047 奴らには天罰を
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イチゴ好きのショートケーキの食べ方。
俺はイチゴから食べる。
という訳で、俺は早速、勝利条件を達成するため神殿に来ていた。
神殿前には武器防具を身につけた傭兵や冒険者たちが、たむろしている。
神殿前の道を通る者たちは、目を合わせず足早に通り過ぎる。
俺は神殿の中なので恐くはない。ナビとラズリは別行動だ。
「神殿とその敷地は俺が買います、払ったお金で神殿の孤児たちの引っ越しをします、ここまでは良いですか?」
金はある。ラズリの治癒費にと、大金を持ってきている。
神殿のおばさんは頷く。
「払ったお金で、信用ができ引っ越ししてもいいと思っている神殿出身の傭兵や冒険者を雇ってください、護衛料、全員の食事、移住先での当面の生活お助け費など全部込み込みで契約して無一文になってください」
また、こくりとおばさんは頷く。
傭兵や冒険者はもう集めているみたいだ。移住対象者は総勢40人にものぼる大規模なものになりそうだ。
「神殿は信頼できる人に管理をお願いしたいです、掃除や新たな孤児の受け入れとか頼むつもりです、あとで人を紹介してください」
うってつけの良い人がいるよ、と老婆。
「引っ越し先は、俺の領地です、移住した当面は面倒をみさせてもらいます、ですがゆくゆくは自立してもらうつもりです」
「大丈夫かしら」
「シスター、大丈夫ですよ」
俺は神殿のおばさんをシスターと呼ぶことにした。どう見てもシスターなんだよ。
「シスター?」
「ええ、尊い奉仕の志しを持った女性のことですよ、俺の国での呼び方ですけど」
「私がシスター?」
「そうです、貴女がシスターです」
詐欺師ぽいな俺。
私がシスター、私がシスターとおばさんは呟いている。
あたしにも何かないかい、と術者の老婆。
うーん、思い付いたのはグランマ。
どう説明したもんか。
「グランマでどうしょう、みんなのおばちゃんと言った意味ですけど」
「グランマ、いいじゃないか、気に入ったよ、こんどからグランマと呼んどくれ」
「わ、私もシスターで」
ふたりとも多少意味が違うかもしれないが、気に入ったみたいだからいいや。
「では、話を続けますよ、グランマにシスター」
頷くふたり。
「残った土地については少し売ってもらい、残りは借金の清算で放棄してもらいます、入った金はグランマに治癒募金として寄付してください」
「全部売っちゃダメなのかい?」
「全部売ったお金で借金を返して、神殿を運営できそうですか? シスター」
シスターは無言で首を振る。
「シスターの評判と今後を考えたら、全部は売らない方がいいです、神殿も残るので。一応、土地で借金精算という形になる事で、10年経ったら、また町に堂々と入れるみたいですよ」
「そうかい、それは良い話しじゃないか、じゃが、売った金をあたしに寄付したら文無しだろ、どうなるんだい」
「はい、無一文の破産ですから土地で借金を精算して町から追い出されます。孤児たちといっしょに引っ越しですよ、シスター」
下手に持ち金があっても借金で取られるだけだ。だったら将来投資がいい。
「はい、わかりました」
シスターは覚悟を決めた顔だ。
「グランマはどうしますか?」
「あたしゃ、沿海州の町々を巡るさ、気が向いたらお前さんの所にでも顔を出すさね」
「分かりました。それでは、これで勝利条件達成です」
俺はニンマリ笑った。
◇
神殿の借金は、どうやら土地の担保という借金形態では無いらしい。神殿のシスターへの信用貸というか寄付というか。だから土地は自由に売買できる。俺はそこに目をつけた。でも、買えたのは神殿の土地建物ぐらい。もちろん適正価格でだ。
俺の勝利条件の方はといえば、俺とシスターで懇意の商人を周り一坪地主になってもらう。借金証書と土地権利書の交換だ。商人たちは、もともと寄付のつもりだったのと、シスターの頼みならばと快く取引してくれた。取引の面倒な事務は、遅れて町入りしてたコネロド商会の面々にお願いした。
最後の仕上げに俺たちは噂を流す。いや、本当の事を誇張して話すだけだけど。
噂は、俺たち、神殿関係者、そして懇意の商人たちから一斉に流す。
噂はこんな感じ広める。
ナビ、ラズリ、神殿関係者はからは市民向けにこうだ。
神殿が破産する。
神殿の住民は町から出ていく。
債権証書を持っていると損しそうだ。
債権証書を買い集めている人間がいる。
懇意の商人からは商会の旦那たち向けにこうだ。
怖い女番頭は優秀だ。
あなたのため上司は優秀だ。
ふたりが競って債権証書を買い集めている。
ふたりが主導していることの印象づけだ。
町の多くの商会が誉めているので、ふたりも鼻高々に自慢することだろう。自分は優秀なのだと。
債権証書はふたりが集めるだろう。そして、神殿は破産。ふたりがどうやって虫食いだらけの土地を分配するのか楽しみだ。どう分けても、歪んだ倉庫しか立たないのだから。
神殿を食い物にする奴らには天罰を。
俺の、いや、俺たちのちょっとした嫌がらせの完成だ。
これで、海岸の男と飯屋の男に、少しは恩を返せただろうか? ラズリの治癒代償のヒントの恩を。
◇
数日後、怖い女番頭とあなたのため上司は、自分たちが先頭に立ち、部下を増員し債権証書買い取りに奔走していた。お互いのライバルに負けないために。
サーナラバの住民が増えそうです。そして、嫌がらせになったでしょうか?
次回こそ、代償の真相が明らかに。
次回、ラズリの治癒とサービス




