060 要塞、サーナバラ温泉
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やりましたとも。俺、頑張ったよ。
やはり、俺は出来る子だったよ。
約1ケ月半、働きづくめでした。
まず、手をつけたのはパオースの町の外壁だ。今の外壁より20m先に新しい外壁を作る。高さは6mが目標だ。でもこれは得意。もう馴れたもんだ。石を切り出し、ゴーレムで運ぶ。町の住民はびっくりしているがかまわない。
俺は仕事の鬼だから。
あとは、石を積み上げるだけ。これもゴーレム移動だけどね。ひたすら魔力が切れそうになるまでやり続けた。外壁ができたら昔の外壁を壊して、低地や湿地を埋め立てて終わりだ。基礎も念入りにやったし問題ないだろう。これで、町は約4割広がった計算になる。新しい土地は町が売り出して、今回の工事費に当てるそうだ。
次は下水道だ。土管を作り、道の両端に埋める、以上。下水道本管だけだ。支管は町の職人に任せるらしい、町の職人にも金を回すためだとよ。下水道の出口は町からかなり離れた場所のにしたが、そのうち処理槽も考えないとダメだろうか。
最後に東西街道。車道は馬車が余裕ですれ違える幅にして車道の北側に同じ幅の歩道を作る。片側歩道だ。歩道だけ石畳で舗装した。
すべてサーナバラを作った時に経験済みなので簡単だった。町は支払を5年の分割払いにしてくれと言ってきた。5年計画だったと。
町の市議会のみなさん、値切りはなしだからな。ホスバが負けないだろうけど。
さあ、俺たちの施設。スーパー銭湯ランド開発だ。
今や、小山は要塞。
20mの高さの石壁に囲まれ、小山の土地はすべて石壁に合わせて平らにならした。出入口は2箇所、北側と南側で階段とゴーレムエレベーター付き。直径500mにも及ぶ楕円形の広大な敷地だ。石壁の外側に20mの水堀、水堀の外側には掘り起こした土で空き地と道を作った。
これが俺たちのスーパー銭湯ランドだ。
もう、パオースの町より大きい要塞だ。
これが温泉だ、どおだぁぁ、とひとり叫んでいたらホスバに捕まり働けと怒られた。
もう、俺の扱いは人間重機だよ。
早く、人間になりたーい。
どんどん施設も作っていく。
男女別の内風呂、露天風呂、サウナ風呂、水風呂、そして家族風呂と混浴露天風呂を作った。男女用と家族風呂は外から見えないように柵を作り、混浴露天風呂は欧米式の水着で入る池のようなやつとした。
着替え処(今は屋根なし)だけ作ったが、食事処、休憩処、マッサージ処、運動処は徐々に作っていこう。また、花や木などの植物園や庭園も作りたい。夢が広がるよ。
そうそう、トアちゃんが領主家兼スーパー銭湯ランドの総料理長になりました。バレンナがいっしょにやれるねと喜んだら、俺とトアちゃん即座に突っ込んだ。ダメでしょうと。
トアちゃん、おぬし、やるな!
そして、極めつけはサーナバラ塔、いやサーナバラタワーだ。
高さ20mの土地の上に、さらに高さ50mの円形の石の塔。いや、タワー。ゴーレムエレベーターと螺旋階段付き。もちろん階段には、採光用の小窓と休憩スペースも作り完璧だ。基礎には何本もかなり深く石の杭を打ち込んだので間違いない。
サーナバラタワー屋上からは30km先が見える。近くに高い山がないので、地平線が丸く見えるのに感動した。ここまで高い建物は王国や沿海州諸都市にも稀だそうだ。
ビバ、サーナバラタワー。
ちなみに、この施設のオーナーは領主家、店長はシスターで従業員は孤児たちだ。客に舐められないように強面の冒険者たちも従業員だ。従業員たちは、仕事の他に算術、読み書き、料理、武芸と勉強してもらう予定だ。学校併設の仕事場となる。
◇
「りようしゆ、できた」
幼女が俺に準備出来たことを知らせに来た。よしよしと幼女の頭をなでて、後ろにいる人たちに告げる。
「さあ、みなさん、サーナバラ温泉の開園です、楽しんでください」
「「おー」」
老若男女が歓声を上げながら、入場門をくぐって行く。
命名、サーナバラ温泉。
みんな健康になって楽しく過ごしてもらうための施設だ。
プレオープンで3日間は入園と混浴露天風呂とタワーは無料とした。他は施設ないしね。ただ、他の風呂とエレベーターは制限した。他の風呂は大人数だと狭すぎるし、エレベーターは魔力消費するからだ。
さあ、みんな楽しんでくれ。
事前にサーナバラ村とパオース町には告知していたので、かなりの人数が訪れている。
「コネロドさん、お待たせしました、さあ、我々も行きましょう」
「これが、サブロー君が言っていた、誰をも笑顔にさせるものかね」
「そうです。まだまだ建設途中ですけど、まずはタワーに案内しますよ」
「タワー?」
「百聞は一見にしかずです」
俺はタワーの下までコネロドを案内した。
コネロドはタワーを見上げて言った。
「これがタワーですね。町から見ても高いと思いましたが、真下から見上げると、これはこれで驚嘆に値しますね、素晴らしいです」
「タワーの一番上からの景色を見たくなりませんか?」
「タワーの一番上に登れると?」
「もちろん。上からの眺めは素晴らしいですよ、誰でも見れますよ。さあ、上へ行きましょう」
俺たちはゴーレムエレベーターに乗り、タワーの上に出た。タワーの上には、まだ人がまばらだ。多くの人はまだ階段を昇っているのだろう。
「さあ、どうですか、この素晴らしい眺めは」
「ほほぉ、これは素晴らしい」
北にはパオースの町があり、ずっと湿地帯が広がっている。西と東には湿地帯の先に田園風景が広がっている。南にはサーナバラの真新しい村があり、コメカリ農場があり、馬の放牧場が広がっている。東西南北、どちらを見ても地平線が丸く見える。
「これが、俺たちの住んでいる世界です」
「素晴らしいですの一言ですよ」
「この眺めは商売になりますか?」
「これは、見たくなるでしょう、ですが町には利益がありません」
「ここには、宿屋はありませんし作りません、それは町に任せるつもりです。町に土地がなければ、町との間の道端に土地を用意しましょう」
「なるほど、なるほど」
「コネロドさん、パオースの町に南門を作りませんか」
「パオースの町を通らないとサーナバラには来れないと……わたしたちは、頑張ってこの施設を宣伝しないといけないですね」
「ありがとうございます」
俺は次に男性露天風呂に案内した。
◇
「これはまた、なんとも良いものですね、ふぅ」
コネロドが温泉に入っている。温泉の作法は俺が伝えた。本来は従業員が作法指導する予定だが、無料期間は混浴露天風呂でプールの監視員のように作法指導していて大忙しだ。
露天風呂は天井に簀がかけられ、タワーからは見えないようになっている。また、西側向きなので、夕焼けの時間帯はさぞ綺麗な眺めになるだろう。
「ここには、この温泉があったんですよ」
「動かせず、万人を幸せにするもの。まさしくこの湯のことですね」
「ひとり占めするつもりはありません。少しばかりお金はもらいますが」
「サブロー君は良い商人ですね」
「ありがとうございます。でも俺の周りにいるみんなのお陰です。俺の力じゃないですよ、みんなの力です」
「その事を知っているサブロー君だからこそ、周りのみなさんが力を貸すのでしょう」
「みんなには感謝してます」
俺とコネロドは、しばらく温泉を味わった。
サーナバラ温泉が開園しました。まだまだ開発余地ありですが。
また、コネロドとの約束も果たせました。気に入ってもらえた様です。
次回、(訪問者)混ぜ合わされた者