067 シャルの後見人
◇
俺は、御者が操作する豪華な馬車に乗り、護衛に守らせ、メイドを侍らせている。
なぜか、俺だけ3人組といっしょだからだ。
ナビ、バレンナ、ラズリとシャルで俺たちの馬車に乗り、俺と3人組がシャルの馬車に乗る。いつも、おっさん率が高くなるんだよな。でも、今回はメイドさんがいるから、まだましだ。俺は、シャル用のクッションが無くなった馬車の中で、向かいに居るメイドさんにシャルの事情を聞いていた。
「奥様と旦那様はロゼナ商会と言うガラスの商いをしておりました。商い量は多くはありませんが、儲けておられました。そんなおり、流行り病で奥様と旦那様が亡くなられて、シャルお嬢様はひとりになられましたのでございます」
「シャルだけじゃ、商会は回せないですよね?」
「はい、サブロー様の言う通りです。番頭が困り果て、お嬢様の親族に相談したのでこざいます」
「シャルの親族ですか?」
「はい、シャルお嬢様の母方の叔父にあたるプルーグ・イバッセン様と、父方の叔父にあたるムコム・ロゼナ様でございます。おふたりともご自分の商会をお持ちでして、お嬢様の後見人を争っております」
「後見人を争っていると……でも、ロゼナ商会ってことは、そのムコム・ロゼナさんって人が後見人じゃダメなんですか?」
「通常はその通りなんでしょうが、奥様と旦那様がロゼナ商会を立ち上げられた際、プルーグ・イバッセン様から多大な援助金があったのでございます」
「なるほど、家名か出資かで、後見人をもめていると」
「はい、その後見人争いが始まってからでこざいます。お嬢様の周りで不審なことが起き出したのは」
「侵入者とか毒入り食材ですね」
「そうです。そんなことが続いたため、屋敷にいた我々の仲間も次々と体を壊し、屋敷から去って行きました。もともとの使用人は私たちの3人になってしまったのでございます」
「苦労されたんですね、3人では屋敷も回らないですよね」
「そうですね、今は叔父ふたりの使用人が屋敷に入って切り盛りしております」
「お嬢様を狙う犯人の目星があるのでは?」
「はい、大きな声では言えませんが、私たちはどちらかの叔父なのではないかと……」
「ふたりの叔父は何かあるのですか?」
「もし、お嬢様に何かあった場合は、どちらかの叔父が相続することになっています」
「共犯の可能性は?」
「それはないかと……どちらの商会も取り扱っている商品が同じでライバル関係ですから、お嬢様の商会がほしいのではと考えております」
「なるほど、大体の状況はわかりました。もう、まもなくベリーグの町ですね、俺たちに何か出来ることが、あるかもしれません。宿が決まったらご連絡しますよ」
「宿を取られる予定ですか……それはたぶん、無理かと思われます」
「?」
◇
ベリーグの町に着くと、シャルの屋敷に連れられて行き屋敷に逗留するようシャルから勧められた。というかバレンナをシャルが離さなかったのだ。夜もいっしょに寝るのだと言う。
ああ、町に着いてから気づいたさ、滝の裏の神殿に行って無いことに。いつになったら行けることやら。とほほ。
シャルの屋敷でくつろいでいると、ふたりの叔父が訪ねてきた。そして、俺たちはふたりの叔父と別々に対面した。
「お前たちか、シャルを助けてくれたのは礼を言う。俺はシャルの叔父のプルーグ・イバッセンだ。この町で商会をやっている。よかったら店の方にでも寄ってくれ」
俺たちの事を行商かなにかと思って上から目線だ。悪気は感じられないが。
このプルーグ・イバッセンというおっさんは、商人というよりも海の男って感じで、日に焼けた肌をしている。あまり細かい事は気にしなそうな感じに見え、眼光が鋭い男だった。
シャルと全然似てないな。
かたや、もうひとりの叔父は色白の男だった。
「私はムコム・ロゼナと言います。あなた方かな、シャルを助けてくれたのは。御礼を言うよ、ありがとう。私はシャルの父方の叔父でね、シャルが襲われたと聞いて心配していたんだ。彼女が無事で良かったよ」
この男は、シャルと目もとが似た顔立ちの優男だった。着ている物、身に付けているものも、おしゃれで優しそうに見えて、ゆっくりと話す男だった。
この男は、さぞかしモテるだろう。こいつは敵だ!
ふたりの叔父たちとの挨拶は、シャルの話しと適当な話しをして終った。
◇
俺たちは飯屋にいた。
「海鮮焼き大盛り3つで、パンも6個つけて下さい」
よろこんで、と店員のおっさん。結構、繁盛している店で昼過ぎなのに客も多い。
俺とナビとラズリの遅い昼食だ。
バレンナは今頃、シャルと高級料理店でお昼だ。シャルがバレンナとデートだとはしゃいで、恨めしそうに俺たちを見るバレンナを町中に連れ出してしまった。
バレンナ、頑張れ!
バレンナにはシャルの護衛を頑張ってもらうとして、シャルの屋敷にいても手持ちぶさたな俺たちは、屋敷の昼飯を辞退して町中に繰り出していた。今後の事を相談するために。
「サブロー、シャルを狙っている奴の見当はついているの?」
「おう、ばっちり犯人の見当はついているぜ、任せてくれ! 俺の灰色の脳みそに、かかればいちころだ」
「ん、灰色? 脳みそ?」
ラズリがコテッと首を傾げる。
「あれっ、白色だったか、いや黒色か」
「みそが違ってんじゃないの」
「へい、海鮮焼きお待ち! お客さん良くわかっているね、嬉しいよ。うちの海鮮焼きは他の店と違って、身とみそがたっぷり入っているからね」
店員が料理を運んで来た。嬉しいからサービスデザートを持ってくるよ、他の客には内緒でなと、ナビにこっそり言って戻っていった。
「……」
「良かったね、ラズリ、デザート貰えるって、楽しみ楽しみ」
「ん、日頃の行い」
「そうだよね」
えっ、ふたりとも日頃の行いが良いのか?
「ん、良い」
「……脳みその色はどうでも良いか。そしたら、じっちゃんにかけての方かな」
「ん、何をかける?」
再び、ラズリがコテッと首を傾げる。
「あれっ、何をかけるんだっけ?」
「知らないわよ、出汁をかけるんじゃないの」
と平蟹の身をカジカジするナビ。
いや、人に出汁なんかかけねえよ。
「そうなんだよ、うちは出汁で勝負しているんだよ。はい、これ、デザートの胡麻団子、熱いから気をつけてな。しかし、お客さんみたいな、うちの店をわかってくれる客は嬉しいよ。よし、おじちゃん大サービスだ、果実ジュースもおまけだ」
「ありがとう、おじちゃん」
「ん、ありがとう」
「……」
「なんだい、そっちの兄さんは果実ジュースは嫌いか?」
「いやいや、大好きです。ありがたく頂戴します。ありがとうございます」
「サブロー、ダメでしょ、きちんと礼を言わないと」
「ん、サブロー兄、ダメ、礼は大切」
えっ? 俺、今、礼を言ったよね。
「お嬢さん方、良いってことよ。男には大変な事があるんだよ、なっ、兄さん。何があったかわからないけど、うちの料理を食べて元気を出してくれ」
「あ、ありがとうございます」
俺、なんだか涙が出てきそうだよ。
こんな話だったっけ?
灰色の脳細胞サブロー、じっちゃんの名にかけて、犯人の目星はついている様です。
次回、俺たちのパーティーが始まる




