033 質問、なぜ南端の村は移住を承諾するか
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南街道を南下する大きなトカゲがいる。トカゲの上に人が乗っているようだ。若い雌が3匹、若い雄が1匹。3匹はとても美味しそうだ。1匹は後悔するほど不味そうだ。だが、大きなトカゲには勝てそうにない、残念だが他の獲物を探すことにしよう。
◇
「サブローどう、こっちに来そう?」
「こっちに来たらどうしよう、私頑張るけど追い払えるかな?」
「大丈夫、たくさん練習してる」
「ソルがいないから、上手く出来るか不安だよ」
バレンナは短槍を握り締めた手が白くなるくらい力を込めている。ソルが居ないので余計に緊張しているのだろう。
ソルは卵といっしょに小山警備の留守番だ。最近は町の商人たちが何かを探りに来ているが、まだ温泉施設が見つかる訳にはいかない。
見つかると揉め事になりそうだもんな、公開は住民が増えてからだ。
俺は遠くを見ている。徐々にマークが遠退くのをずっと監視しているのだ。設定範囲からマークが消えたのを確認した俺は息を吐き緊張を解いた。
「大丈夫だ、ずっと遠くに行ったぞ」
俺の言葉でバレンナも短槍に寄りかかる。緊張を解いたのが分かった。
「緊張したよ、でもこっちに来なくてよかった」
「ん、よかった、トニーえらい」
ラズリの言う通り、相手は大きなトニーを見て後退したのだと思った。動物は自分より大きな相手は襲わないって言うし。
最近はみんなで戦闘訓練に参加している。身を守るぐらいは出来るようになろうを合言葉に訓練に参加しているのだが、ナビは私は応援でいいわよと、あまりやる気はないようだ。ただ、鉄扇が欲しいと言い出した。どこから、そんな情報を仕入れて来るのかはいつものなぞだ。
バレンナは前々からソルと一緒に戦闘訓練に参加している。戦闘指揮官の男がバレンナは俺よりも筋がいいと言っていて、猫可愛がりで訓練に付き合っている。俺の訓練のときとは全然違う態度だ。そりゃ、俺だって野郎より可愛い娘の方がいいのはわかるが。
名前なんかで呼んでやるものか! 俺の中では当分、戦闘指揮官の男と呼んでやる。
ラズリも訓練に参加したのだが、戦闘には向かないのがわかった。剣を振れば剣の重さで自分も回ってしまう。微笑ましく見ていられるが訓練はまだ早そうだ。たくさん食べて大きくなってからかな。
俺もたまに訓練に参加しているが、まだまだへっぴり腰だ。
◇
「大丈夫かな、俺たちの領地に来てくれるかな、断られたらやだな……」
「サブローうるさい、さっきから同じことばっかり言ってるよ、大丈夫だって」
「ん、大丈夫」
「だってさぁ、サブローが嫌だから行かないとかで断られたら、俺泣くよ」
「あー、それはあるかも」
「ナビー!」
「うそ、うそ、南端の村の人たちが移住の話を聞いたら移住するって言うよ」
「なんでだよ」
「サブロー、たまには自分で考えようよ」
なんだと、ん? 確かにあまり考えてないかも。どう考えたらいいものなのか?
んー、わからん。
「ナビ、ヒントくれ」
「仕方ないなあ、最初だけだよ、んーと、なんで南端の村は町から遠いのかな?」
南端の村が遠い理由?
そうだよな町から3日もかかるしな。確かにもっと近くに村を作ってもよかったのに……この辺から考えてみるか。
町の近くに村を作らなかった理由は?
・町が嫌いで遠くに離れたかった。
・農地や酪農に適さなかった。
・すでに村があった。ピンポーン!
そうだ、もともと南端の村以外にもたくさん村があったのかも。じゃあ、どうして南端の村だけになったんだろう。
村が無くなった理由は?
・盗賊に襲われた。
・疫病に襲われた。
・農業や酪農が出来なくなった。ピンポーン!
盗賊や疫病があったとしても南端の村だけ残して全滅する可能性は低いはず、であれば農業や酪農が割に合わなくなり、どこかに移住した可能性のほうが高いかな。じゃあ、どうして農業や酪農が出来なくなったかか。
農業や酪農が出来なくなった理由は、
・土地が痩せた。
・水が無くなった。ピンポーン!
農業と言ったら、まず水だ。なぜ水がなくなった?……乾燥か。
そういえば、ナビのいた神殿も卵を見つけたオアシスも砂漠の中だった。
そうか!
砂漠が広がっているんだ。この世界またはこの星の温暖化により、この辺の乾燥気候帯が広がっているんだ。
いずれ南端の村も砂漠に飲まれるのかな? まあ、その前に農業が出来なくなるか。
ということは、農業が立ち行かなくなる前に移住するはず、だったら俺たちの領地でもいいよね。
「サブロー、わかったみたいね、その顔は」
「ああ、正解は砂漠化だろ」
「サブローやれば出来るじゃない、オドンだったら見かけによらずって言うよね」
◇
「サブローその話に乗らせてくれ、俺たちも、いつかはと考えていたんだ、お前は本当にいいやつだな見かけによらず」
オドン、俺は帽子巻いてるよね。頭を出していたから見かけが悪かったんじゃないのか? なにが悪いんだよ。
南端の村に着いた俺たちは、オドンを訪ね領地を得たこと、そして移住して欲しいことを伝えた。もちろん稲作の実験やカエルの飼育のことも話した。温泉のことも話したがピンとこなかったようだ。温泉は体験しないと良さはなかなか伝わらない。
オドンは俺の肩をバンバン叩きながら話をする。痛いよ。
「サブローが領主ということになるのか?」
「一応、そういうことになってる……」
「なんだか、やる気のない領主だな、まあいい、税はどうなる?」
「税ってなに?」
「えっ?」
「えっ」
俺とオドンはどうも話が噛み合ってないようだ。ナビたちは俺とオドンの話し合いに飽きて他の村人たちへ挨拶回りに出掛けていて相談する相手もいない。
オドンと俺の認識を合わせるとイメージの違いが分かってきた。
オドンのイメージは生産した物の半分を領主に納める。その代わり領主は安全保障を確保するだった。安全保障は多岐にわたり、領地防衛、治安維持、裁判、疫病対策、飢饉対策などがあるそうだ。
博学だなオドン! 見かけによらず。
俺のイメージは領地を使って俺のやりたいことを俺の代わりに仕事としてやってもらうだ。もちろん労働や成果についてはお金を払う。でも出来た作物など俺の物だ。まあ、会社のオーナーが俺でオドンたち村人は従業員みたいなもんだ。俺には湿地帯以南の優先権があるから俺の斡旋で、村人たちに土地所有してもらって自作農家になってもらってもいいと思っている。
「そんな考え方もあるんだな、感心するぞサブロー見か」
「それじゃ、とりあえず村の人たちで自治会を作ってもらって、話し合いで進めるってことで」
オドンの決め台詞を遮ってやったぞ。まあ、もう慣れたから怒る気もないけどね。
「わかった、お前が戻って来るまで最初に移住するメンバーを決めておく、まずは大工に家畜の世話と稲作とやらの畑が得意な者たちだな」
「よろしく」
俺たちの領地に領民が出来そうだ。領民ゲットだぜ!
◇
俺とナビで塩の洞窟から塩をたんまりとトニーに積み南端の村に戻ってくると、すでにオドンと村人たちが待ち構えていた。
村人全員かと思うほどに人々に囲まれ礼を言われる。村の実情はそれほど厳しかったのだろうか?
「サブロー待っていたぞ、最初の移住組が決まった。でも話だけでは不安がある、まずは移住組の男衆と俺にお前の領地を見せてもらっていいか?」
みんなの視線が俺に集まる。その目には不安と期待が読み取れる。
「もちろん、いっしょ行こう、納得するまで見て感じてくれ」
「「「おー」」」「「「わー」」」
集まった人々から歓喜の声で、俺は泣きそうになった。移住が必要なのは理屈でわかっていたが、俺たちの領地に移住してくれるかについては、どこかに不安があったのだろう。
「よかったね、サブロー」
ナビの優しい声が染みた。
泣かすなよ。
南端の村の住民たちは、移住してくれそうな感じです。
次回、主の眷族




