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051 我に秘策あり

 ◇


 ああ、何てこった。


 異世界に来て、魔法ゲットのチャンスを逃すなんて。それも2ヵ所も。

 ゲットしていたら今頃は、火魔法だ、ファイアアローとか、風魔法だ、ウィングとか、できたんじゃね。

 そしたら、あらサブローさん素敵とかって綺麗なお姉さんや美少女に言い寄られて、ウフフ、キャハハのハーレムだったんじゃ。

 俺がっくり。


「サブロー、なに百面相やってんの。もう町だよ、大丈夫?」


 そうだな、クヨクヨしてても仕方ない。俺は前を見る男だ。

 俺は深呼吸した。もう潮の香りではなく水草の匂いがする。それに、蒸し暑くもなくカラッとした暑さの空気だ。

 

 俺は帰って来た。


「ナビ、気合い入れてくれ」

「サブロー、いいの?」

「ああ、びしっと頼む、目が覚めるようなやつを」

「じゃあ、いくよ」


 よし、来い!


 げぶっ。


 ◇


 町に着いて起きた。


「サブロー、目が覚めた?」


 ナビ、ちげえよ。そっちの目が覚めるじゃねえよ。

 闘魂の方だよ。ビンタだよ、ビンタ。

 拳入れてどうすんだよ。


 別の意味で、気合い入ったよ。


 町ではコネロドに会い、ラズリの目が治った事の報告と商会の援助に感謝を伝えた。そして、行き帰りで世話になったガンオたちに礼を言って別れ、サーナバラの村に向かった。


 俺たちがサーナバラの村に着くと、ホスバが待ち構えていた。

 皆さんご無事でのお戻り良かったすすと、ラズリお嬢様の目が治って良かったすすと、領主様が見るに耐えない姿に……と言って下を向いて震えている。


 こいつ、笑ってやがるな。


 ホスバは落ち着くと、俺、ナビ、ラズリにお茶を入れて、手紙の話を始めた。


 ◇


 今から10日ほど前、サーナバラに部下を連れた商人が来た。ここが南端の村人たちの移住地なのかを確認すると、一軒の家を訪ねた。


 商人は家の主に、証文を見せるとこう言った。

「借金を返して頂きたい。返せないのであれば、娘を奉公に出して頂く」


 まるで、この家に娘がいること、そして、借金などすぐには返せない事をわかっていたかのようだった。いや、わかっていたのだ。なぜなら、お金を貸したパオースの町人が、すまなそうに商人の横に居たからだ。


 生憎とこの時、バレンナ、オドン、ソル、ホスバたちは居ず、相談できる者が不在だった。

 商人は、急いでいるようで部下と一緒に迫ってくる。

 娘は親に危害が及ぶのを恐れ、進んで奉公に出ると言い出した。


 親は、せめて奉公先を教えてほしいと哀願した。すると、商人は考えた末こう言った。

「家名は言えないが、王国の貴族だ。人格者の貴族なので心配するような目には会わない。手紙を出すならば……」

 と町と商会の名を名乗った。


 今から考えいると、商会やその部下は脅迫した訳でも危害をくわえた訳でもなかったのだ。正当な商取引を行ったに過ぎない。商人たちは、証文を家族に渡すと娘を連れて西に向かった。


 日が傾き、バレンナとオドンが町から戻るとこの話を聞いて嘆いた。

 翌朝、バレンナはホスバを捕まえると、連れられていかれた娘を買い戻すお金を相談した。その娘はバレンナの友だちのトアという娘だったのだ。


 ホスバのアドバイスで倍のお金を持ったバレンナが旅支度をしている所を、オドンが知り一緒に追うことにした。この時に、ホスバは沿海州に居るサブローたちに手紙を出した。


 それから、5日後、ソルの引っ越し隊がサーナバラに戻って来た。ソルはバレンナの話を聞くと、すぐに後を追いかけた。


 ◇


「……ということですす」


 ホスバの話し言葉の語尾はとても変だ。もともと、こんな喋り方ではなかったようだが、商会の先輩たちに気を使った喋り方をしているうちに変な語尾がついたのかもしれないと本人は言う。そして、領主家の家令として、矯正中だと言う。


 言葉の癖って、なかなか直らないんだよな。まず、本人が気づかないからなぁ。

 悪い方向に行っているぞ、頑張れホスバ。


 ホスバのことより、みんなのことだ。

 さて、どうしよう。


 バレンナがなかなか戻って来ないということは、何かのトラブルに巻き込まれているのだろう。助けにいかなきゃ。


 南端の村の移住だが、もう残っている家族も少ないので、安全を考えたら家財は後回しでも住人はいっぺんに移住させたい。


 そして、ベリーグの町からは、シスターを筆頭に神殿関係者が移住してくる。誰が迎えて世話しないと。


 うぎゃあ、俺をコピーできないかな。

 領主ってこんなに忙しいの? だれか替わらない?


 俺の予定では、のんびり温泉三昧のはずだったのに。

 どうして、こうなった。


 ◇


 俺は、領地の関係者を集め今後の計画を話した。関係者といっても、俺を入れて4人だけどね。


「まず、引っ越し隊だけど、ホスバに任せる。将来の領軍候補の4人を連れて南端の村まで行ってくれ」

「わかったすす」

「それで、村人全員を引っ越ししてくれ、持てない家財は次回以降だ。後でトニーの扱いを教える」

「はいっすす」

「それと、もうひとつ頼みがある。他に村人の借金があったら肩代わりしておいてくれ」

「あっ、忘れてたすす、もうやったすす」

「そうか、よくやった」

 ホスバが頼もしく見える。また同じことが起きたら、バレンナとラズリが悲しむもんな。


「つぎに」

「ん、待つ」

 なに、ラズリわかっちゃったの?

「じゃあ、大工の親方には、神殿関係者の家から作業するように頼んでおくよ」

「ん、気をつけて」


 ラズリを残して行くのは、不安だが神殿関係者が知っているここの人間はラズリだけだからな。頼むぜラズリ。


「という事で、バレンナを迎えに行くのは、俺とナビだ」

「えー」

「なんだよ、俺と行くのは嫌か?」

「サブロー、ペタペタいやらしく触ってくるから嫌なんだよね」


 こ、こいつ、一緒に馬に乗った件をまだ根に持ってやがる。


「ふっ、大丈夫だ」

「なによ、シスコン」


 こ、こいつ! だがしかし。


「我に秘策あり」




サブローは前を見る男。バレンナを追いかけます。


次回、友だちと家名



今週の更新は、月水金を目標にしています。

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