表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/147

032 王国とナビ姫様

 ◇


 人生は岐路の連続だ。

 その岐路では何かを選ばねばならない。

 困難な道を選ぶ者、安易な道を選ぶ者、逃避の道を選ぶ者、道を選ばない者、そして、道を強制される者。

 その道の先に何が待っているのかは誰もわからない。喜びなのか、怒りなのか、哀しみなのか、楽しさなのか。


 俺はどんな道を選だとしても後悔だけはしたくない。しかし、ナビは言う。

 後悔、それも(いと)しき我が人生なり、なのよと。


 ◇


 ひさびさにみんなで、町で夕食を取っていた。周囲はガヤガヤと他の客で賑わっている。だれもが酒が入り隣人がどんな話をしてようと気にもとめないだろう。


「……という訳で、サブロー王国を作ります!」

 おいっナビ、どんな訳だよ! 強制かよ! それにそのネーミングは無しだろ。


「サブローがさー、どうしてもハーレム作ってキャハハ、ウフフ味わいたいって言うから」

 言ってねえし! ああ、バレンナとラズリの蔑む目が。

「俺はそんな事言ってないぞ、キリッ」

「じゃあ、サブローはハーレム()らないの?」


「俺は……はっ!」

 こ、これは罠だ。ナビの罠だ!

 必要と答える……バレンナとラズリから蔑まされる。

 不要と答える……男らしくないとナビから罵倒される。


 回答保留はどうか。いや、だめだ。男らしくないとナビから罵倒され、必要なんだけど言いにくだけでしょとバレンナとラズリから蔑まされる。ある意味ベストかもしれないが俺には褒美じゃない。


 ええい、ままよ!

「美少年のハーレムってのはどうだ!」

「「「……」」」

 ああ、3人の変態を見る目付きが……バレンナはちょっと席を離した?


(あるじ)は美少年が好きなのか?」

 ソルよ、真顔で聞くのは止めてくれ。結構キツイんだ。

 俺は、美少年なんか好きじゃねえよ。俺が好きなのは美少女と美人のお姉さんだよ! ……あと美幼少もありかも、そういえば最近、若い美人の奥さんなんかもぐっと来るときがあんだよな。人妻のあの胸と腰回りが……ってちげえって!


 えっと、何の話だったっけ?

「サブロー、真面目に考えなさいよ」

 何をだよ?


「領土は小山とその周辺、住民は5人。さて、ここでみなさんに質問です、足りないものは何?」

「俺への褒め言葉」

「野菜とパンかな」

「カエル肉焼串塩味」

「切れる剣」


「……あとは?」

「俺へのやさしさ」

「調味料と料理道具かな」

「トリ肉焼串塩味」

「踏ん張れる靴」


「……あ、と、は、?」

「やっぱり、俺への愛かな」

「釜を忘れてました、出来れば2つ欲しいです」

「サカナ焼串塩味、嫌い」

「主の魔力充填」


「バレンナの言う通りだ、釜はたくさん作ろう、美味しい料理をいっぱい作ってくれ。ラズリは好き嫌いしちゃダメだぞ、大きくなれないぞ、でも確かにサカナ焼は少し臭いんだよな、無理しない程度でな。ソルよ、まだ魔石が足らんの? 急には充填増やせないから、少しの魔力で戦う技を磨いてくれ……どったのナビ? 俯いて具合でも悪いのか? なんか体から黒い何かが出てるよ。そ、それ見覚えが……げばっ」


 ◇


 俺は夢を見ていた。

 アラビア風の王宮の広間に物語の一場面が織られた絨毯が敷かれ、柔らかい沢山のクッションにもたれ掛かり、所狭しと列べられた料理の数々を摘まみ、薄い布地の服を着て舞っている美女たちを見る。これが夢でなくて何だろう?

 美女たちの踊りが終わり、離れて行ってしまう。ああ、行かないでくれ美女たちよ。俺は手を伸ばして空を掴み目を覚ました。


「サブロー、起きた? さっきの続きの話をするよ。3人が言う通り足りないものは沢山あるわ、食糧、武器防具、店舗住宅など全てがね、勿論外からお金で買ってくることは出来るわ、でも私たちの王国で作れたらすごくない?」

 ナビの演説に3人はウンウンと頷く。

「そこで閃いたの、まず最初に王国民を作れば良いのよ。そして、いろいろ作ってもらうの」

 王国民を作るってソルじゃあるまいし出来ねえよ。


 そう知性を獲得したゴーレムはソルだけなのだ。俺たちはソルに続けとばかりゴーレムを作ってみるも、知性は持たなかった。何が違うのか、俺の武士忍者物語の内容なのか、ナビのレシピの順番なのか、バレンナが教えた商品の物価なのか、それはわからない。ただ言えることはみんな実験に飽きたということだ。そのうち知性を獲得する個体が現れるかもしれないが、それを量産することは今は出来ていなかった。


「ゴーレム作っても魔力がもたねえよ、それに簡単な命令しか仕込めないし、無理無理」

「違うよ、ゴーレムじゃなくて人、人を連れてくるのよ、そしたら魔力も必要ないでしょ」

 ナビさん、それって誘拐?


「ナビ、俺は人狩りは如何(いかが)なもんかと思うぞ。ソルがいればなんとかなると思うが……」

「何バカなこと言ってんのよサブロー。頼むのに決まってるでしょ、移住を頼むのよ、南端の村に」


 バレンナが、えっと驚き声を出した。

「バレンナ、ラズリはどう思う?」

「賛成」

 ラズリは躊躇なく賛成したが、バレンナは何かを心配しているようだ。

「バレンナは嫌なのか? それとも何か気になることでも」

「うん、嫌とかじゃなくて大丈夫かなって思うの、だって耕せる畑もないし家畜も飼える場所もないから」

「そうだなぁ、移住しても食糧が作れないと心配だよな、食糧を買ってばかりいる王国ってのもなぁ」


「大丈夫、これ作る、カエル飼う」

 ラズリは持っている肩掛けバックから小袋を出し、テーブルの上に中身を蒔いた。それは、小さな実だった。

「なになに、あっ、ラズリこれって鳥が食べてた実だよね、ずっと持ってたの?」

「ん、持ってた、いつか食べる」


 なんだこの実?一粒手にとり眺め回す。米粒よりも大きくてトウモロコシの粒より小さい。ラズリはまだ食べたことはないみたいだ。

「このへんじゃ、この実は食べないのか?」

 バレンナもラズリもプルプルと首を振る。

「どんな場所で、どんなふうに実が生ってたか教えてくれ」

「何? これすごい物なの」

 ナビも興味が出たようで、実を手の中で転がしてる。ころころ転がしていると実を覆っていた厚い皮が取れ、中から白い実が現れた。


「湿地帯の草の先っぽ、実のてった」

「コメじゃないけどコメだなこりゃ、ラズリ持ってるのこれだけ? もらっていいか?」

「ん、いい、まだある」


 俺は小皿を店から借り、コメの実をころころ転がして厚い皮をとり小皿に貯めていく。それを見ていたみんなが面白がって真似して手伝ってくれる。もともと少なかった実は全て皮を剥かれ小皿に乗せられた。片手の手のひらに乗るだけの量だ。白い実の表面を爪で削ってみたが渋皮も糠も無いようだ。洗わなくても無洗米のように食べられるかな?


「店に料理を頼んでくるよ、後の楽しみだな」

 と早速、店の厨房に行き料理を頼んだ。といっても鍋に実と適当な量の水を入れて煮るだけだけど。


「ラズリのおかげで農場の目処がついたな、あとカエルって?」

「「えっ?」」

「えっ?」

 ナビとバレンナは食事の手を止め、俺を何言ってんのって顔で見る。ラズリが自分の皿の肉をひとつフォークでぶすりと刺し、俺の目の前に掲げる。

「これ」

「これ?……え、えぇぇ、嘘!」

「サブローがいつも美味しい美味しいって食べてる肉ってカエルだよ。近辺の名物食材で安いんだよ、カエルは」


 バレンナがカエル料理のあれこれを説明しだした。確かに聞く料理は美味しかったが、カエルの肉だったとは。あれ! ちょっと待て俺が食べた料理には、実家で食べた鳥の骨付きモモ肉よりデカイのがあったぞ!


「カエルって、デカイの?」

「サブローも見たことあると思うんだけど、湿地帯に居るこのくらいの茶色の岩みたいな奴、知らない?」


 ……俺、知ってる。小山までの石道を作っているとき、湿地帯なのに結構岩がゴロゴロしてんだって思ってたんだ。あれがカエルなのか? だってあれ、バスケットボール3個分ぐらいあったぞ。


「子供たちのいい小遣い稼ぎなんだよ、湿地帯だから気を付けないといけないけど」

 バレンナが町の子供の小遣い稼ぎの仕方を解説してくれた。湿地帯であることやカエルが大きくて重いため、結構危険と隣り合わせなのだと。そして、10人程度で捕まえ町の料理屋や肉屋などに売る、よい小遣い稼ぎだと。


「そのカエルを飼うってことか? ラズリ」

「ん、そう」

「ラズリ、ナイスアイデアだよ、カエル肉焼串塩味美味しいもんね。サブローやるよカエル、どんどん殖やすよ!」

 殖やすよってナビさん、殖やし方知ってんの? 俺は知らないよ。試行錯誤でやっていくしかないか。


「食糧生産はコメとカエルの2本柱で進めていくとして、南端の村のみんなが引っ越してきたら住む家がないぞ、とうするんだ?」

「んー、じゃあ最初は大工さんに移ってもらって家作って、徐々に引っ越したらいいんじゃない」

「なるほど、いい考えだ」


 俺たち4人は、こうしたらどうだ、ああしたらどうかな、と王国建設について話をした。ソルは、なるほどとしきりに感心しながら料理を突っつくだけだったけど。

 当面のやるべき仕事が決まった頃、店員が煮えたお粥みたいなご飯を皿に盛って持ってきてくれた。


「おっ、結構いけるぞ」

 これは粒の大きいコメだ。俺が毒見を兼ねて試食したあと、みんなに勧めた。

「悪くはないわね」「美味しい」「味付きがいい」「魔力が少ない」と上々の評価だった。生産決定だ!


 ◇


「ところで、王様って俺なの?」

「何寝ぼけたこと言ってんのよ、サブロー以外やる人いないでしょ。ちなみに私はやらないわよ、やること決まってんのよ」

「バレンナ、王様やらない?」

「えー、無理だよー(涙目)」

「ラズリは?」

「いや、面倒」

「ソル?」

「われが王となったならば、主は皇帝か?」

「……俺、王様でいいです」

 でもなんか、国王って言われると威厳がありそうに聞こえるけど、王様って言われるとなんとなく間抜けぽっく聞こえるのはなぜ?


「ナビさ、なんで王国なんだ、この領地の広さだったら地主か地方領主って規模じゃない?」

「ダメよ王国がいいの、だって地主や領主じゃ、ナビお嬢様って呼ばれちゃうでしょ」

「ナビお嬢様じゃ、ダメなの?」

「ぜんぜんダメよ、王国だったら、ナビ姫様って呼ばれるのよ、ナビ姫様よ! いい響きでしょう」


 あのーナビさん、ひょっとしてナビ姫様って呼ばれたいから、王国作くろうって言い出したのかな?


 ◇


 バレンナとラズリの反対もあり、王国建設は却下され領主として領地建設する事になりました。バレンナもラズリも姫様って呼ばれるのはちょっと……ということでした。

 ナビの残念がる声は、食事処の喧騒に掻き消されたとさ。



王国は断念しました。ナビお嬢様になります。


次回、質問、なぜ南端の村は移住を承諾するか

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ