004 義妹
◇
『あなたは、ゲスト登録されました。』
どうやら俺は、ゲストというものに登録されたようだ。
「すみません、ゲストとはなんでしょうか?」
『権限がありません』
「えっ! それは答えられないということでしょうか?」
『権限がありません』
「……」
内容はともかく、何者かと会話ができるようだ。頭に直接響いているこの音は、何らかの音波機器なのだろうか? どこの国のエージェントだろうか?
「あなたはどちらさまでしょうか?」
『論理回路です』
「あのぉ、論理回路とは名前でしょうか? 苗字が論理で名前が回路さんとか」
『いえ、ただの論理回路です』
「……」
「ここは地球でしょうか?」
『権限がありません』
「……」
「この場に姿を見せて頂くことは可能でしょうか?」
『可能です』
「では、姿を見せてくださいお願いします」
『どのような姿が希望ですか』
「えっ?」
「……どういう意味でしょうか?」
『具現化する姿は、カスタマイズ可能です』
「……」
「あっ! それは、性別、年齢、身長体重、肌・髪・目の色、声、胸の大きさ、ツンデレ具合などの設定をお願いできるってことですか?」
俺は興奮して早く口でまくし立てていた。いろいろな妄想が浮かぶ。
『……可能です』
「おおお、じゃあ、16歳くらいの女性、設定は妹で、髪の色はぎんい、いや銀色と桜色を足した銀桜色でお願いします。それから肌は白い方がいいです。顔はほっそり丸顔で、瞳の色は緑で、それからそれから……」
◇
神殿の祭壇に光が降り注いでいる。
ダイヤモンドダストのように祭壇の周囲が輝いている。
祭壇には少女が腰掛けている。
少女は若草色のワンピースを身に着け、古代ギリシャサンダルを履いている。
銀桜色の前髪は、眉の少し下あたりで切りそろえてあり、後ろ髪は肩よりすこし長いぐらいだ。
すらっとした首や顔は、白磁のように白いが、頬はわずかに紅い。
口は大きくもなく小さくもないが、鼻が高く目のほりも深い。日本人に比べれば……
緑色の瞳が俺を見つめている。
「これで、どうかな?」
声は大好きなアニメ声優さんと同じだ。
俺は軽く空を見上げ目を閉じ、拳を握り腕だけでガッツポーズをした。
最高です。異世界来てよかった! ひゃっほー。
目の前にいる少女は、不思議そうな顔を少し傾け俺を見つめている。
「ん?」
俺は、メドゥーサに見られ石化した古代人のように固まってしまった。
目の前には白磁の人形がいる。いや、良く見ると細かな産毛がある。柔らかそうなほっぺただ。
「そんなに見詰められると困るよ」
少女は頬に紅を差す。そして目を伏せる。石化が解除された。思考を回復した俺は、少女に追加でお願いしたいことを思い出していた。
「もう少し、お願いしてもいいかな?」
◇
3時間後。いろいろな設定の追加注文をお願いして出来上がった少女が目の前にいる。
感無量だよ。萌え尽きたよ。
名前はナビとつけた。決してナビゲーションからではない。
「ナビは、神様なのか?」
「違うよサブロー、論理回路だよ、見えている姿は端末だね」
うん、よくわからん。
俺の名前は三郎。ナビには、サブローと呼んでもらうことにした。
ナビの説明によると、見えている姿は物理実体として存在しているわけではなく、俺の脳に存在としての情報を電子信号として送りつけた結果、俺が存在として認識しているだけのようだ。
ナビの頭を撫でてみる。さらさらの髪の感触が手に伝わってくる。くすぐったそうに照れたナビが可愛い。俺もにやけてしまう。これを第三者から見ると、男が何もない空間をなでてニヤニヤするという情景となっているようだ。
「ここは地球じゃないんだよな」
「ひみつ」
答えてくれないけど、可愛いじゃねーか。
「設定追加いいかな、普段はサブロー呼びでいいだけど、ランダムでおにいちゃんって呼んでほしいです」
「おにいちゃん、了解」
早速答えてくれる。いい娘だ。たまに、にいさん、アニキ、兄上、兄様などに変えてもらおう。
「人は近くにいないのかな」
独り言のような俺にセリフに、ナビが答えた。
「50Km北に人の村があるよ、人数はそんなに多くないけど」
「村、知っているのか?」
「ううん、知らない、わかるだけ」
「……知らないのに、わかるだけって、どういうことだ?」
「ナビは端末だから、論理回路の情報検索が可能なの」
端末、論理回路……いまいち、よくわからん。ん? 端末に名前をつけたのか? パソコンに名前をつけて大事にするようなもんか。よくわかった。
「そっか、じゃあこれからいろいろ教えてくれ」
「わかったよ」
いろいろ、ナビに質問したものの権限なしによる不回答も多い。ナビの情報をまとめると近くに原住民の村があるそうなので移動したらなにかわかるだろう。でも食糧も少ないので、すくにでも移動開始しないと途中で倒れるかもしれない。途中で食糧調達できるかな?
「あーあ、これで魔法でもあったら完璧なんだけど」
「あるよ」
「なんですと!」
「ここは土の神殿だしね、土の魔法があるよ」
ある所にはあるもんだ、こりゃ異世界確定か。魔法が使えるとなると夢が広がる。チートで無双してハーレム出来るのだろうか?
むふふ。
「はいっ、先生! お願いがあります。」
俺はぴしっと手を挙げて、ナビ先生にお願いをすることにした。
俺サブローです。義妹が出来ました。魔法もあるそうです。
ひゃっほー、異世界最高だぜ!
次回、ナビ先生の魔法教室




