036 楽しい領地開発
◇
さて、楽しい楽しい領地開発の時間だ。後ろで、詐欺っす、騙されたっす、ブラックっすと言う奴がいるが無視無視。俺だってブラックだと思っている。
今日も俺は石切場で土魔法を使い、石を切り出し、ゴーレムに小山の麓まで石を運ばせる。毎日毎日、石を切り出し運ばせる。月月火水木金金、石を切り出し運ばせる。
どこの軍隊だよ! 休みくれよ。
俺って領主なの?
◇
早朝、南端の村から来たオドンと村の男たちに、小山と周囲の湿地帯の開発計画を話ながら案内する。まだ、何もないので案内もすぐに終わるが。
「俺の領地は東西街道より南の湿地帯全てなんだ、小山を中心に東西10km、南北6kmぐらいの広さだ」
「意外と広いな、だが湿地帯では麦は育てられないぞ?」
「ああ、そこで、このコメカリの実を栽培してもらう」
俺はオドンたちにコメカリの実を見せた。ラズリが見つけた実を俺が米(仮)と呼んでいたら、いつの間にかコメカリとして定着してしまった。
「どうやって栽培するのか、わかっているのか?」
「いや、わからん、そこから実験してもらう。直蒔きがいいのか、苗床がいいのか、塩水選で違いが出るかとか」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、苗床? 塩水選?」
「後で教えるが、栽培の仕方で収穫量が違ってくるんだよ」
「コメカリは大変なんだな、俺たちは種を耕した畑に蒔くだけだぞ」
「コメカリは手間がかかる分、同じ広さの畑から取れる収穫量が麦の10倍になるんだ」
多分、米といっしょだったら。1km四方の畑で1000人分のコメカリが生産出来ると思っている。二期作が出来たらラッキーだ。
「10倍とは、す、すごいな」
オドンたちが驚いている。実際やってみないとわからんけどね。
「出来れば5年で栽培方法を確立してもらいたいんだ、その間はもちろん面倒をみるよ」
「5年間は領主のお前から面倒見てもらえるのか、そんないい条件聞いたことがないが大丈夫なのか」
「ああ、大丈夫」
違うんだ、いつ俺が居なくなってもいいようにしたいだけなんだ。ここで恩を売っておきたい。バレンナとラズリが幸せに暮らしていけるように。
もし、俺が居なくなったらナビとソルは俺の魔力が切れて消えてしまうかもしれない。
すると、バレンナとラズリの二人が残され領主となる。その時にふたりをみんなが助けてくれるように準備しておきたい。
今のところはいつ、帰れるのかわかんないけど。俺は出来るだけ早く家に帰って家族を安心させたい。
◇
「想像以上に大きいんだな、それに重い」
「ああ、俺も最初は岩かと思ったからな」
「これがカエルか」
オドンにカエルを見せ、改めてカエルで畜産をしたいことを伝える。
「当面は捕まえたカエルをオリに入れて、出荷調整したり自家消費することを考えているんだ、将来は交配、孵化から出荷まで出来たらいいなと思ってる」
「……」
「なんだよ、オドン、変な顔して」
オドンが変な物を見たような顔して俺を見る。
「いや、ちょっとびっくりしただけだ、そんなことを考える奴なんて初めてだ。それに俺たちが出来るか?」
「出来るさ、カエルのことは10年20年単位で考えるさ」
オドンと南端の村の男たちは神妙な顔をしている。村で説明したときと内容が違ってて移住したくないって思っているのかな?
「どうかな、オドン、移住は無理か?」
「いや、実はサブローの話はもっと漠然としたものかと思っていた。ここまで具体的とは思ってなかったぞ、どうだ、お前たち?」
オドンは村の男たちに訪ねる。村の男たちはオドンと同じ気持ちだと言ったり、頷いたりしている。
おっ、なんかいい感触だぞ。だが、ここで焦っちゃだめだ。
「時間はたっぷりある、じっくり考えてくれ。夕方になったら声かけるよ、家の前に居てくれ」
◇
ホスバといっしょに町に来ていた。ホスバの元雇い主に俺がホスバを雇い入れることを伝えるためだ。狭い町なので、一応ことわりを入れておくべきかと思ったからだ。
元雇い主に会って話しをすると、そんな使えない奴は既に解雇した、好きにしろと言われた。ホスバは終始俯いていた。
「元気だせよ、俺の商会に雇い入れたんだから、無職じゃないんだし」
町からの帰り道、静かなホスバに声をかけた。我ながら変な励まし方だなと思いながら。
「えっ、元気っすよ、俺」
「無理するなよ、なんだったら町に戻って飲み食いしていくか?」
「心配してもらって嬉しいっすけど、本当に元気っすよ。あの店を辞められて、せいせいしているっす、やったーって感じっすね」
「だってさあ、お前、店にいる間はずっと俯いていたから……」
「ああ、そのことっすか、店を辞められて嬉しくって顔がにやけるのを隠すのが大変だったっす」
「なんだよ、それでずっと俯いていたのかよ」
「そうっす」
ホスバの顔を見ても、悲しいとか、悔しいとかは読み取れず、清々しいほど平然としている。
意外と大物なのか? むしろ良かったよ。
小山の麓に着く頃には夕方になっているだろう。
町から小山の麓にある俺たちの拠点まではかなりの距離を歩かなくてはならない。町から小山の麓までの道は、西街道を歩き、南街道に左折して歩き、さらに石の道に左折したら北に向かって歩く、20km近くはあるだろう。泥まみれでも良ければ湿地帯を南に歩けば、すぐ小山の北側だ。
小山の麓の北側から町に道作れば1km超足らずだ。
町と小山をつなぐ新しい道については町の市議会にはもうネゴってあり、南端の村人が移住してきたら早速で作るつもりだ。町での売買が便利になるだろう。
「ホスバ、ちょっと真面目な話しをする、聞いてくれ」
「わかったっす」
ホスバのにやけ気味の顔が引き締まったのがわかる。同い年ぐらいに見えるから、遠慮なく言える。
「この話は、ホスバの胸の中だけに納めて欲しい」
「わかったっす」
「領地経営は、俺が居なくなっても、うまい行くようにしたい。バレンナとラズリが領主となっても、上手く回るようしたいんだ」
「……」
「だからお前を、商会の番頭兼領主家の家令として雇う、いいな」
「俺が、番頭に家令すっか?」
「そうだ、嫌でもやってもらうからな」
「……サブローさんは居なくなるっすか?」
「俺とナビとソルは、この辺の国の人間じゃないから、いつ追い出されてもいいように準備しておきたいんだよ」
「なるほど、さすが領主になるだけの人っす、準備万端っす、俺頑張るっす、領主様」
ニヤリ。
「というとで、番頭家令さんには、金銭管理、塩の販売、バレンナと領地経営の勉強、ラズリには商会運営の勉強、移住者の働き評価と賃金計算と支払、バレンナ、ラズリ、移住者への読み書きと計算の勉強をやってもらう、よろしくな番頭家令さん」
「えっ、えっ!」
「そうそう、まだ住み込みできる家が無いから、野宿か町からの通いでよろしく、頑張れよ」
「えー、詐欺っす、ブラックっす」
ああ、聞こえない、聞こえない。
そうだ、バレンナとラズリにも伝えておかないと、領地経営と商会経営の勉強してもらうよって。バレンナの涙目になる顔が目に浮かぶよ。
◇
「ただいま、先に温泉入ったわよ、サブロー」
「ありがとう、今日は悪いな、これから野郎どもで温泉行ってくるよ」
ナビたち4人が温泉から戻って来た。湯上がりで上気していて、とても艶やかだ。
オドンたちとホスバもみとれている。
「よし、俺たちも行くぞ!」
「どこにいくんだ、サブロー」
「天国さ」
「は?」
俺はオドンたちとホスバを連れて小山を登り温泉に案内した。温泉の入り方の作法を教え、俺は先に温泉の入った。
この辺の住民には入浴の習慣はない。ましてや人前で全裸になるのは敷居が高いのか、みんな恐る恐るだ。
俺は温泉に浸かりながら指示を出す。
「オドン、だめだ、帽子を取れ、みんなもだ」
なんで服は脱いだのに帽子は取らないんだ? オドンたちは仕方なさそうに帽子を取る。
「ぶつぶつ言ってないで、こんどは体にお湯をかけてそこの石で垢を擦り落とせよ、落としたらお湯で綺麗に流すんだぞ、綺麗になるまで湯船には入れさせないからな」
俺の監修で綺麗になった順に湯船に入れさせた。
みんな足の先から恐々入り、肩まで浸かったあとは強張ってた顔もとろけそうだ。
「どうだみんな、これが温泉だ、天国だろ」
ちょうど西の空は夕焼けで綺麗な赤に染まっている。
「ここに移住したら毎日、温泉とやらに入れるのか、サブロー」
「いや、だめだ」
「それは、ないっす、領主様」
そうだ、そうだとオドンたちも文句言う。
「ここの湯は、領主の館の一部になるから、新しい村に新しい湯船を作るよ、銭湯って新しい商売だ、どう商売するかはホスバに任せるよ、ラズリといっしょに考えてくれ」
「わかったっす、あとでラズリ様と相談するっす」
「おいおい、サブロー、俺たちもその銭湯って言う湯には入れるのか?」
「そうだな領民は無料で、外の人間は有料ってのはどうかな」
「なるほど、そういう商売っすね。イメージがついたっす、その線でラズリ様と話しするっす」
「俺たちは無料か、太っ腹な領主様だ」
「どうかな? 移住する気になっただろう」
俺は、移住しないと温泉は味わえないぞと最終判断をオドンに聞いた。
「サブロー、大丈夫だ心配するな移住は決定事項だ。ただ、見たかったんだ自分たちが移住する地を」
まだまだ、俺たちの領地開発は始まったばかりだ。
移住は決定です。ホスバも雇い入れました。
次回、新村の名前