すお金の積み立てシステムも考えておくか。


「サブロー、これでもダメなの?」


 おいっ、ナビ! だから、俺を悪者にするな。俺は、善人を目指してんだからな。


「分かったよ。その子をサーナバラに連れて行こう」


「やったー、それでこそ、サブローだよ」

「サブロー兄さん、ありがとう」

「ん、良くやった」


 もう、すっかり悪者だよ。くくくっと、エスケアが笑っているのが見えた。


 ◇


 その子の名前はフィナ。日暮れ前に神殿に帰って来た。10歳ぐらいの女の子。サーナバラに移住するかを本人に確認する。


「フィナ、こんばんは、俺はサブローと言ってサーナバラの領主をしているんだ。以前、この神殿で暮らしていた子供たちが移住した先の村の人間だよ。フィナもサーナバラに移らないかと誘いに来たんだ。サーナバラに来ないかい?」


 フィナは、目を細め俺を胡散臭げに見た後、エスケアを見た。エスケアは頷く。


 おや、俺が怪しい人に疑われたのかな? しっかりした子だな。感心、感心。


 フィナは作り笑顔になると、自分はどんな仕事をすることになるのかと尋ねてきた。

「そうだな、温泉っていう商会の下働きか、うちのメイド見習いかなぁ」

「……フィナは、メイド見習いがいいです。まだ、小さいですがサブロー様の相手をしてもいいです」

「はあ?」


「サブロー兄さん、小さい子がいいの」

「む、サブロー兄、小さい子ダメ」


 いやいや、俺は小さい子がいいと思う男じゃないよ。おまわりさんのお世話にはならないよ。


「フィナ、俺の相手はしなくてもいいんだよ。普通にメイドの仕事をしてくれれば、それでいいんだよ。俺の相手は仕事に入らないから」

「サブロー様、フィナが小さい子だからですか。大きくなったら、相手してもらえますか」

「はあ?」


「サブロー兄さん、メイドさんが好きなの」

「む、サブロー兄、メイド好き」


 いやいや、確かに俺は、メイド好きだが、これとそれは別物だぞ。


「サブロー、モテモテだね。ハーレム出来そうでよかったね」

 ああ、ナビの満面の笑みが悔しい。

 妹たちや、ちみっ子にモテても仕方ない。俺は、ボリュミーなお姉さんにモテたい。


「ナビ、何とかしてくれ、俺は説得出来そうもないよ」

「仕方ないな、サブロー貸しだよ。フィナちゃん、良く聞いてね。サブローの愛人になるには順番待ちなんだよ。バレンナ、ラズリ、ソル、トアちゃんの次だから、フィナちゃんは5番目だね」


 ええぇ、何て事を言うんだ、ナビ。バレンナとラズリがジト目で睨んでるじゃないか。それに、貸しって何だよ、俺から何をむしり取るつもりだよ。


「そんなぁ、苦労の無い優雅な生活が……」


 がっくりとうなだれるフィナ。よくよく聞いてみると、領主家→メイド→愛人→優雅な生活のつもりだったと告白した。


 まあ、なんと言うか、しっかりとした子だ。


 結局、フィナはサーナバラに来て領主屋敷でメイド見習いをすることになり、いっしょにサーナバラに移動する。ただ、フィナが移動前に飯屋に辞めることを伝えたいと言うので、あらためて翌朝、迎えに来ることになった。本当にフィナはしっかり者だ。


 神殿での用事も終えたし、エスケアに今後の事もお願いできたので、俺たちは神殿を後にした。出掛けに、エスケアには一度サーナバラに来てシスターやフィナや他の子供たちに会ってもらって、サーナバラ温泉を堪能してもらうよ、それも管理人の仕事だからと言ったら、少し嬉しそうな顔をした。


 ◇


 さて、フィナは誰の下で働いてもらおうかな。メイド繋がりだと、ソルなんだが、ソルはメイド服を着ているだけでメイドらしき仕事はしていないからな。フィナの武装メイドをイメージする。イメージが出来ない、ダメだな、ソルじゃない。


 ホスバかな。家令から指示を受けるメイド。うん、ばっちりなんだけど、ホスバは商会の仕事もしていて不在が多いから、ダメだ、ホスバも無理か。後は、俺、ナビ、バレンナ、ラズリは領主一族だからな、オドンは領軍だし、サーナバラも人材不足だなぁ。


 あっ、トアちゃんがいたよ。トアちゃんが良いじゃないか。トアちゃんもしっかりさんだし。うん、そうしよう。トアちゃんは料理長兼メイド頭に昇格だ。


 あと、庭師を探さないと。誰かいないかな?




フィナの優雅な生活は、難しそうです。サーナバラ領主は、庭師を募集しています。


次回、サーナバラに帰るよ

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