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041 ほら、言わんこっちゃない

 ◇


 ほら、言わんこっちゃない。


「ダメだ、人手が要りそうだ」

 御者台にいたもうひとりの護衛の男が、馬車の下から言ってきた。男は馬車の不具合をみていたのだが、状態確認を終えると馬車の下から這い出してきた。


「町までもたないか?」

「難しいでしょう、軸と軸受けがやられています、どうします、近くの村まで行って人手を集めてきましょうか?」


 ガンオのおっさんたちの声が聞こえてくる。

 道中、走る馬車から異音がしたので馬車を止めて確認してたのだ。俺が不安な顔つきをしていたのだろう、ガンオのおっさんが、声をかけてくれる


「サブロー心配するな、こんなことも有ろうかと、二頭立てにしたんだからな」

 おっさん、どこの戦艦乗りだよ。


「番頭、悪いが馬車は一頭牽きにする。馬車は騙し騙し近くの村まで行って、修理が終わったら追いかけてもらいたい、町で落ち合うことにしよう」

「わかりました、町には誰が行きます」

「そうだな、護衛が誰も居なくなるのもな……俺と番頭になるか、番頭、馬には乗れるんだろ?」

「一様、あまり速くは走らせません」

「十分さ、早駆けじゃないんだから、歩かせるだけで」

 話がまとまったようで、ガンオのおっさんが俺たちの所に歩いてくる。


「サブロー、ここからは馬に乗っていくぞ。サブローが先に行くか、ナビさんが先に行くか選んでくれ」

 俺かな。俺しかないけど。


「ガンオさん、なんでどっちか選ぶのかな? ふたりともじゃダメ」

「ふたりともと言いたいところだか、馬がもたん、ふたりまでだ」

「じゃあ問題ないよ、ガンオさん、サブロー、ラズリ、と私でちょうど」

「だが、お前さんたち、馬の操作できんだろ。だから番頭とサブローか、番頭とナビさんかだ」


「えっ、だって私馬に乗れるよ」

「「えっ」」

 俺も一緒に驚いたのに、ガンオが怪訝な顔をする。

 いつの間に、本当に乗れるのか? 二人乗りだぞ。ナビ。


「二人乗りだが、大丈夫なのか?」

「もちろん、私に、任せてよ」

 腰に左手を当てて、右手の親指で自分を指すナビ。


 おしい、テンガロンハットがあったらカッコ良かったのに。

 しかし、お前どこでそんな事覚えてくるんだ。


「どうしました、準備はできましたが、何か問題でも?」

 馬車からの馬の切り離しと、馬具の取り付けが終わったこと見届けた番頭が話に参加した。


「番頭、予定変更だ。俺とサブローたち3人で先行する、お前たちとは町で落ち合おう」

「それは構いませんが、大丈夫ですか?」

 番頭が不安げに俺たちの顔を見る。


「ナビ、練習してみよっか?」

「あー、みんな、信じてないな、私が馬に乗れるって」

 俺がみんなの不安を口にすると、ナビは俺、ガンオ、番頭の順に指でさし非難する。


 はい、信じてません。


 よーし、みんな、良く見ててよーと、準備の出来た馬に近づくと、馬さんよろしくねとウインク付きで言葉をかけ、鐙に足をかけると一気に鞍に跨がった。

「「「おー」」」


 パカパカと歩み始めたと思ったら、疾走に変わりあっという間に姿が見えなくなった。

 暫くして戻ってきたナビは、どうよと自慢していた。

 やるな! ナビ。俺も馬乗れるようにこっそり練習しよ。カッコ良かったからな。でも、ナビが馬に挨拶したとき、馬が首を上下に動かしたのは、見逃さなかったぞ。


 ◇


「サブローとナビさん、俺とラズリさんだ」

「……」

「なんだ、不満か? だが、重さのバランスだ」


 わかっているんだ、体重の組み合わせでそれがベストだってことは。

 ああぁ、あのナビの得意気な顔が……


「ナビ、よろしく」

「さん、お願い」

「?」

「さん、お願い、し、ま、す」


 ぐぬぬぬ

「サブローは、私が馬に乗れないって思ってたんだよね、悲しかったなぁ私、兄にも信じてもらえない私、ああー、なんて不幸なわ」

「ごめん、ごめん、俺が悪かったよ。この通り謝るから、いっしょに乗せてください、お願いします」

 俺が頭を下げて謝ると、仕方ないなぁとニマニマしながら許してくれた。


「でも、サブローのためじゃないんだからね」

 ナビ、なんかのキャラ作成中なのか?


 ガンオのおっさんの言う通りの組に別れ馬に乗る。ナビが前で俺が後ろで、俺はナビの腰に腕を回してつかまった。


「番頭、あとは頼むぞ、町で落ち合おう」

「わかりました、お気をつけて」

「おう、出発だ」

 ガンオのおっさんとナビは馬を進めた。


「サブロー、変なところ触らないでよ」

「おう」


 なんだよ、ゴーレムって、こんなに柔らかくって、いい匂いがするのかよ。


 ◇


 馬車から馬へ、さらに速い速度での移動となった。

 盗賊に絡まれることもなく、魔獸に襲われることもなく、旅人や商人とすれ違ったり、追い越したり、休憩を挟みながら、ひたすら町への道を進んだ。


 尻が割れ跨が無くなって、何度目かのごめんなさいをしたころ、今日の野宿場所に着いた。

 ラズリが火をおこしていると、ガンオのおっさんが明日は町に入るぞと言った。尻が割れても頑張ったかいがあったのかな? 休もうよって言っても、みんな許してくれなかっただけだけど。馬の訓練は保留だ、馬に乗ることがこんなに大変だったとは。


 火を焚き、お湯を沸かしお茶を入れ、塩漬け肉を切って枝で刺し火で焼く。ワイルドだろ。

 まんま、西部劇映画だよ。憧れてたんだよなぁ、こんなところで実現できるとは。


 ◇


 簡単な食事を終えると辺りは真っ暗だ。焚き火がパチパチと鳴り、虫たちは羽音を奏でる。星は音楽に合わせて瞬いている。ナビはふらっと居なくなり、ガンオは少し離れた所に寝ている。前半の見張りは、俺とラズリとナビなんだけど。


 ラズリが星空を見上げている。俺は、ひとつの星を指差しラズリに語りかける。

「ラズリ、あそこに見える星を見てごらん、わかるか?」


「ん」

「あの星を、俺の故郷では、()の星って言うんだ、北の方角の目印になる星なんだ、この辺では何て言うんだ?」

「当番星、みんなを見守る星」

 ラズリも星を指差すが、ちょっとずれているような気がする。目のせいかな、まあいいか。


「当番か、ちょっと可哀想だな」

「平気、周りの星たちが歌ってる、いっしょに歌ってる、星の瞬きは歌」

「ほんとだ、瞬いてる、綺麗なもんだな、青いのやら、赤いのやら」


「サブロー、星に色がある訳、知ってる?」

 ん、なんだったけ? 大きさ、重さ、温度か?


「なんだろう?」

「星の色の訳、教える?」

 俺が教えてほしいと頼むと、ラズリはポツリポツリと話始めた。

 村に来た老商人のこと、お父さんお母さんのこと、星の神話のこと。ラズリの思い出を。


 ◇


「そっか、それで星は色を持っているんだな、ラズリありがとう、教えてくれて」

「ん」

 俺は、ラズリの話を聞いて、絶対目を治さなきゃと思った。


「そろそろ、交替かな、ガンオのおっさんを起こしてくるよ、ラズリは先に寝てていいよ」

「ん」


 ガンオのおっさんを起こし、ラズリの寝ている所に戻るといつの間にかナビが戻って寝ていた。

 ナビを仕方ないやつだなと思いながら、俺も横になった。


「サブロー?」

「ん、なに」

「……ありがとう」

「ああ、おやすみ、ラズリ」

「ん」


 虫たちの鳴き声だけとなった。



明日には沿海州の町に着きそうです。焚火はみんなを暖めます。


次回、(閑話)ラズリの神話

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