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045 最高だよ、俺の奢りだ。

 ◇


「はぁ」

 なんか、デジャブだよ。前回もため息を吐いていたような。進歩しないよな俺も。


 意気揚々と神殿に乗り込んだ俺は、意気消沈して出てきた。

 ラズリを連れてこなくて正解だったよ。また、がっかりさせるし、心配させるところだった。

 今日も俺は独り行動だ。ラズリはナビといっしょだ。


 ラズリには、ラブラブ笑顔のときみたいに、笑っていてほしいもんな。


 老婆の言ったことが、まだ耳に残っているよ。


 ◇


「おや、覚悟は出来たのかい、それにしちゃ、ひとりだね」


「ほう、聞きに来た、何をだい?」


「面白いこと言うね、若いの、嫌いじゃないよ、そういうのは、よし、それを代償に治癒してやろう」


「と言いたいところだが、あたしの術はそんなもんじゃ、かからないんだよ、残念さね」


「だから言っただろ、今のお前さんの代償が必要だとさ」


「嘆いても、無理なもんは、無理さね」


「若いの、帰るのかい、覚悟ができたらまた来な」


 ◇


 町をふらふら歩く。あてもなく歩く。いつの間にか飯屋の前だ。

 腹が減っては戦はできぬ。ふらふらしていても仕方ない。飯だ、飯。

 俺は飯屋に入り今日の日替りセットを注文し、飯が来るのを待っていた。


「「うまく、いかないもんだ」」


 声が重なる。隣のテーブルの髪の薄い男が、俺と同じ台詞を吐いたようだ。男は酒を飲んでいる。


「「なんとかなら……」」


 また、男と重なった。俺と男は視線を合わせる。


「どうも」

 俺がペコリと挨拶すると、男は杯を持ち上げ挨拶を返してくれた。

 俺も男も、相手に言葉を掛けたいのに掛けられず、まごまごしていると店員が飯を運んできて、俺たちを見て声をかけてくれる。


「お知り合いでしたら、こっちに移動しますか」

 男を見る。問題なさそうだ。

 俺が頷くと店員は、男の向かいに飯を置いてくれた。


「お互いに困った状況みたいですね」

「ああ、そのようだな、世の中うまくいかない事ばかりさ」

「そうなんですよね」

「若いのにそんなに困ることも、あるのかい」

「ありますよ……」


 俺は男に神殿に治癒に来たこと、そして代償が必要だと言われたことを話した。

 海岸での、デジャブだよ。


「そうか、お前偉いんだな、家族のために体を張って、それに比べて俺なんかよぉ」


 男は自分の身の上話を始めた。


 ◇


 男は倉庫商会に勤めていた。

 特に出世欲に(とら)われている訳でもなく、かといって不真面目という訳でもなかった。

 男は妻と子供たち、そして両親たちと仲良く暮らしていければ、それで幸せだった。


 ある日、上司の番頭に呼び出された。

 番頭は神殿の債権を買い集めなさいと言う。この上司は決して部下に命令はしない。上司自身が命令ではないと言う。では何なのかとは聞けない。聞いた者は降格だからだ。

 失敗は部下の独断専行、成功は上司の善き指導となる。


 上司は言う。

「あの神殿は借金で破産する。そこであなたが、債権を買い集め我が商会が主債権者になるのです」


 上司は主債権者になり土地を得て、新たな倉庫を建てるのだと言い、それが君の為だ、君の評価の為だと付け加える。

 この上司、すべては商会のため、組織のため、君のため、と言い仕事をする。

 例えば、休日に段取り強化と言って人を集め実地研修を行う。日常業務と何ら違いは無い。しかし、君たちの成長の為に行っていると言う。もちろん君たちの為に商会の場を提供しているのだから無給だとも。

 コストをかけないで業務をしているのだから、商会の旦那からの評価は良い。


 そして、意見を異にする部下には、こう言い降格させる。「見解の相違です」一言だ。


 男はどんな仕事でも淡々とやるさと言う。しかし、今回はやる気になれないと。なぜなら、男は神殿で育ち今の両親に縁があって引き取られたからだ。神殿は男の故郷なのだ。


 ◇


「俺も潮時か、両親からは農場を手伝えって言われているからな」

 男は酒を煽る。

「でもよ、俺は神殿を救いたいんだよ、俺が辞めて、次の奴が同じ事をしたら意味無いんだよ」

 この男は意外とおしゃべりで、俺が言葉をかける隙がもらえない。

「ああ、どうしたらいいんだ」


 独り言モードに入ってるよ、このおっさん。まあ、俺にも良い考えは浮かばないが。よし今だ。


「あのぉ、神殿で育った人たちの力を合わせれば、何とかなりませんか」

「……みんな、丁稚どまりだったり、冒険者だったりと、金がないんだ」

 男はテーブルにうつ伏してしまった。

「神殿はともかく、せめて、今の子供たちだけでも助けてやりてえなぁ」


「あのぉ」

「このままじゃあ、町を追い出されて、行くところがない、下手したら野垂れ死にだ」


「あのぉ」

「何か良い考えはないもんかなぁ、うぷ」

 おっさん、飲み過ぎだ。俺にも言わせろ。


「俺が商会を辞めて……」

 はい、三周目入りました。

 さっきから延々と同じ事を繰り返してんだよな、このおっさん。


「あのぉ、聞いて良いですか」

「なんだ、なんか良い考えがあるのか」

「いや、そうじゃないけど」

「なんだよ」

 一旦、テーブルから起き上がった男は、再びうつ伏してしまう。


「借金返せないと、町から追い出されるだけですか」

「そうだ、そういう決まりだ、破産は町を追い出される決まりなんだ、土地を取られてな」

「奴隷落ちとかじゃないんですか」

「それは、禁止されている」


 男は詳しくは教えてくれた。大昔、商人が大勢の人を騙して借金させ奴隷落ちさせようとした。騙されたと気がついた人たちは、徒党を組み商人を商会もろとも打ち壊してしまった。その事件以来の決まりだそうだ。

 返せる範囲で貸せってことかな。


「あぁ、もうダメだぁ」

 男は頭を掻きむしると、指には大量の抜け毛が絡まる。それを見て更に男は。

「あぁ、こっちも、もうダメだぁ」


 あーあ、あんなに毛が抜けちゃって。禿げるぞ、おっさん。


「こうなったら、俺が禿げても子供たちは、何とかしてやる」


「禿げても……」

「ああ、そうだ、俺はやるぞ」


「禿げ……」

「禿げで悪いか」


「……!」

「ん、どうした」


「おっさん、禿げ最高だよ」

「そ、そうか」


「ああ、禿げだよ、禿げ、禿げ最高!おっさん、ここは俺の奢りだ、いっぱい飲んでくれ」

「そうか、兄さん悪いな」


 俺とおっさんは、日が暮れるまで飲み食い続けた。




サブローは自分の寿命の一部を代償にできないかと老婆に言いました。ダメでしたけど。


次回、嬉しい話と面白い話



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ブックマーク、評価ありがとうございます。

俄然やる気が出てきました。

皆さんのお陰です。最近ちょっと凹んでいたので・・・

なお、髪はふさふさです。


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