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057 館の防衛戦の終り

 ◇


 主の眷族作りが終わったようだ。

 主命を達成し満足だ。剣も折れた。最後の仕上げをする事としよう。


 天を見上げ、その仕草で注意を上に集めておいて、本体を地中に移動させる。


 敵兵たちが体に剣を入れようと群がった。


「爆!」


 魔石に残っていた微かな魔力を一気に解放し体を爆発させた。


 ◇


 小一時間、ソルは戦っている。

「なんという、強者」

 石壁の上からソルの戦いを見ている人たちは驚嘆している。


「オドンさん、ソルの動きが遅くなっていますよね」

「ああ、そうだな」


 言いたくない言葉か口から漏れた。ハラハラする場面が増えてきている。明らかに魔力不足だ。


「あっ!」


 とうとう、ソルの剣が折れ、ソルは棒立ちになっている。そこに敵兵が群がる。


「ダメー! ソルー」


 私は叫んだ。


 そして、群がった兵士の山が爆ぜた。


 ◇


 ソルが爆ぜた。


「ソル、派手にやるな、ご苦労さん、次はこっちの番だな。よし、お前たち、あっちに突入だ、蹴散らせてこい」

 俺は帽子を取り敵に向けて、ゴーレムたちに号令をかけた。


 ◇


 囲んだ兵士ともども、女が爆発した。


「なっ、なにが、起こった?」

 騎士のひとりが叫ぶが答える者はない。誰にもわからないのだから。

 ただ、爆発に巻き込まれた兵士たちは、地に伏して動かないか、(うめ)いているかのいずれかだった。


 女を倒し士気が上がる場面であるが、兵士たちの正直な気持ちは、やっと終わっただった。しかし、そんなの気持ちも長く続けられない。


 ドドドドドと地が揺れ、何かが迫ってきた。


 ◇


「ソル、なんでよ……」

 私が倒れそうになったところをオドンが支えてくれた。

 奥様や周りの騎士も悔しそうな顔をしている。


「なんだ、ありゃ?」

 オドンの場に相応しくない声に引きずられて、それを見てしまった。


 ドドドドド


 敵軍に向かって走る大型の鳥ゴーレムを。100を越えるその数を。


「なに?」


 ◇


 ドドドドド


 地を揺るがす音がする。人の倍はある大きさの鳥形ゴーレムが100を越える数で敵軍に迫る。


「なんだ、あれは?」

「あれが、うちの兵隊さん? かな」

 騎士に説明するナビ。


「兵隊さん……それに、前の爆発はなんだ?」

「あれも、うちの兵士さん? かな」


「おぬしの言うことは、よくわからん、だが、この混乱を利用して突撃しろと言うことだな」

「はい」

「御屋形様、いかがいたしましょう」


 騎士は、地に横たわっている男に聞く。男は傷だらけで、あちらこちらが乾いた血で汚れている。御屋形様と呼ばれた男だ。


 男は思案する。


 誰にも気づかれず急に目の前に現れたこの娘。俺に向かって、チャンスが訪れるから突撃しろと言ってきた。傷がもとで寝ている俺が大将だと初めからわかっていたのだ。大勢の騎士がいる中で薄汚れた俺をわかったのだ。


 なぜにの問いに、娘は「なんとなく」と答えた。

 信用できるのか? 罠ではないのか。

 娘は東から来たと言う、そして館にいる妹を迎えに来たと。なぜ、彼女の妹が館に?

 友軍に裏切られ人間不振なのだろうか。しかし、作戦的にチャンスだ。数少ない我が軍でも勝てるに違いない。


「突撃だ」

「ハッ、突撃いたします。お前たち御屋形様を頼んだぞ」

「おう!」


 御屋形様の周りに寝ている傷ついた騎士たちが、上半身を起こして騎士に答える。

 騎士は動ける者を集め突撃体制を組んだ。


 ◇


「よし、一旦向こうに抜けたな、反転して再突入だ」


 兵士たちは混乱状態だ。自分の倍の大きさの鳥ゴーレムが迫ってくる。それは意味不明の恐怖だ。馬たちも混乱から(いなな)き乗っている騎士たちを振り落とす。


 戦場は混乱と土埃に覆われていた。


 戻ってくる鳥ゴーレムたちは、騎士たちを落馬させ、兵士たちを薙ぎ倒し、踏みつける。


「よしよし、こっちに抜けたな、もう一回往復したら終わりだな、あとは任せたぜ、ナビ」


 ◇


 鳥ゴーレムが敵軍を蹂躙している。行ったり来たりして敵を踏み潰している。


「なんだ、こりゃ」

 オドンさんが呆れている。

 敵軍の兵士たちは鳥ゴーレムに剣を刺すが、全く効いているとは思えなかった。

 二往復ばかり暴れた鳥ゴーレムたちは、一羽一羽と土塊に戻っていく。すると今度は、林の中から敵軍に向かって突撃を掛ける騎士と兵士たちが出てきた。


「いったい、なにが起きているんだ?」

「うん」


 私も混乱している。


 奥様の近くにいた騎士が叫んだ。

「奥様! あの者たちは我が軍です」

「本当ですか?」

「はい、あそこにいるのは、ナルベルト殿に間違いありません。あれは、ナルベルト殿の甲冑です」

「それでは、旦那様は近くにいるはずです、探して無事を確認してきなさい」

「ハッ」

 騎士は数名の従者を引き連れ、石垣から降りていった。戦場へ出ていく気なのだろう。


 ◇


 すでに敵は、倒されたり、武器を捨て降伏したり、逃走したり、軍としての体裁を保っていない。


「もう、終わりかな?」


 俺は、藪から出て石壁の上にいるバレンナとオドンに帽子を振って合図した。

「バレンナ、オドン、俺だー、大丈夫かー」


 ◇


 ソルの活躍と爆発、鳥ゴーレムの蹂躙、味方騎士と兵士たちの突撃と次々と起こって、何が何やら? 段々、ソルが居なくなったとは思えなくなってきたよ。


「オドンさん、藪から出て来てこっちに手を振っている、あの人知っている人?」

「うーん、この館の人なんじゃないのか」

「そうだよね。でも、絶対私たちに手を振っているよ、あの人」


「だが、知らねえ奴だ。あんな毬栗(いがぐり坊主に貧相な(つら)の奴の知り合いは、いないからな」

「でも、どこかで見たことがあるような……」


 オドンと話をしていると、娘が乗った馬が手を振っている男に近づいて来た。


「あれ? あれは、ナビちゃんじゃないか」

「あっ、本当だ、ナビ姉がなんでここに?」


 ナビ姉は男に何か話して、こちらを見上げて手を振ってくる。


「やっぱり、ナビ姉だ、ナビ姉ー」

 私もナビ姉に手を振った。


 ◇


 バレンナとオドンが手を振っている。

「おっ、やっと、バレンナとオドンが気づいたみたいだな」

「バレンナ、元気そうでよかったね」

「ああ、よかったよ。それじゃあ、ソルを回収に行く?」

「そうだね」


 俺とナビはソルが爆発した所まで行った。俺は地に魔力を通してソルの核を探すとその周辺に魔石を置いた。


「誰も見てないか?」

「石壁の上とか、周りから見えているよ」

「何かないかな……そうだ、町で買った掛け物を使おう」


 俺は掛け物2枚を地に広げ、隙間から手を入れて、地に魔力を通した。すると、あたかも土の中から脱出したかのようにソルが土から出てくる。掛け物はそのままソルの体に巻き付けてもらった。


「ソル、ご苦労さん」

「ソル、戦い見ていたよ。すごいじゃない、騎士さんたちも驚いていたよ」

「主、ナビ、助力感謝する」


「バレンナが手を振っているよ、ソル、応えてあげたら」

「そうだな」


 ソルは石壁の上にいるバレンナに手を振った。


 ◇


 土の中からソルが脱出してくると、周囲に歓声がわいた。

「ソル殿は術者でもあったのか?」


 奥様から質問されたけど、私もよく知らないので、曖昧に「ええ」とだけ答えた。それを聞いていたオドンもびっくりしている。


 ソルに手を振り返して安心した私はひどく疲れて座り込んだ。

「なによソル、最初から言っておいてよ、びっくりするじゃない」


 こうして館の防衛戦は終わった。




館の防衛戦が終わりました。


次回、何か望みはありますか

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