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055 そうだろ、最高だぜ!

 ◇


 バレンナやソルを追うのは簡単だ。方位さえ絞れば魔力切れを起こさず彼女たちを見つけることが出来る。マーカーが付いているからな。


 問題は追う方法だ。馬で追う事が最適なのはわかる。でも、俺は馬には乗れない。誰かが手綱を持って歩ませてくれるならば、馬が俺を運んでくれるかもしれないが。


 ナビは一緒に馬に乗ることは嫌がった。

 なんだよ、ちょっと抱きついただけじゃねぇか。手で掴んだ場所が悪かったのか? それとも、背中にぺったりと張り付いたのが悪かったのか?


 ……ごめん、俺がやられてもヤダわ。申し訳ない。


 と言うことで、俺は反省する男だ。

 ふふ、我に秘策あり。


 ◇


 ナビは、コネロド商会からレンタルした馬に乗って、羨ましそうに俺を見ている。いや、俺の乗っている物に目が釘付けだ。


 ふっ、ナビよ。そんなキラキラした目で見つめても替わらないぞ。俺は馬に乗れないんだから。


「サブロー、替わってよぉ、わたしも乗りたいよぉ」

「悪いな、俺、馬ダメだから、ふ、ふふ、ふはははは」


 なぜか、悔しがるナビの顔が心地よい。ワハハハハ。


 風を切って走る馬。並走する大型の鳥型ゴーレム。


 ゴーレム版大型ダチョウだ。


 馬は言うことを聞いてくれないが、自作したゴーレムは良く言うことを聞いてくれる。聞いてくれなかったら困るけどね。

 俺は、ダチョウ型ゴーレムの首に跨がり首もとから延びているハンドルを握っている。もちろん、背もたれも足置きもある。ちょっとしたアメリカンタイプのバイクだ。燃費が悪いのも一緒だ。だが、魔石はたんまりと持って来たから問題なし。


 俺に死角はない。ワハハハハ。


 ダチョウに乗るのをやりたかったんだよね。アフリカに行ったらと思っていたんだけど。


「あっ、そうか! サブローもう1羽作って」


 なぬ?


「別に私、馬に乗ってなくてもいいんだよね、馬は綱で後ろに曳くよ」


 なっ、ナビ、お前、天才か!


「私すごい、天才?」


 なぜか、嬉しそうなナビの顔が悔しい。ムムムムム。


 ラズリがいたら器が小さいと言われそうだが仕方ない。俺たちは一旦停止し、ナビ用のダチョウ型ゴーレムを作った。そして、俺たちは別々のダチョウ型ゴーレムに乗って再出発した。


「これいいね、サブロー」

 快走するダチョウに乗り満足げなナビ。

 そうだろ、ナビ。最高だぜ、ダチョウは。


 ワハハハハ。


 ◇


 ハックシュン、グズ。

「ざむい、グズ」

「サブロー、風邪? うつさないでよ」


 グズ、うつらねぇだろ!


 野宿した翌朝、とても寒く感じた。ずっと暑い沿海州にいたのだから無理もない。なにも掛けず寝ていたので肌寒かった。たぶん、余計な肉が無くなったのでよけい寒く感じるのだろう。脂肪も大切だ。


「ナビ、次の村か町で掛け物を買っでぐれ」

「仕方ないな、急いでいるのに」

「いづも、ずまない」


 キラッ。


「いいのよ、お兄ちゃん」

「……」

「お兄ちゃんは体が弱いんだから、私が頑張るわ」

「……」


 ギラッ。


「ずまないね、ナビ、俺の体が弱いばかりに、いづもいづもお前に苦労ざぜで」

「お兄ちゃん、それは、言わない約束でしょ」

「……」


 満足げなナビ。

 お前は、いったいどこに向かっているんだ?


 朝飯の干し芋をかじりながら、街道を進む。途中の小さな町で掛け物を二つ購入した。これで温かく寝れそうだ。


 小さな町で噂を聞いた。この地を納めている太守の館をめぐって戦いがあったと。ただ、内容が良くわからない。掛け物を買った店の店主は、女装した騎士様が500の軍勢と戦い退却させたと言い。その妻は、女兵士ひとりが敵兵20人と戦って全滅させたと言う。とにかく、戦いはあったらしい。


 バレンナとソルのマーカーが健在な事と、向かっている方角がその太守の館である事を合わせると、ソルが戦って勝ったのだろう。しかし、彼女たちはその太守の館から動かない。


 俺たちは、先を急いだ。


 ◇


 ヤバイよ。


「ナビ、もう兵士たちがたくさん集まってるよ」

「でも、間に合ったってこと?」

「たぶん」


 ヨーマインの町の近くにある太守の館まで駆け抜けた俺が視たのは、町と館を遮断するように布陣する兵士と思われるマーカーだった。その数600ほど。

 太守の館にあるマーカーは、バレンナとソルを入れて20ぐらいだ。そして、少し離れた所に100ほどのマーカーがあった。


「どうしたの、サブロー」

「うん、なんか兵士たちが二手に別れているんだよ、何だろう」

「伏兵? 予備兵?」


「いや、城攻めに伏兵はないだろ、予備兵もないと思う」

「そしたら、なに?」


「たぶん、敵の敵、太守の兵と思う、でもなんで外にいるんだ?」

「私たちの味方ってこと?」

「たぶん」


 情報が少な過ぎるな。もっと情報が欲しい。


「敵味方でマーカーの色は変えられないよな」

「定義が出来ればね、定義できる?」

「太守の館に対する敵意とか」

「やってみる?」

「おう、やってくれ」


 うむ、600のマーカーは見事に3色に分かれた。一番多いのは黄色だ。敵は一枚岩という訳じゃないってことだ。館と100のマーカーは圧倒的に青色だ。


100のマーカーは味方だ。


「敵の中に、術者がいるかわかるかな?」

「それも、定義次第だね」

「うーん、魔素を消費する者とか?」

「やってみるよ、マーカーの上を球にするね」

「おう」


 マーカーの上が球に変わるマーカーが無い。戦場には術者はいない! 失敗か?

 それとも、今、魔法を使ってないってことか。


 よし、もっと近づこう。


 ◇


 俺がダチョウ型ゴーレムから降り、敵軍や太守の館が見える茂みに隠れると、ちょうど太守の館の門が少し開きソルが出て来るところだった。


 ソルは敵軍に向かって歩いていく。


 ヤバイ、ヤバイ。

 急がないと。俺は魔力を込めた。


 ソルが立ち止り、こちらを向いて何か呟いたのが見えた。


 よし、気づいた!




サブローとナビが戦場に到着。ソルが敵軍に歩いて行くところの場面でした。


次回、見よ、我が戦いを

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