071 水着回は欠かせないイベント
◇
へっくしょん。
へっくしょん。
ぐず。また、誰かが噂してやがる。そんなに俺が格好いい男だからか。
「ん、ぜんぜん、違う」
ラズリさん、またまた早いよ、まだ何も言ってないよ。ぐず。
書庫に隠れてムコムの自白を聞いていたのだが、くしゃみをした後の記憶がない。隣にいたナビからはくしゃみした後に倒れたと言われたのだが。ムコムを自白に追い込むために、演出として部屋を冷やすための氷の魔石の近くにいたので具合が悪くなったのだろうか。
風邪を引いたかな? 腹の調子も良くないし。
「ん、サブローが悪い」
「?」
俺がくしゃみで倒れた後、ムコムは罪で捕まり、プルーグがシャルの後見人となったそうだ。
事件は無事、解決した。
これも、俺の灰色の脳ミソのお陰だろう。いや、じっちゃんかな。
◇
俺たちは、飯屋にいた。
「海鮮焼き大盛り4つで、パンも4個つけて下さい」
毎度よろこんで、と店員のおっさん。また、いつもの海鮮焼き屋に来ていた。
今回はバレンナもいっしょだ。バレンナは噂の海鮮焼き屋に来れて大喜び。シャルはプルーグに捕まり、今後の商会運営について打ち合わせをしている。
「サブロー兄さんは、最初からムコムさんが犯人ってわかってたの?」
「まあね。モグモグ」
俺は、初めてプルーグ・イバッセンとムコム・ロゼナに挨拶をしたとき、レーダーで敵意をチェックしていた事を話した。レーダーのことは、バレンナとラズリに魔法の力として話してあった。
「……て事で、ムコムさんが赤でプルーグさんが青だったんだよ」
「シャルを助けた私たちにも、敵意を持ったのが決め手になったってこと?」
「それだけじゃないんだ、ナビ。実はプルーグさんの所に遊びに行ったんだよ」
「いつの間に」
「シャルの屋敷で始めて挨拶をしたとき、店に寄ってくれって言っていたからな。それで店に行ってプルーグさんにいろいろ話を聞いたんだ。シャルの事とか、シャルのお母さんの事とか」
「それで」
「うん、プルーグさんはシャルのお母さん、プルーグさんからしたら妹さんだけど、その妹さんが亡くなったとき、とても悲しかったそうだ。年が離れていたせいか、とても可愛がっていた妹だったんだって。妹愛がすごくて繰り返し繰り返し、いかに妹さんが可愛かったかを話していたよ」
「ん、サブロー、みたい」
「そうだな、俺もラズリもバレンナがとても好きだぞ。変な奴には嫁がせんからな」
「サブロー兄さん……」
「ん、知っている」
「わたしは、わたし!」
「もちろん、ナビも大切に決まっているだろ。大切な大切な妹だ」
「サブロー、この貝の肝あげるよ。私の気持ちだよ」
ナビよ、また、微妙な気持ちだな。
「で、プルーグさんが言っていたんだが、シャルはとてもお母さんに似ているんだって。そんなシャルを絶対、俺が守るって言っていたんだ。それを聞いてこの人は犯人じゃないって確信したんだ」
「それで、ムコムさんが犯人だと思ったの」
「あの人は、会うたびに赤かったし、例のバレンナとシャルの逢い引きの芝居を覗いていた時も、赤かったんだ。そんなの犯人だよな」
「シャルちゃんと私の逢い引きって、何やったの?」
「バレンナ、大丈夫よ、大丈夫。代役の演技だし、私たちと犯人しか見ていないから」
「本当? 本当だよね。変なことにならないよね」
バレンナはシャルにあちらこちらと連れ回されたり、男装させられたりと大変な思いをしたので、これ以上変なことにならないように、警戒しているみたいだ。
「大丈夫だよ、バレンナ、心配しなくても。ほらほら、食べて食べて、美味しいからここの海鮮焼きの汁にパンを浸けて食べると」
「嬉しいこと言っていれるね、兄さん。はい、追加の牡蠣焼きだよ、これも旨いから堪能してくれ」
店員のおっさんが、料理を持ってきてくれた。
おっと、牡蠣焼きで思い出したよ。今、頼もう。店の店員にバレンナのための特別料理を頼む。美味しいかは食べてからのお楽しみだ。
「すみません、追加で特注料理をお願い出来ますか? これを使った料理なんですけれども」
「お客さん、これは何です?」
俺は、サーナバラから持ってきたコメカリの入った小袋を店員に渡し、料理の仕方を説明する。
「コメカリと言う実です。最初に炒めて、それを海鮮焼きの具と合わせて、店自慢の出汁で炊いてもらえますか。汁が無くなったら少し蒸して完成です」
「わかった、兄さん。あんたらだから特別だ。出来たら持ってくるから待っててくれ」
店員のおっさんがコメカリの小袋を持って厨房に下がった。この後、俺たちは海鮮焼きや牡蠣焼きに舌鼓を打ちながら、たわいもない話をした。バレンナのストレスも少しは解消したかな。
◇
「明日は、みんなで海に行こうか?」
「いいわね、緑色の綺麗な海なんだよね、ここの海。カラフルな魚もたくさん泳いでいて美味しそうだし」
「「えっ!」」
俺は、バレンナと顔を見合せびっくりする。
「海って緑色なの? ナビ姉。ラズリも見みたの?」
バレンナ、そっちかよ。カラフルな魚が美味しそうな件じゃないの?
「ん、海は遠目に緑、でも近いと綺麗な透明」
「うわぁ、いいな。私も見たい、海見たいな」
バレンナがキラキラとした目で俺をみる。もちろんオッケーだ。何せ、水着回だからな、欠かせないイベントだ。
「へい、お待ちどう様、頼まれた特注料理だよ。うちの料理長がこの料理は旨いって、この実を譲ってくれないかって言ってたよ」
「残念だけど今の手持ち分しかないんですよ。そのうち、商品として出回るかも知れませんよ。シャル・ロゼナ商会から」
「ありがとうよ、料理長に伝えるよ、兄さん。ところで、今、海の話をしていたかい」
「ええ、明日、海に行って磯遊びや遊泳をしようかと」
「遊泳かあ、止めた方がいいな。今はフカの季節だ。素人が海に入るのは危険だよ、鮫に喰われちまう。だから、止めておいた方がいいぞ、兄さん」
「えっ、鮫……」
パエリアもどきを、4つの皿に取り分けたナビたちが早速食べ始めていた。
「サブロー、これ、美味しいよ。まだ芯が残っているけど、コメカリが魚貝の出汁を吸っていて美味しいよ」
「ん、美味しい、サブロー兄、良くやった」
「あっ、美味しい。サーナバラでも作れないかな? 海の魚貝が無いと難しいかな」
「あれ、サブローどうしたの? 料理が美味くできて嬉しいの。でも泣くほどじゃあないよ」
サブロー涙、水着回出来ず。作者が、うまく書けないからではありません。
次回、神殿の巫女