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039 沿海州へ

 ◇


 コネロド商会の丁雉が帰って行く姿を見送りながら、俺はコネロドに相談していたことを思い出した。


 ◇


「コネロドさん、誰か腕の良い術者を紹介してもらえませんか?」

 俺は塩の売買でコネロド商会を訪れていた。


「……ラズリさんのことかな」

「そうです、ラズリの目を治せないかと」

 さすが、大商人だ。いろいろな魔法の術者がいる中で治療とわかったみたいだ。これが大商人としての才覚なのだろう。


「病気や体の欠損部位を治す術者がいると聞いたことがあります、時折、沿海州の町に現れて術を施しては、ふらっと消えると」

「良かった、やっぱりそういう術者がいるんですね、紹介いただけないでしょうか?」

「申し訳ないが、沿海州の町の懇意にしている商人ならば紹介できるが、私も知らないのだよ」

「十分です、是非、紹介してください」


 俺は、コネロドに頭を下げてお願いした。


 ◇


 沿海州の町に行くコネロド商会の買い付け馬車に便乗させてもらうことになった。

 治療の術者が、いつ、ふらっと居なくなるかわからない。急ぎ沿海州の町まで行くには馬車しかなかった。


 うむ、3人か。

 ラズリと俺は決定で、あとはナビかな。

 ソルとホスバは間に合わないか。

 バレンナが泣くかな。


 ◇


「ラズリ、良かったね、あまり変な物食べてお腹壊さないようにね、ナビ姉さんとは違うんだから」

「ん、大丈夫、変な物あんまり食べない」

「私だってお腹壊すことぐらい……ないかも、ガク」

「……」


「沿海州は暑いって言うから、帽子は薄手の生地のを持っててね、水もこまめに飲むのよ」

「ん、水飲む」

「私がいっしよだから大丈夫だよ」

「……」


「とにかく、気をつけて行ってきてね」

「ん」

「どんな串焼きあるかなぁ、お土産どんなのあるかなぁ、たのしみだなぁ」

「……」


 あら、あららら、バレンナが泣かない。

 バレンナ成長したんだな。あんなに泣き虫で、ひとりは嫌だって言っていたバレンナが。グス。

「サブロー、なに泣いてんのよー、バレンナと離れるのがそんなに寂しいの? もう、お子様なんだから」

 そんなんじゃねえよ。


「サブローにい……」

 バレンナが頬を微かに赤くし潤んだ目で、俺を見つめる。

 ああぁ、違うと言えないよ、俺。


「寂しくなんかないんだからな、プイ」

「サブローにい……」

 ああぁ、なにやってんだ、俺。


「なにやってんのよ、サブロー」

「お馬鹿」

 ナビとラズリのため息が聞こえた。バレンナには、ふたりのぼやきが聞こえなかったみたいだが。


 あとで、バレンナに怒られました。

 私もラズリの目が治ってほしいと願っている。私はラズリのお姉ちゃんなんだから、自分より可愛い妹を優先するのは当たり前だ。なんでサブローは私が我が儘言うって思うのよって。


 最近、サブロー兄になっていたのに、サブローに逆戻りです。残念。


 ◇


 出発の日の朝、コネロド商会の店先に着くと、すでにコネロドとガンオのおっさんが待っていた。


「おはようございます、コネロドさん」

「おはよう、サブロー君」

 ナビもラズリも、交互にコネロドと挨拶を交わしている。ありがと、と言ったラズリの声が聞こえた。

 コネロド本人が見送りに来るとは思っていなかったのでびっくりだ。コネロドは、ナビとラズリに気をつけて行って、無事で帰って来なさいと言っている。


「サブロー、沿海州までは俺が案内する、よろしくな」

 ガンオのおっさんと、握手をしてお互いの肩を叩きあう。そしてガンオは、心配するな必ず間に合うように俺が連れてってやると言うと、自分の胸をドンと叩いた。

 ありがとう、ガンオのおっさん。


 コネロド商会の幌のついた馬車が店の前で止まった。馬車は二頭立ての速さを重視した装備だ。御者台には二頭の手綱を握った商会の男と護衛らしき男の二人が座っている。

 馬車の中から現れた男はコネロド商会の番頭のひとりだと挨拶してくれた。彼らは沿海州まで同行する頼もしい男たちだ。

 番頭はナビとラズリにも挨拶している。


 馬車に続いて丁雉が一頭の馬を引いて来て手綱をガンオに渡した。

 ナビは馬車が珍しいのか、馬車を見て廻っている。ラズリは番頭に案内されて馬車の中に入っていった。


 俺は、何かおかしいことに気づいた。普通の買い付けでは、道中の安全のために多数の護衛を連れていくものだが、護衛の姿が見えない。

「コネロドさん、護衛が少なくないですか、俺が見たことがあるのは、歩きの護衛が5、6人付いていたと思ったんですが」

「これで、いいんですよ」

「でも、沿海州での買い付けなんですよね、大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ、彼らは商会の人間です、素人ではありませんよ」

「でも、これじゃまるで、俺たちのために……」


 これは俺たちのために馬車を用意してくれたのだ。護衛を少なくしても沿海州に早く着くように。馬車と馬の組み合わせを。自分たちの安全を犠牲にして。


 コネロドを見る。コネロドが頷く。

 ガンオを見る。ガンオが頷く。

 番頭を見る。番頭が頷く。

 御者台の男たちが笑顔て親指を立てる。


 俺は、深々と頭を垂れた。


「さあ、出発しましょう」

 番頭が声をかけると、ナビを馬車に乗せる。

 ガンオが馬に跨がり、コネロドに声をかけて馬車の前に出た。


「サブロー、早く乗りなさいよ、出発だって」

 ナビに声をかけられ、俺は馬車に乗った。


 ◇


 町の東門を抜けると馬車が止まった。どうしたと思って幌から顔を出すとバレンナが道にいる。サーナバラの村人たちがいる。

 見送りはしないって言っていたのに。


「ラズリ、気をつけてね」

 バレンナが声をかけると、村人たちも我先にと声をかけてくれた。


「サブローさん、ナビさん気をつけて」

「ラズリのこと頼みます」

「ラズリ、よかったね」

「気をつけて行ってくるのよ」


「みんな、ありがとう。残るバレンナを助けてやってくれ。じゃあ、行ってきます」


 馬車がゆっくりと進みだした。

 バレンナも村人も手を振ってくれる。俺たちも手を振る。お互いの姿が見えなくなるまで。


「行ってきます」


 俺たちは、沿海州へ向けて旅だった。



沿海州へ出発しました。目指すはベリーグの町です。


次回、まだまだ、やるわよ

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