070 (訪問者)怖い話
◇
「あら、停電かしら」
部屋中の電気製品がいっせいに止まった。真っ暗闇だ。
「珍しいな、高校のとき以来だ、ちょっと待ってて」
お兄ちゃんが、携帯をかざしながら懐中電灯を探しに行く。
「なびちゃんは、真っ暗は怖くないの?」
お家に遊びに来ていた、なびちゃんに聞いてみる。
「うん、怖くないよ。暗いのは慣れているし」
「そうなの?」
「そうだよ、どこにいても夜は真っ暗だしね」
「ワハハハ、母さんこりゃ、なびさんに一本とられたな」
お父さん、ぜんぜん面白くありません。そうじゃなくて、真っ暗なんだから盛り上げなさいよ。真っ暗でしか出来ないことあるでしょう。あっ! ポンッ! そうだ、いいこと思い付いちゃった。
お兄ちゃんが懐中電灯を照らしながら居間に戻ってきた。
「今日は暖かい日で良かったね、電気が使えないから暖房も動かないよ。それから、見つけた懐中電灯はたくさんあったから、ひとり一個づつ持てるよ。はい、父さん」
「お、すまん」
「これとこれは、母さんとなびの分と」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「ありがとう」
「足元を気をつけて歩くんだよ、なび。父さんと母さんは、家の中は慣れているから大丈夫だと思うけど」
さて、準備が出来たし始めましょうかしら。まずは、なびちゃんの注意をお兄ちゃんに集めておいてと。
「なびちゃん、お兄ちゃんね、なびちゃんの師匠さんとお付き合いし始めたのよ」
「えっ、本当! お兄ちゃんやるぅ」
「か、母さん、何を藪から棒に」
なびちゃんがニマニマしながらお兄ちゃんを見る。その目は、どんな付き合いなのか、早く白状しろと言っている。対するお兄ちゃんは、ゆっくりと首を左右に振り抵抗するようだ。
「なびちゃん、なびちゃん」
お兄ちゃんを向いていた、なびちゃんを呼ぶ。
「ぶあぁ」
「きゃっ」
顔の下から電灯を当て変顔をする。びっくりする、なびちゃん。作戦大成功!
「母さん……」
悪かったわね、古くて。ん、子供っぽい? うるさい!
「という事で、第一回怖い話大会ぃぃ」
「怖い話?」
「そうよ、こんな闇の日は怖い話って決まっているのよ。本当は、蝋燭だと雰囲気出るんだけどね」
「悪いね、母さん。蝋燭は家に無いと思うよ」
「仕方ないわね。さあ、なびちゃん、怖い話を始めるわよ。ひとり1話づつ怖い話を話すのよ。お父さんも、お兄ちゃんも参加だからね、怖い話用意しておいてよ」
「「……」」
「じゃあ、わたしから話すわよ、次はお兄ちゃんね」
楽しいな。みんな怖い話頑張ってね。
◇
「お父さんの話はあんまり、怖くないわね。話にメリハリがないって言うか、ネタが古いって言うか」
「そうか、すまん」
「母さん、メリハリって、ネタって」
だって、あんまり怖くないのよ、失格よ。
「最後は、なびちゃんね、行けそう?」
「ええと、怖い話は知らないから、怖がらせた話でもいいのかな?」
「ええ、いいわよ。どんな話かしら楽しみだわ」
「じゃあ、怖がらせた話を始めるよ。ちょっとは怖くなるように口調を変えていくよ」
なびちゃん、どんな話をしてくれるのかな。楽しみだわ。
「サブローとある町に行った時の話です。その町の商家の娘さんと知り合いになりました。娘さんと仲良くなっていろいろと話をしたんですが、聞くと、その娘さん、ストーカー被害にあっていたんです。そして、犯人がわからなかったんです」
「それは、怖い話ね」
「「……」」
「そこで、サブローと相談して娘さんを助けようって話になりました」
「よし、三郎、それでこそ男だ」
「お父さん、しーっ! 話はまだ始まったばかりでしょう。ごめんね、なびちゃん、続けて」
「すまん」
「……」
「娘さんの関係者と相談して、わざと娘さんがひとりになる場面を作り、それを餌に犯人を誘き寄せることにしたんです」
「危ない事しちゃダメよ。それで」
「最初に犯人と思わしき人に、娘さんがある場所にひとりになることを聞かせました。サブローが犯人候補を見つけ出し、私の脚本で娘さんに似ている代役を立てて演技してもらったんです」
「なんか、楽しそうね。それで、それで」
「犯人は、しっかりとその演技に騙されたみたいでした。そして、当日の夜、代役の娘さんがひとりでいる場所に、犯人が現れました」
「「「……」」」
「現場は暗い場所で、犯人は代役の娘さんにいたずらしようとしたんですが」
お父さんとお兄ちゃんも固唾を飲んで、なびちゃんの話を聞く。それで、どうなったの? なびちゃん。
「……で、どうなったの?」
「代役の娘さんは人形だったんです。その人形に娘さん本人が声を当てて犯人を騙しました。そして、人形を宙に浮かせ、人形の目を赤く光らせました。そしたら犯人が」
「えっ、人形?」
「「……」」
予想外だわ。やるわね、なびちゃん。
「そしたら、犯人がびっくりして、泣き叫んでその人形に向かって赦してくれって頼むんです。自分が犯人だと」
「「「……」」」
「そして、もっと懲らしめようとしたら……」
「どうなったの? 犯人が逆上したとかじゃないわよね」
「追い込み過ぎるのは、危険じゃよ」
「母さん、父さん……なび、続きを話してくれ」
「うん、犯人をもっと懲らしめようとしたら、隠れていたサブローがくしゃみして、芝居だったのが全部ばれちゃいました」
アハハハと、なびちゃんは頭をポリポリ掻きながら乾いた笑いをした。
「「「……」」」
「三郎、あんたって子は」
「三郎、お前って奴は」
「三郎、ダメだろ、それは」
家族のみんなが三郎のダメ出しをしたら、蛍光灯がついて明るくなり、家中の電気製品がいっせいに動き出した。
「あら、停電が解消したみたい、怖い話大会も終わりね」
最後は三郎に全部持っていかれちゃったわ。楽しくやっているみたいね、三郎。
停電時のひとときでした。停電は困ります。
次回、水着回は欠かせないイベント
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相変わらず師走の平日は、更新は難しそうです。
引き続き、読んで頂けると嬉しいです。
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