066 盗賊が現れた
◇
「「「お嬢様、申し訳ありませんでした」」」
御者と護衛とメイドの3人組がシャルお嬢様に謝る。
「お前たち、訳を話しなさい」
俺が3人組に会ってシャル誘拐犯の誤解を何とか解き、俺たちの馬車まで案内してシャルに会わせた。そして、これだ。一番年上の御者の男が代表で、この顛末の訳を語り出した。
「実は最近、お嬢様は誰かに命を狙われております。気がつかれていましたでしょうか?」
「いいえ」
「そうでございましょう、何度か夜の屋敷に侵入する者がおりました。また、毒の入った食材も見つかっております。たぶん、屋敷の使用人を狙ったものではなく、お嬢様が狙いかと……これまでは、我々が何とか防ぎましたが、これからの事を考えるとお嬢様に危機感を持っていただいた方が良いと考えました」
「そんなことが」
「そこで、我々は相談致しました。どうしたら、お嬢様に危機感を持ってもらえるかと」
「……」
「それで今回の事を計画致しました。我々の動きも盗賊たちの動きもすべて演技でございます」
「そうですか、お前たちには感謝しますわ。お前たちが計画してくれたお陰でバレンナ様にお逢いできましたから」
ダメだこりゃ。3人組が期待したような結果にはなってないよ。危機感どころじゃないよ。でも、事実を知るのは良い事だ。
「でも、なぜ、この道を」
俺は、3人組に理由を聞く。
「はい、この街道沿いにあると言う滝を見て、パオースの町に新しく出来た高い搭と温泉と言う物を見に行くという計画でございました」
「もう、その計画には興味はなくなりましたわ。ベリーグの町に帰りましょう。バレンナ様たちといっしょに」
ああ、このお嬢様はバレンナと離れたくないだけだ。なんだかなぁ、もうぐだぐだだよ。
「わたくしはバレンナ様といっしょの馬車でベリーグに戻ります、お前たちは先に町に戻りなさい」
「そ、それは……」
「わたくしは、まだお前たちを赦した訳ではなくてよ。いいからお前たちだけで戻りなさい」
「は、はい、わかりました。お嬢様、くれぐれもご注意を。それでは」
3人組は2頭の馬を引き連れ、とぼとぼと自分たちの馬車に向かって歩いて行く。途中で、シャルが心配なのか何度も振り返りながら。
「ナビ、ラズリ」
俺は、ナビとラズリに声をかけ手招きした。ふたりが俺に寄ってくると、バレンナとシャルから少し離れて頭を付き合わせる。
「シャルちゃんの馬車が、10人ぐらいに囲まれているみたいだ。このまま3人組を帰すと鉢合わせしそうだ、どう思う?」
「ん、本物の盗賊」
「私もそう思うけど」
「やっぱりそうだよな、まだまだ裏がありそうだよな」
「ん、シャル、知らないはウソ、と思う」
「えっ、そうなの? 命を狙われている事を知っていたということね」
「ん」
「じゃあ、なんで3人組を別に帰したんだ?」
「ん、巻き込まないため?」
「可能性ありね」
俺たちがこそこそしているのに、しびれを切らしたのか、バレンナが怒った。
「サブロー兄さん、私とシャルちゃんも入れてよ。3人でこそこそとひどいじゃない、なんの相談?」
「ごめん、ごめん、本物の盗賊が現れたから、俺とナビで何とかしてくるよ」
「「えっ!」」
バレンナとシャルが固まっている。
「えー、私なの?」
嫌そうなナビを小声で説得する。
「俺に考えがあるんだ、面白いぞ、きっと。どうする?」
「もう、仕方ないな」
面白いと聞いて、悪い顔なったナビも小声で返すと、今度は3人に言った。
「バレンナとラズリとシャルちゃんは、お留守ね。私とサブローで蹴散らして来るから」
「ちょっと待ってくださる。どうして盗賊が来たとわかったんですの?」
シャル、鋭いな。小さいくせに考えてやがる。でも、レーダーは秘密だ。
「さっき行った時に仕掛けをしておいたんだよ、これでね」
俺は、魔石を見せて答えたら、シャルは納得したようだ。
「ナビ姉、ふたりで大丈夫なの?」
俺は、頷いた。
「大丈夫みたい」
俺とナビは馬に乗り、3人組を追う。
俺はナビとは別の馬に乗っている。ナビが馬を説得してくれたからだが、馬は仕方ないから乗せてやるんだぞという目で、背に跨がる前の俺を睨みやがった。
なんて馬だ! ナビ、教育が足りんぞ。
さあ、ひさびさの盗賊退治だ。
3人組に追い付くと、声をかけ事情を話し馬を引き取る。ナビが馬に声をかけると、馬たちは、よろこんでナビが乗る馬の後につく。
「みなさん、どうやら本物の盗賊が現れたようです。3人はシャルの所に戻ってもらえますか。盗賊を蹴散らしたら馬車で戻りますから」
「えっ、盗賊ですか? 我々が雇ったのではなく」
「はい、たぶん別口でしょう。俺が行ったときに仕掛けをしていたんでわかったんですよ。シャルが狙われたんだと思いますよ」
「……というとこは、我々の計画が漏れていたということですか?」
「たぶん、終わったらいろいろ教えて下さい。何かお手伝いが出来るかもしれません」
「わかりました、お嬢様の所に戻ります」
3人組はシャルの所に戻って行く。
さあ、俺たちも行こう。盗賊の相手をしに。
◇
「お前たち! そこで何をしているの?」
ナビは、盗賊たちに大声を出した。
盗賊たちは、現れた俺たちにびっくりしたものの、ふたりだけなのがわかると急に態度が悪くなった。盗賊の頭らしき男が応える。
「俺たちが何しようと俺たちの勝手だ。お前えらこそ、邪魔すると只じゃすまないぞ。どこかに行きやがれ」
「人様の馬車を物色するとは、お前たち盗賊ね。おとなしく縛につきなさい」
「なんだと、お前ら役人か? いや、そんな見かけじゃ無いな」
なんだと、俺を見て言うなよ。
「お前たち! 素直に退散しないとこちらにも考えがあります。とっとと散りなさい」
盗賊が退散しないと見込んでナビも言いたい放題だ。
「ごちゃごちゃと、さっきからお前ら言いたい放題だい言いやがって。シャルとか言うガキは後回しだ。先にお前たちから消えてもらうぜ、覚悟しな」
盗賊たちは馬車を物色するのを止め、俺たちに剣を向け迫ってくる。
では、ナビさん、お願いします。
「仕方ない、馬さん、鳥さん、相手してあげなさい」
待ってましたとナビが用意していた台詞を言う。すると、馬たちと超大型鳥ゴーレムたちがナビの後ろから現れて、驚愕している盗賊たちをあっという間に蹂躙した。
ナビ、御隠居さん、いいだろ。
ナビはとても満足した顔をしていた。
印籠はありませんが、馬さん、鳥さんが活躍してくれました。
次回、シャルの後見人