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049 なんか、やり残しがあるような

 ◇


 俺たちの出発は3日後になった。俺が移動に耐えられないと判断されたからだ。

 俺は丸坊主で髪はない。帽子を巻いているので、外見ではわからないが。体はガリガリになって自力で歩くこともできない。何とか立っているだけで精一杯だ。


 しかし、代わりにラズリは、身長が頭半分ほど伸び、平だった胸も膨らんでいる。年相応の体型になり、もう、幼かった体型ではない。

 そして、俺は吸い込まれそうな碧眼に見つめられている。


「サブロー兄、食べる」


 もぐもぐと咀嚼している俺の口に、食い物を押し付ける。

 ラズリさん、まだ呑み込んでません。無理無理。


「サブロー、サーナバラに早く戻らないと、バレンナが心配だよ」

「サブロー兄、早く、食べる」

 ぐいぐいと俺の口に食い物を押し付ける力が強くなる。


 これ、なんの罰ゲーム?

 俺だってバレンナが心配だよ。


 パオースの町からの運ばれてきた手紙には、友達を助けるためにバレンナがオドンと一緒に王国へ旅立ったと書いてあった。


 なぜ、バレンナの友達が窮地に立たされたのか?

 なぜ、バレンナが助けることが出来るのか? オドンではダメなのか?

 なぜ、王国なのか?

 その謎はわからない。手紙は旅立ったという連絡なのだ。危険はないのだろうか? とにかく、サーナバラに戻らないと。


 まずは、体力だ。

 俺はぐいぐいとラズリが押し付けてくる食べ物を口に頬張った。


 ◇


 ガタゴト、ガタゴト。

 二頭立ての馬車は進む。荷台に商品を積んで。


 荷台の商品箱の隙間に寝ている俺の目の前には、ガンオのおっさん、その横にはコネロド商会の番頭、御者台には丁薙ともう一人の護衛。


 おっさん率高けえな、っていうかみんなおっさんじゃねえか。潤いが足んねえよ。


「おっ、起きたか?」

 目が覚めて半身を起こした俺に、ガンオのおっさんが声をかけた。

 俺は暇すぎて商品箱の隙間で寝ていたのだ。


「あれ、ナビとラズリは?」

「ふたりなら馬に乗っている。ナビさんがラズリちゃんに乗馬を教えているんだ」


 心なしか、ガンオのおっさんの目が腐っている。

 ははーん、さては、ガンオのおっさんがラズリに乗馬でも教えるぞとか言って断られたな。その上、ナビに教わるとか言われたに違いない。


 ラズリは目が治って背も伸びて、美少女にバージョンアップしちゃったから。

 もともと、美少女の素質があったが貧乏のせいで、単なるガリガリでぼろを着た子供だったもんな。今じゃ、輝く金髪、神秘的な碧眼、たまにしか笑わない笑顔。天使だよ。


 いつか嫁に行っちゃうのかな。


「サブロー兄、この人恋人、結婚する」

 とか言ってきて、野郎がラズリさんを幸せにします、結婚させて下さいとか挨拶に来るのか。


「許さん、結婚したければ俺を倒してからだ」

 とか言っても、俺弱いしな。そうだ! 閃いた。


「許さん、結婚したければソルを倒してからだ」

 絶対負けないな。いやいや、勝ってどうする。こういうのは、親父が負けるからいいんだ。親父が負けて、娘がわざと負けたことに気がつき。

「お父さん、ありがとう、私幸せになります」

 そして、若いふたりは旅立つんだ。


「お父さん、寂しくなったわね」

 と母さんが、肩に手をかけて慰めてくれる。

「いや、これでお前とゆっくり暮らしていけるさ」

「お父さん」

 お父さんはお母さんの肩を抱いて家に入って行く。


 いい話だなぁ。


 あれっ、こんな話だったっけ?


 ◇


 ナビとラズリが乗馬の練習を終了し、馬車に乗り換えている。


「もっと練習したかったね、ラズリ」

「ん」

「そう言っても、盗賊が出たから危ないだろう。退治されるまで待ってれば」

「そうなんだけどさ」

「危ないのはダメ。ナビに唆されても危ないのはダメだよ、ラズリ」

「ん」

「あーひどい、妹差別だ、私のことも心配してよ、サブロー」


 心配するだけ無駄な気もするが……俺は良き兄だ。

「ナビも気をつけるんだぞ(棒)」

「……」


 本当は、サブローのバカーと言ってどこかに行きたい所なのだろうが、盗賊が出ている最中にその芸はやらない。みんな心配するからだ。


 ナビも空気は読む。ウズウズしているが。

 チラチラと俺を見て、やっていいかのサインを送ってくるが、俺はダメのサインを返す。

 うなだれるナビ。どこでそんな芸を仕込んでくるのやら。


 一応、レーダーで確認して心配する状況じゃないことはわかっているのだが。

 盗賊は少数で、今頃はガンオのおっさんの良い鬱憤晴らしになっていることだろう。


 なんか話題を投げてやるか。


「こっちの国って、結婚する年齢って若いのか?」

「えー、どうだろう、ラズリ知っている?」

「ん、定義」


 定義? そっか、何歳なら若いかってことか。


「何歳位で結婚するのかな?」

「25歳前後が一般的」

「おそっ! もっと早くラズリぐらいの歳で結婚するのかと思っていたよ、こっちの国では」


 俺の大声が聞こえたのだろう、御者台に座って周りを警戒している番頭が、ラズリの言う通りと言ってくれる。さらに、農村では比較的早く結婚するが、都市部では晩婚が一般的だと補足してくれた。

 そういえば、本で読んだことがあるぞ、安定は晩婚化を招くと。古くはローマ時代からの課題であったと。

 でも、人それぞれですよ。早い人もいれば、しない人もいる。と言って警戒に戻る番頭。


「じゃあ、当分、ラズリもバレンナも嫁には行かないか」

「ん」

「あらら、サブロー君は、ラズリもバレンナもお嫁さんに行っちゃたら、いやなのかな? もう、シスコンなんだから」

「……」


 な、なんと、俺はシスコンだったのか!

 びっくりした俺はナビをじっと見つめる。

「なによ、シスコン」


 ヤバイ、このままではいじられる。

 必殺、話題変換!


「それはいいとして、俺、なんかベリーグの町で忘れ物しているような気がしているんだよね」

「なに?」

「それがわからないんだ」

 ベリーグの町では、滞在の前半は治癒の代償で悩んでいたり、企みで奔走していたり、そして後半はグランマのサービスでほぼ食べるか寝ていた。


 なんか、やり残しがあるような。


 ベリーグの町といえば、海辺の町。

 海辺といえは水遊び。

 あっ、水着回を忘れていたよ。


 えっ、ナビとラズリは、コネロド商会のみんなと海へ遊びに行って来た! 俺の動けない間にだと。そういえば、ガンオのおっさんたちが日に焼けていたことがあったな、あのときか。


 俺も連れていけよ。見るだけで良かったのに。絶対、またこの町に来て水着回するぞ!


 でも、忘れ物は違うような……もっとこう、俺のチートに繋がるような……


「そうだ! 神殿だ、祭壇だ、魔法だ」

 神殿といえば祭壇、祭壇といえば魔法だ。魔法を覚えられたんじゃ。


 そういえば、そうだねって! 忙しくて忘れてた?


「そんなに忙しかったのか?」


 海行った、楽しかった、海産物食べた、美味しかったって、全部遊びじゃねえか!


 ところでさっきから、ナビとラズリは、もごもごとなに食べてんの?


 ほしいも? あっ、そう。




すっかり魔法取得忘れてました。ついでに滝の神殿に寄るのも忘れました。作者ではありません。


次回、(訪問者)師匠


投稿2ヶ月記念。本日1話目、これから2話目の準備します。21:00までにアップ予定

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