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054 再来、戦いが始まる

 ◇


 ソル殿が倒した敵の数は、20を越えていた。傷を負った者も含めると敵軍の死傷率は2割に達するのではないかと思われる。

 凄まじい戦果だ。敵軍は再編成に手間取る事だろう。


 敵軍の使者が来た。遺体となった騎士の引き取りだ。武器はソル殿に渡し、不要な防具などと共に金の授受で平和的に解決する。


 使者とのやり取りは本来、館に招き入れ行うものだが、今回は門前で行った。

 こちらの状況を知られる訳にはいかない。

 交渉は部下に任せ、成り行きを石壁の上から眺めていた。使者が部下に金を払うと、使者は連れてきた男たちに命令し荷車に防具を積み、騎士が倒れている場所まで荷車を()かせていった。騎士の所にはすでに別の男たちが待っていて荷車に騎士たちを積み上げ、みんなで押していく。

 男たちが鼻と口に黒い布を幾重にも巻いていたのが印象的だった。


 使者の口上や仕草から、敵軍は我が館の攻略を諦めていなことが、うかがい知れた。近いうちに再侵攻があるだろう。

 あの黒い布を巻いた男たちは、今度は誰を運ぶのだろう。


 サーナバラの者たちを故郷に帰してやりたいが、ソル殿の戦力は魅力的だ。また、彼女が居ることで士気が高くなっているのがわかる。皆が誰かに頼りたいのだ。


 申し訳無いが、もう少し頼らせてくれ。


 ◇


 ここ数日間のこと思い出し終わると、館の主が椅子から立ち上がり、モザイクガラスを見る。そこには、王より剣を授かる太守がいる。この地を納め始めた古の太守だ。


 今日も一日が終わる。


 食事の準備が出来たと報告され、兵士食堂へ赴く。平時にはあり得ない事だ。騎士や従者と一緒に食事を取るのだ。皆の士気を高めるために始めたことだが、ことのほか効果があった。特にソル殿が来てからは。


「皆の者、今日も良く頑張りました。旦那様が戻られる日まで、この館を守るのです」

「「ハッ」」

「では、食事を始めましょう」

 下男に合図を送ると、パンと焼いた肉とスープを配り始めた。焼いた肉はボリームがあり、スープは具のたくさん入ったスープで、塩味もしっかり効いている。この期に及んで出し惜しみもない。


「バレンナ殿は怖くはないのか?」

 隣で静かに食事をしている娘に聞いてみる。


「はい、奥様、怖いです。でも友だちを置いては行けません」

「そうですか、早く替わりの者が見つかると良いのですが」

「はい……奥様は怖くはないのですか?」

「私は……怖くはないわ。怖いのは旦那様が戻られないことぐらいよ」

「早く帰ってくれたら良いですね」

「そうね」


「私は兄や姉や妹に黙って、ここまで来ました。怒られるかもしれません」

「そう、怖いお兄様なのかしら?」

「いえ、とても優しいです。おかしなぐらい、きっと今頃……」

「大好きなのね」

「はい」


 この娘は何を信じて、この館に残っているのだろうか? 信頼か、信念か、運命か?


 次の戦いが終わって生き残れたら、この娘たちは故郷に帰してあげよう。もともと、この国の中での戦いなのだ。


 食事も終わり自室に引き上げる。

 眠れなくとも眠るのだ、明日のために。

 今の私はこの館の主なのだから。


 ◇


 敵軍は早朝に姿を見せ、使者を送ってきた。前回と同じ口上を述べ、拒否を確認すると戻っていった。


 会戦や攻城戦では、昼頃から軍が集まりだし、拠点となる場所に天幕を張る。そしてお互い使者を送り夕刻まで降伏の猶予を与える。そして、その日は一度軽く戦って引く。本格的な戦闘は翌日となるのがこれまでの戦いの常であった。

 しかし、昨今随所での戦闘の激化、作戦の変化を受け、戦いの様子も変わりつつあった。勝てば良しとする戦いに変わってきたのだ。

 敵軍は強者による夜襲を嫌い、早朝から攻撃するつもりなのだ。


 結集した敵軍の数は600になっていた。前回の3倍、この数は、ヨーマイン太守に敵対する周辺の領主たちの軍勢の数だ。


 戦いが始まる。


 ◇


 私は怖い。ソルが一人で戦いに行くと言う。


「ソルが行くの?」

「我のみだ」

 分かっている。あの軍勢と戦えるのはソルだけなのを。


「なぜ?」

「合理的だからだ」

 分かっている。私たちを助けるためなのを。


「無事に帰ってきてね」

「最善を尽くす」

 分かっている。魔力の補充がなく、弱ってきているのを。


 私の目から涙が流れた。こんな時は泣かないと決めていたのに。

「バレンナ、抱きしめて良いか?」

「うん」


 ソルが抱きしめてくれる。ソルはハグ好きなのだ。私は力一杯抱きついた。

「バレンナは、温かいな」

「ソルがいなきゃイヤだからね私。ソルが守ってくれなきゃイヤなんだよ私。ソルが大好きなんだよ私」

「承知した」


 ソルが離れていく。トアちゃんが隣で私を支えてくれた。


 オドンさんがソルに声をかける。

「武器は用意しておいた。すまんな」


 足手まといですまないと言いたいのだろう、それは私も一緒だ。


「問題ない」

 ソルは腰と背に剣を、数本の短槍を手に持つと門から外へと出ていった。


 私たちは石壁の上に急ぐ。上につくと奥様がいて敵方を睨んでいた。

「バレンナ殿、すまぬな」

「……」


 みんな、謝らないで。それじゃ、ソルが……


 ソルは敵に向かって歩いて行く。

 ソルが立ち止まった。

 東の方角を見て、何か呟いたように見えた。


 そして、こちらを見上げ笑顔で私に何か言い、敵軍へと歩き始めた。




敵が再来。みんなを守るためソルの戦いが始まります。


次回、そうだろ、最高だぜ!

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