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030 みんなで温泉

 ◇


「ああ、極楽極楽、気持ちいいぃ」

 俺は湯船に寄りかかり、満天の星空を見上げ呟いた。もう何にもやる気が起きねえぞ。これはダメ人間製造機だ。

 この世界には月がなく空気も綺麗だ。晴れ渡った夜空、天の川が空から降ってくるように明るく、宝石のように星々がキラキラと煌めいている。

「星もキラキラと綺麗だなぁ」


 温泉は夕方から湧き出し始めた。出だしのお湯は濁っていたので排水路に逃がし、きれいなお湯に変わったのを確認してから湯船に通し貯めた。俺はある程度湯船にお湯が貯まってから、洗い場に流れるお湯で簡単に体を洗い湯船にダイブした。

湯船は20畳程の広さで南向きで長細い、屋根もなければ垣根もない。もちろん脱衣場だってない! 大切なことだから二度言おう、屋根もなければ垣根もない。もちろん脱衣場だってない! そう遮るものはなにもない。俺は湯船に立ち上がり腰に手を当てワハハハと笑い声を上げた。


「ほんと気持ちいい~わ~」

 背中からナビの声がする。急いで振り向くとナビはとっぷりとお湯に入り、まとめ上げた髪の毛の上に白っぽい布を折り畳んでのせている。


 ナビ、おまえはどこの日本人だよ! どこでそんなこと覚えてくるんだ?

 まさか、本当は俺の頭の中を覗いて、笑っているんじゃ。

 はっ! じゃあ、あんなことや、あんなことがバレバレなのか? ぎゃー恥ずかしい。


 湯船を中心に石畳が敷き詰められ、ぽつりぽつりと光の魔石が置かれていて、幻想的な明かりになっている。暗闇の奥から白っぽい布で裸体の前を隠した三人が洗い場に近づく。足元は光の魔石でほのかに見えるものの膝から上には光が届かず星明かりでシルエットになっている。


 タメだ、見えない。なんてこった。


 洗い場のシルエットは、簡易の木の桶を使い体の汚れをお湯で流す。音がはっきり聞こえる。

「サブローあっち見なさい」

 と洗い場と反対側を指さすナビ。俺は渋々振り返り誰もいない方を見た。


 お兄ちゃん寂しいよ。いやチャンスはまだある。

 三人は恐る恐る湯船に入ったようだ。

 お兄ちゃん振り向いていいのかな。


「どう、みんな気持ちいいでしょう?」

「ん、なかなかいい」

「はじめて、こんなたくさんのお湯の中に入ったけど、びっくりするぐらい気持ちいいです。たんに熱いだけって思ってたから」

「でしょう、こんなに気持ちいいなんてびっくりだよね」

「ん、びっくり、でもまた入りたい」

「主、これはいいものだな。しかし、われは溶けてしまわぬだろうか?」

「大丈夫だよ、溶けないよ、気に入ったでしょ」

 温泉は好評のようだ。思い思い楽しんでいるようで、背中からパシャパシャお湯をかける音や笑い声が聞こえる。


「にしても、ソルは体はゴージャスね、サブローのこだわりが……」

 それは兄貴の好み。社会人となった今でこそやってないが、兄貴が高校生のときは部屋の壁や天井にとっかえひっかえ、ゴージャスなボディのお姉さん方のポスターが貼られていたものだ。

 俺の好みはナビに集めたしね。でもソルも好きだぞ。


「はい、羨ましいですよね」

 うん、そうだねバレンナ……。パシャ! お湯をかけられた。誰だ?

「われは、男の体のほうがよかった。これは戦闘の邪魔だ」

 えっ! これって? これってどこ?


 ソルのゴージャスなボディについては、サイズなどの指定はしたのだが、実際の生成では服を着たまま出来上がった。あれは絶対ナビによる視覚操作に違いないと睨んでいる。生成後すぐ着替えしてたからな。


「えー、そんな、ソルが男の人なのはやだな、ラズリもやだよね?」

 そうだね、俺もやだね。男の人より断然女の人がいい。いやまてよ、なにも人形にこだわらなくても良かったか? トニーの例もあるし。

「町で不便」

 そうだよな、人形でないと面倒ごとに巻き込まれそうって、ラズリなぜわかった? 胸はまだまだ薄いくせに。

「サブロー、失礼」

 ピシャッと後ろ頭にお湯がかけられる。バレンナは、なぜラズリが俺に話しかけているのか訳がわからず首を傾げていることだろう。ラズリさん、さーせん、密かに期待してるからな。


「うーん、ソルの柔らかいわね、バレンナもラズリも勉強のために触ってごらん、張りと柔らかさの絶妙な加減がいいわよ」

「えっ、いいの」

「問題ない、われもバレンナに触ったおりに、柔らかさの加減を学んでわれの体に生かしておる」


 俺は目を閉じイメージする。ソルが嫌がるバレンナの体を、良いではないか、良いではないかとまさぐるお奉行的な感じを。バレンナが嫌がりながらも顔を赤らめ、そこはらめーとどこぞに行ってしまう感じを。いいかも! これはこれでありだぞ、心のアルバムに保存だ。


「ん、柔らかい、こっち硬い」

 ラズリも触っているのか、いいな。俺にも触らせてくれないかな、揉まないから。


「サブロー、触る?」

「えっ、いいの?」

 いつも冷静な俺の心の声が、あまりの驚愕に声になってしまった。平常心平常心。

「いい、手こっち」

 俺は背中に手を伸ばす。かなり無理な態勢だが気にしない、大切なことは頑張る。指先が丸みがあるどこかに触れた。

 すこし硬いかな? 手のひらで触ろうとするとすーと逃げていく。ういいやつめ、ほれほれ、こっちへこんか!


「サブロー、手が変、引っ込める、こっちからいく」

 なぬ、そちらから来るとな。俺は寛大な男だ。こっちから行くのも、そちらから来るのも、どっちもウェルカムだ。


 俺の背中に何かが近づき触れる。

 おお、この背中に当たるまだ幼い少女の感触は……ちょっと固くないか? もう少し柔らかいものかと想像したんだが。ラズリなら仕方ないか、もう少し食べないとダメだぞラズリ!


 パシャっと後ろ頭にお湯がかけられる。ラズリの無言の抗議か?

「サブロー、やる、受け取って」

「えっ、ラズリまだ早いよ、もう少し……」

 俺の背中から離れて、横に来た物体を俺は知っている。このまだら模様の大きくて丸いやつは……


 卵じゃねえか! てか卵を温泉に入れて大丈夫なのか? 温泉卵になるんじゃ。


「なんかさ、その卵、温泉に入れたら喜んでるよね」

「ん、楽しそう」

 ナビとラズリがそう言うのであればいいけど、なんか釈然としないとはなぜ?

 お前はこれでいいのか? と卵を撫でながら問いかけてみたが、俺には楽しんでいるのか、悲しんでいるのかはわからなかった。


 そろそろ、みんなの方を向いて良いかな? ゆっくりと振り返ろうするとピシャッと頭にお湯がかけられる。ううっ、ダメなのね。


「みんな、これからはいつでも入れるぞ、好きなときに温泉に入ってくれ」

「それはいいけど、サブロー覗かないでよ」

「まさか、覗きませんよ、見くびらないてもらいたい、妹たちのはだか見て喜ぶような変態じゃない」

「そう、だったらいいけど、妹のときは覗かないけど、ソルのときは覗くなんてのもなしよ」


 俺はあまりにも納得いかないナビの言いように反論すべく、振り向くと立ち上がり言ってやった。

「当たり前じゃないか、覗かないよ」


 振り向くとナビとラズリは首までとっぷりと湯に浸かっており、ソルは湯船の縁に腰掛け涼んでいて、バレンナは湯冷ましのためか、ちょうど湯から立ち上がったところだった。


 ん? バレンナの目が徐々に涙目に変わっていくのは湯気のせいに違いない。

 ん? ナビの周囲の湯気が黒く見えるのも夜だからに違いない。

「野獣とか覗きとか心配だから見張りのために、俺もいっしょに温泉に入る、キリッ!」


「サブローのばかぁ」

 バレンナの叫び声とともに白いものが飛んできたと思ったら顔に当たってなにも見えなくなった。


 げぶっ、鳩尾に強烈な一撃をもらい俺は意識を失った。


 ◇


 朝、俺は小鳥に突っつかれて起きた。

 こら、そこは大事な所だから突っつくな! 手を振って小鳥を追い払った。追い払わないと逃げない小鳥とは、さすが異世界恐ろしいところだ。


 なんで俺は真っ裸で洗い場の石畳の上で寝ていたのだろう?

「……」


 あっ! やっと頭が目覚めたのか昨晩のことを思い出した。

 昨晩のことは妹たちの照れと思うことにして、俺はこの世界に来て始めての朝風呂を堪能したのだった。



入浴回でした。


次回、(訪問者)待ってたわよ

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