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072 神殿の巫女

 ◇


 晴れ渡った青い空、浮かぶ雲、エメラルドグリーンの海、真っ白な砂浜、焼けたオレンジ色の家々の屋根と白い壁。


 素晴らしい景観だ。海と町を見渡せる丘に来ていた。海からの風が沿海州の暑い気温を和らげる。涼しい木陰で景観を堪能しながらランチを食べる。もちろん4人で、いいピクニック日和だ。


 俺が背負ってきたランチを、食べ続けるナビ。ランチを食べ、お腹一杯で瞑想するラズリ。ランチを食べながら海や町の景色を、楽しんでいるバレンナ。


 そして、灰色の俺だ。


 鮫の野郎、今回は水着回と決めていたのに邪魔しやがって、絶対、フカヒレ料理で食べてやる。でも、バレンナが嬉しそうだから、まあいいや。


 ああ、風が気持ち良くていい日だなぁ。


 前回、この町に来たときは治癒の代償で悩んでいたから、この空も、この海も、この町もくすんで見えた。今は、こんなにも輝いて綺麗な色の世界に見える。


 何が、違うんだろう?


 だんだん、眠くなって来たなぁ……みんな、おやすみ。


 さわさわと、風が撫でていく。

 誰かが、俺の頭を撫でてくれたのかもしれない。


 ◇


 神殿にやって来た。今日も4人行動だ。神殿の扉を叩くと、冒険者か傭兵かよく分からない大柄な女が出てきた。女は、俺たち4人を胡散臭そうに見ていたが、サーナバラから来たと挨拶したら、ちょっと片付けるから待っていろと言われた。暫くすると女が扉を開けて招き入れてくれた。


「サーナバラから来たんだって、シスターや子供たちは元気にやっているかい」

「ああ、みんな、元気にやってるよ。あんたもサーナバラに遊びに来るか。代わりを寄越すぞ」


「いや、その言葉だけで充分だ。元気だっらそれでいいさ。ところで用事とはなんだい」

「奥の部屋に用があってね、いいかな?」

「……別に構いやしないさ、私はいない方がいいんだろ」


「そうだな、どっちでもいいんだが……じゃあ、これで飯でも食って来てくれ」

 女に飯代を渡すと、扉の鍵をくれた。


「?」

「用がすんだら、扉に鍵をかけて帰ってくれていい。鍵は外の花壇の石の下に置いてくれればいいさ。あんまり、汚さないでくれよ、これでも綺麗好きなんだ。じゃあな」


 言うだけ言って、女は神殿から出て行った。

 あっ! あの女、勘違いしたな。あとで勘違い解かないと問題になりそうだぞ。


 神殿の中は意外に片付いていて、あの女は本当に綺麗好きなようだ。以前、訪れた時と違って神殿の中は幾つかの部屋に区切られていた。入口の部屋は、半分に仕切られ大広間と小分けされた3つの部屋になっている。小分けされた部屋は寝床なのだろう。そして、奥の部屋は、祭壇や長椅子があるだけ。グランマが来たときに使えるようになっていた。ちなみに、この神殿にある祭壇も単なる四角い大きな石だ。


 俺たちは、奥の部屋に入った。ナビは、祭壇に手をつけ目を閉じ数秒間じっと何かを確認した。確認が終わると祭壇から手を離し、振り返り笑顔で俺に聞く。


「それじゃあ、始めようか。サブローからやる?」

「ちょっと待ってくれ、ナビ。ここは何の神殿なんだ。みんな魔法を使えるようになるのか」

「大丈夫だよ、みんな使えるようになるよ。どれだけ魔法が使えるかは、とりあえず本人の資質と魔法との相性によるけどね。それと、この神殿は火の神殿だよ」


 なるほど、とりあえずってことは、抜け道ありってことか。それがゲスト登録なのか。


「火の神殿と言うことは、火の魔法ってことだな」

「そうだよ。じゃあ、行くよ」

「おう」


「ちょ、ちょっと、サブロー兄さん、ナビ姉、何の話なの。魔法使えるって何。ぜんぜん話していることがわかんないよ。ラズリは知ってたの」

「ん、知らない、でもなんとなくわかる」

「ラズリ、ダメだよ。サブロー兄さんもナビ姉も適当過ぎるがら、任せたら危ないよ」

「ん、わかった。サブロー兄、ナビ姉、説明求む」

「うん、うん」


 あれっ、言って無かった?


「あれっ、ベリーグには魔法取得に来たんだけど、言って無かった?」

「サブロー兄さん、聞いてないよぉ、そんな事。でも、私もラズリも魔法使えるようになるの?」

「ん、私も、知りたい」


「魔法って急に使えるようになるの? 子供の頃に覚えるものって聞いたけど」


「いや、おれも良く知らないんだ。ナビに教えてもらったから。体に中にある魔力と、体の外の魔素を混ぜて、やりたい事を願うと魔法になるぐらいしか」

「サブロー、正解だよ。分かってるじゃないの。」


 まあな、俺は、分かる男だ。ちょっと自信がないけどな。


「本当は、だれでも、いつでも魔法が使えるようになっているんだけど、最近は大人になっても使えない人が多くなってるよ。それに使えても弱かったりして、やっぱり覇気が足りないのかな。でも大丈夫だよ。ちょっとしたコツで魔法が使えるようになるから」


 コツ? コツってなんだ?

 それに、使えるようになっているってどういうことだ。本当に謎が多いぞ、ナビ。


「ん、ナビ姉すごい、尊敬」

「ナビ姉すごーい。サブロー兄さん、何でナビ姉そんな事できるの?」


 バレンナ、俺に振るなよ。分かる男だけれどな。俺は、ナビを見ながら、なんと答えようか迷った。


「そ、それは、……ナビが……巫女さんだから?」

「なんで私に聞くかな、巫女さんって何よ、サブロー」

「超常現象と生物を繋げる人?」

「私、職業、巫女さんね」

 どこが受けたのか、ナビは巫女さんになった。ツボがわかりずれえな。


「バレンナ、ラズリ、ナビが巫女さんってことは内緒な。知られると変な人がたくさん寄ってきそうだから」

 バレンナとラズリは、コクコクと首を縦に振ってくれた。


「という事で、バレンナもラズリもサブローといっしょに魔法覚える? 大丈夫だよ、ぜんぜん痛くしないから」


 ナビ、お前はどこのナンパ師だよ。


「うん、痛くないなら魔法覚えようかな」

「ん、魔法、覚える」

「よし、ナビ頼む、俺からだ」


「じゃあ、3人とも行くよー」

 ナビは、ポンポンポンと俺とバレンナとラズリの頭を撫でるように軽く叩いた。


「はいっ、出来た」


「「えっ」」

「ん、ありがと」


 ええぇ、驚こうよラズリ。ここは驚くところだよ。


 しかし、こんなんで魔法が覚えられたのか。いいのか異世界! こんなんで……あれ、そういえば俺の知っている異世界物も魔法覚えるのにあんまり苦労してないか。こんなものなのかも知れないな。


「さあ、みんな、実践だよ」





ナビは、巫女さんにジョブチェンジしました。ポンポンポンと3人は火の魔法を使えるようになりました。


次回、火魔法と肩凝り

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