048 ラズリの治癒とサービス
◇
俺の中を他人の魔力が駆け巡る。出ていけ! と拒否したいところを必死で我慢する。
やがて俺の体の一部が消失するのがわかった。
「どうだい、見えるかい?」
「ん、見える、問題ない」
「そうかい、上手くいったみたいだね」
グランマがラズリの右目を覗き込んでいる。
良かった。ラズリの目が治ったよ。俺の目から苦労の汗が……
左目を布で隠して、右目の具合を見ているラズリに声をかける。
「ラズリ、俺が分かるか?」
ラズリの瞳は綺麗な青色をしている。瞳孔が動いて俺に焦点があたる。
「禿げのサブロー、いる」
「そうだ、禿げのサブローだ。良かった」
俺の髪の毛は代償だ。ラズリには申し訳ないが俺の髪の毛でラズリの右目ができた。
嬉しさのあまりラズリと抱擁しようと近づくが、ラズリは近づく分、離れる。
なんで、嬉しくないの?
ラズリはグランマに左目の目隠しを取ってもらいながら、なにやら話をしている。
俺はちょっとしたショックで聞こえなかったが。
「お前さん、そんな年だったのかい。あたしゃ、もっと子供かと思っていたよ、ちっこいから」
グランマはどうやら、ラズリの体と年が釣り合ってないのにびっくりしたようだ。
「ん、問題ない」
ラズリは気にしてないようだ。
今でこそ、肌艶が良くなったものの、まだまだ痩せている。バレンナもそうだが、早くふっくらとしてもらいたいものだ。
何気なく、グランマと目があった。すると、グランマは何かを思い付いたらしく、ニタァと三日月のような口で笑う。
ゾクゾクと寒気がした。
「あんた、ちょっと太ってないかい?」
俺をデブ扱いするな! これでも俺の国じゃ平均だ。たぶん……
俺が違うと言うと。
「そうかい、まぁいいから、ここに寝な」
と長椅子を指し示す。
まぁいいからって、何がいいんだよ。でも俺は年長者の言葉を聞ける若者だ。
俺は素直に長椅子に寝た。
すると、グランマはどこからか太い紐を取り出し、動くんじゃないよと言いながら、俺の体と長椅子を縛り付ける。
えっ、なに? 何が始まるの?
さらにグランマは、どこからか猿轡を取りだし、俺に口を開けなと迫ってくる。
それどこからか出した?
抵抗も虚しく、猿轡をはめられた。
そして、布で目隠しさせられた。
「……」
「ラズリもそっちの長椅子に寝な、これはサービスだよ、世話になったからね」
ラズリが長椅子に寝る音が聞こえる。
えっ、ラズリも縛られるのか、ドキドキ。
しばらく待ったが、そんな様子はない。少し残念。
「サブロー、お馬鹿」
「んぐんぐんぐ」
なんのことかな? と言いたかったが声にならない。
「それじゃ、ふたりともいいかい、いくよ」
なになに、ちょっと待った! 全然良くありません。
再び、他人の魔力が体に入ってきた。拒否しようと抵抗したが力が入らない。
「無駄無駄、お前さんがくわえた猿轡には、痺れ薬を染み込ませてあるからね。抵抗しても無駄だよ、観念しな」
ぎゃあ、改造されるぅ。
あんた、どこのマッドサイエンティストだよ。でも、改造するんだったら変身系で。
魔力によって体が融かされる。たぶん、芋虫が蛹になるときの気持ちがこれなんだろう。
ああ、とけるぅぅ。
俺の体は融かされ吸いだされる。
こんなの初めて、らめぇ。
永遠に融かされるのかと思ったが、そんなこともなく突然終わりを告げられた。
「終わりだよ、どうだい、痛みはないかい」
「ん、問題ない」
ラズリに問題はないようだ。隣で立ち上がる音が聞こえる。良かった。改造されなかった?
だれかが近づき目隠しを取ってくれた。ラズリだ。
「サブロー、大丈夫?」
「んぐんぐ」
「良かった」
大丈夫と伝わったのはいいけど、猿轡取って。
「治癒は終了だよ、若いの立てないだろうから、人を呼びな。わたしゃ、お腹が減ったよ」
と言い残し、グランマはどこぞに去った。
「ナビ姉、ガンオ、呼ぶ」
そして、ラズリも去った。
なに、この放置プレー。みんな戻って来て!
「きゃー、ラズリ、目が治ったの、よかったよ」
「ラズリちゃん、良かったな」
ラズリが神殿の外で待っていたナビとガンオに声をかけたようで、ふたりのお祝いの声が聞こえた。
「あれっ? ラズリ、大きくなった? 背が伸びた、大きくなったよね」
「そうだな、大きくなったな、背も胸も、いったいどうしたんだ」
ガンオのおっさん、さらっと言ったけど、それはセクハラだ。
「治癒のサービス」
サービス? とナビ。
みんなの声が大きく聞こえる。すぐ近くまで来たようだ。
「おっと、そうだった、ナビさん、手紙、手紙」
「そうだ、サブロー、サブロー、大変だよ、大変だよ」
俺はご隠居じゃないぞ、うっかり屋のナビよ。
衝立を横切りみんな部屋に入ってきた。
「……」
「……」
「サブロー、この大変なときに、なに縛られて遊んでんのよ、猿轡もして」
「サブロー、お前、そ、そんな趣味があったのか?」
そう来ると思ったけど、そ、そんなわけ、あるかぁと俺は絶叫した。みんなには、んぐんぐんぐんとしか聞こえていなかったが。
ナビ、お前絶対この状況楽しんでるだろ。目が笑っているのが証拠だ。
俺がもぞもぞと動いて、何とかしてくれとアピールすると、ラズリが長椅子の紐をほどいてくれた。
小さな声の感謝とともに。
「サブロー兄、目、ありがとう」
「んぐんぐんぐ」
どういたしまして。
ラズリの目が治りました。よかった。でも何か大変なことが起きました。
次回、なんか、やり残しがあるような と(訪問者)師匠 の二本立て
次回更新は、11/13(日)投稿2ヶ月記念 2話アップ予定です。