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031 (訪問者)待ってたわよ

 ◇


 お父さんもお兄ちゃんもずるいんだから。まったくもう!


 三郎の彼女が家に訪ねて来たらしい。お兄ちゃんはとても可愛くて活発な娘だったよと言い。お父さんは美人で優しい娘だったと言う。でも三郎の彼女って言うにはちょっと違うかもと口を揃えて言う。


 男の人は女性がちょっと可愛いといい人と言うから信用できない。

 私が会ってちゃんと見ないと! 彼女は日本育ちじゃないって言うから、とっておきを用意しちゃうんだから。


 早く訪ねて来てくれないかな。なびちゃん。


 ◇


 お兄ちゃんが家のお留守中に彼女から連絡があった。なびちゃんが数日間遊びに来る。

 なびちゃんが数日間お泊まりで遊びに行きたいって言ってくれて、お兄ちゃんがいいよと返事したんだって。お兄ちゃんナイスよ。じゃあ、準備しなきゃ。楽しみ楽しみ。


 私とお兄ちゃんがなびちゃんのお泊まりの話をしていたら、お父さんの耳が立っていたみたい。なんだか嬉しそうな背中。なびちゃんが遊びに来る日が待ちどうしいわ。


 ◇


「なびちゃん、ようこそ! いらっしゃい」


 お父さんの嘘つき、お兄ちゃんの嘘つき、なびちゃんってめちゃめちゃ可愛くて、めちゃめちゃ美人じゃない。これだから男の人の目は信用出来ないのよ。


「お母さん、こんにちは、私はなびと言います。三郎さんとは仲良くさせてもらってます。今日明日と泊まりがけでお世話になります、これからよろしくお願いします」

 ペコリとお辞儀するなびちゃん。

 あら、キチンと挨拶も出来るのね。いいわ、いいわよ、なびちゃん。私気に入っちゃった。お父さん、お兄ちゃん、なびちゃんは渡さないわよ私が貰うんだから。


「さあ、家に上がって、三郎ちゃんとの出逢いから話してもらうわよ覚悟してね」

「母さん、覚悟って」

「お兄ちゃんには渡さないわよ、今回は私のものなんだから」

「母さん、なびさんが困っとる、まずは上がってもらいなさい」

 お父さんも玄関まで出てくるなんて。もー、がるるー。


 ◇


 ウフフフ、三郎はホントに子供なんだから、なびちゃんに頼り切りじゃないの。なびちゃんはそんな事は言わないけど。私には分かる、三郎の言動が目に浮かぶわ。

三郎、頑張らないとなびちゃん、彼女に成ってくれないわよ。なびちゃんは今のところ全然その気が無いみたいだから。


「なびちゃん、お兄ちゃん、お父さん、そろそろ次行くわよ」

「車を出すから、準備が出来たら来なさい」

「お父さんお願いね」

「ああ」


「あの、お兄さん、これからどこかに出掛けるの?」

「お兄ちゃん、しー、秘密だからね」

「秘密だってさ、ごめんね」

「えー、ひどーい、クスクス」


 なびちゃん、びっくりしてくれるかな、よろこんでくれるかな、楽しみだな。


 ◇


 なに、この()、肌白っ、足長っ、スタイル抜群、みんながポカンと口を開けたまま彼女を見ているわ。 なび、恐ろしい()


 なびちゃんを温泉に連れてきた。今日はのんびりここでお泊まりだ。ゆっくり温泉に入って美味しい夕食をみんなで食べる、ああ、なんて幸せなんでしょう。三郎がいないのは仕方ないけど早く帰ってきなさい。


「お母さん、裸になりました。これからどうしたらいいの?」

「そこのゴムで髪をアップにしてて、私もすぐ服を脱ぐから」

 なびちゃんに見とれてたわ。不覚。


 ◇


「気持ちよかったわねえ」

「はい、びっくりです、ただのお湯と思っていたのに。こんなに気持ちの良いもんだとは侮ってました。初体験です」

「でしょう、温泉目当てで何回も日本に来る旅行客もいるそうよ」

「わかります、その気持ち。一度味わったらやめられないよ、家にもほしいなぁ」

「あったらいいわよね、ここの湯みたいな美肌の湯、つるつるになったでしょう」

「つるつる、すべすべ、つやつや」

 なびちゃんは、腕を擦ったり両手で首回りやほっぺを触ったり肌の感触を確かめている。若いから、さらに磨きがかかるわね。


 あらあら、あの男の人もなびちゃんを見てるわ。仕方ないか、浴衣を着たなびちゃんの可愛いもの。ほのかに紅く染まった肌、アップされた髪、香り立つようなうなじ、男の人って好きだもんね。


「お父さん、お兄ちゃん、お待たせ、お夕食を始めましょう、お兄ちゃんお願い」

 お兄ちゃんは軽い返事をして食事処の中居さんに夕食の配膳をお願いしている。


「お父さん、どうお、なびちゃん可愛いでしょ、美人でしょ」

「うむ」

「うむ、じゃないでしょ! 女の子をちゃんと誉めないと! なびちゃんにも生徒さんたちからも嫌われるわよ」


「うむ、か、……美人だ」

「もう、照れちゃって、お兄ちゃんは?」

「はいはい、なびは、とても可愛いよ」

「お父さんも、お兄ちゃんもありがとう、照れます」

「お兄ちゃん、はいはい、は余計よ」


 懐石料理もお酒も美味しい。会話も楽しい。でも、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。


 ◇


 早朝からなびちゃんと露天風呂に入っている。朝焼けがとても綺麗だわ。

「朝から入る温泉も良いものでしょう?」

「最高です。朝焼けもあんなに綺麗だし」


「なびちゃん、お願いがあるんだけど」

「なんでしょう?」

「今度、三郎に会ったら伝えてもらいたいのよ。失敗してもいいから頑張りなさい、いつも私はあなたの味方よって」

「わかったよ、会ったら伝える」

「ありがとうね」


 ◇


 また遊びに来るよと言ってなびちゃんが帰った。早くまた遊びに来るといいな。



ナビ  「サブロー、失敗してもいいから頑張りなさい、いつも私はあなたの味方よ」

サブロー「えっ」

ナビ  「だから、失敗してもいいから頑張りなさい、いつも私はあなたの味方よ」

サブロー「おう、わかった、いつもありがとな」

ナビ  「……」

サブロー「?」


サブローとナビたちが塩の洞窟と町を往復していたころのお話。


次回、王国とナビ姫様

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