005 ナビ先生の魔法教室
◇
「ナビ先生、魔法を教えてください、お願いします」
「わかったよ、サブロー、そこに座って」
ナビは神殿の床を指し示す。俺が床に体育座りすると、ナビはパチッと指を鳴らした。するとナビの周りは霧のようなものに覆われた。
「世の中は魔素が満ちているんだよ、目には見えないけどね。今、私の周りにあるような霧のようなものが魔素だと思って。そして人間を含む動物の体内には、魔力があるんだよ」
なるほど、外には魔素があって、自分の中には魔力があると。
俺にも魔力があるんだ。これがチートなのか?
ナビが再び指を鳴らすと、霧が晴れ人体図や図形などが俺の目の前に現れた。
「そして、強制力で魔素と魔力を消費して物理法則に影響させる事を魔法と言うんだよ。でも、魔法が大きければ大きいほど、大量の魔素と魔力とそれに見合った強制力が必要になるんだよ」
体育座りしている俺から見上げる角度にある、祭壇に座っているナビの素足が気になり、チラチラと見てしまう。見ないようにしても、視線がそちらにいってしまう。
俺は手を上げた。
「はい先生、質問。強制力って何?」
「強制力って言うのは、意思の強さとXXが合わさったものだよ。意思の強さはわかるよね?」
「ああ、それは分かる、人の思いの強さってことだろ。それはいいけど、後のが良く聞こえなかったぞ」
「それは秘密だからね、今のサブローには聞こえないよ」
なんと秘密かよ。でも魔法は酸素と水素を燃やしてロケットを飛ばすようなものだな。ということは強制力は点火スイッチってところかな。
「でも魔法は注意が必要だよ。魔法を使いすぎて魔力を失うと具合が悪くなったり気絶したり、最悪そのまま帰ってこれない事があるからね。わかった?」
「お、おう、脅かすなよ、わかったよ。ところで俺も魔法つかえる?」
「サブローは土魔法が使えるよ。魔法を使って慣れれば強制力の効率も良くなるよ」
強制力の効率? うん、よくわからん。習うより慣れろか。
「ナビ先生、なにか呪文を教えてください」
「魔法に呪文は必須じゃないよ。イメージした内容を強制力に乗せて魔素に伝えるれば大丈夫。呪文はイメージを確かにするための補助だから、呪文が必要ならば自分で考えてね」
「……」
ナビはパチンと指を鳴らし図形などを全て消した。そして祭壇から降り神殿の外に向って歩き出しながら言った。
「それじゃあ実習しようか、外に行こう」
俺は立ち上がりナビと一緒に神殿の外に出て近くの砂場に行った。
「では呪文を唱え、目の前の砂を集めて円柱を作るよ、見ててね」
「おう」
「砂よ円柱になれ!」
ナビが砂に命じると目の前の砂が盛り上がり瞬く間に砂の円柱が出来上がった。
「砂の円柱よ、もとに戻れ!」
今度は砂の円柱がもとの砂場に還った。
「おおぉ、すごい」
「今は呪文詠唱でやったけど、もちろん無詠唱でもできるよ」
ナビが口を閉じ目で、やるよと合図した。
すると再び砂が集まり円柱を作る。一間おいてまた砂に戻る。
「という感じになるよ」
「なるほど、魔法って初めて見るがすごいんだな」
「はい、では実際にやってみようか」
「おう、わかった」
とにかくやってみよう。俺は砂場に座り目を瞑った。
ナビが強制力の発動を覚えさせるために俺に触れてサポートしてくれる。
目の前の砂を集めて、直径30cm、高さ1mくらいの円柱が出来ることを想い描き、イメージを押し出した。
俺の体から何かが抜けた。
ゆっくりと目を開けると、目の前にイメージした通りの砂の円柱ができている。
「おおぉ、俺できたよ」
「できたね、あとは練習あるのみ、がんばってね」
これでナビ先生の授業は終了らしい。
ナビが見守る中、俺は魔法に慣れるために、一人で砂の円柱を作っては崩し、崩しては作ってを繰り返した。自分の命令によって砂が集まっては円柱になる様はとても不思議な光景だった。
あとでかっこいい呪文を考えておこう。
◇
土魔法の訓練中に幾つか気が付いた点があるのでまとめる。
・出来た円柱は魔力が無くとも、そのままの姿を保持する。これは魔法で作ったものは、そのまま使えるってことだ。
・魔法発動後、そのまま魔力を注ぎ込むことができる。
・魔力注入を止めると通常の物理現象に支配される。これはゴーレムを作った際、魔力を流している間は可動していたが止めたとたん自重に負けて足が壊れた。魔力そのものが素体強化もしているようだ。
・土魔法は鉱物を含めた土壌に対する魔法になる。これは砂鉄など集めて固めることはできるが鉄の製錬は別魔法となる。
とりあえず、わかったことは以上だ。
◇
「はっ!」
俺は砂場で寝ていたようだ。上半身を起こし周りを見渡してもナビはいない。
いつもまにか夕暮れになっていた。
練習の途中で気を失ったようだ。これが魔力切れというやつか? これは、とてもやばい。気を失った後に襲われたら終わりだ。どの程度、魔力を使ったら切れるのを把握しておかないと。
それにしてもナビはどこにいったのだろう。怠い体に鞭打って立ち上がりナビを探しながら池の方に歩いた。
「ナ、ビー」
大声で叫んだものの返事はない。
池に着き顔を洗ってスッキリとした。
『サブロー、起きたね』
声は頭に中にあるもののナビの姿はどこにもない。
「ナビ、心配したぞ、どうした? 出てこれないのか?」
これは幽霊に対するセリフだよなと思っていたら光の粒子が集まりだしナビの姿になった。現れ方格好いいなナビ。ナビってリッチ系アンテッドじゃないよな?
「ごめんごめん、言い忘れがあったよ」
髪の毛を人差し指でクルクル丸めたりしならがらナビが誤ってきた。
「私、出現中はサブローの魔力使っているんだよ、微々たる魔力だけど魔力切れ起こすと私消えちゃうんだ、魔力切れたときは居ないから、しばらく現れるまで待っててね」
了解、待ちます。待たせて頂きます。まだ短い時間しかいっしょに過ごしていないがナビが居なくなったら俺挫けるよ。いっしょに居てくれる人ってのは大事なんだな、家に帰ったら家族、友人達ともっと話することにしよう。
「よし、今後の短期計画を整理するぞ、まず目的は北にある村に行くこと、つぎに手段は徒歩とする、最後に課題はたどり着くまえに食糧が無くなり動けなくなるリスクがあることだ」
「そうだね、チャレンジだね、ちなみに私は何も食べなくても平気」
そりゃそうだ。ナビさん脳内映像だもんね。でも、ひょっとしたら普通に食事できるんじゃね?
「そこでリスクを回避するために魔法で乗り物を作ろうかと思います」
「わぁ」
すごーいと言いながらナビが胸の前でパチパチと軽く手を叩く。
んー、ナビに作ってもらうつもりなんだけど……
「それではナビ先生お願いします」
俺はナビに一礼し右手を地面に伸ばし何か出してくれとポーズをした。
「えー、私、魔法使えないよ」
「なんですと!」
「えっ!」
まさか、ナビの魔法の全てが脳内映像だったとは! これが孔明の罠ってやつか?
俺は魔法の訓練も兼ねて乗り物を作ることにした。
まさかナビが魔法を使えないとは!
次回、魔法の乗り物




